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人を運ぶとは、こんなにも大変なのか。
私は思い知った。
昼間だというのに光一筋すら入らない古い坑道。
今は廃坑になっていて、誰も居ない。
私はずっと引きずっていた荷物の両脚を一旦、下ろした。
夏の暑さは、この坑道の中だと、かなり和らぐ。
にもかかわらず私は汗だくで、スーツの下のワイシャツは濡れてヨレヨレになってしまった。
全ては、この荷物のせいなのだ。
私は足元の死体を見た。
ライトはポケットに入っているが今はつけられない。
死体の両脚を持って動かすには両手が必要だからだ。
暗闇に目が慣れてきて、何となく死体の輪郭が分かった。
中田という探偵だ。
私が雇った。
妻の不貞を調べさせるためだ。
妻とは3年前に友人の紹介で知り合い、すぐに結婚した。
私が40歳、妻が28歳のときだ。
私の家は祖父の代から事業を手がけ(この廃坑はまさに祖父が造らせたものだが)なかなかの成功をおさめていた。
石炭の需要が無くなってくると祖父は貿易会社を起ち上げ財を成し、父がそれを継ぎ、その次は私へと続いた。
自分で言うのも何だが、私は商才があった。
事業は順調で、妻には金銭面で不自由をかけたことなどない。
それなのに妻は私を裏切った。
最初は些細なことだった。
挨拶が適当になる。
眼をそらす。
呼びかけても返事をしない。