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異世界のんびり生活

冒険者と狩りとマシュマロ 異世界のんびり生活

作者: みやび

冒険者とは何か、といわれると本来的には狩人である。

魔獣ともいわれる強力な害獣たちを倒し、その倒した報奨金ととってきた皮や肉で生活するというのが基本である。

他には傭兵という部分もある。人族同士との紛争には手を出さないが、魔に染められたといわれる魔族との戦争には率先して戦う、ということをしてきた。


しかし、それらの仕事も今は昔。

魔獣退治は今でも多少依頼は来るが、数は非常に少なくなってきている。人族の活動範囲が広がり、魔獣たちもおいそれと人里まで降りてこないのだ。

魔族との戦争などそれこそ100年以上前の話になってしまった。昔は魔族といわれていた鬼族も悪魔族も妖族も、皆現在では人族の範囲に含まれるという条約が100年以上前に結ばれ、以降は魔族などいなくなってしまった。


現在冒険者というと、希少な資源を探す山師か、まだ残る害獣を退治する狩人か、それでなければ行政の下請けの雑務をするだけである。


この雑務というのが案外バカにならない。

雪かきやどぶ攫いをふくめた街の清掃からはじまり、警察の仕事も請け負っていて警らも行う。落とし物もすべて冒険者ギルドに届くし、迷子を捜すのもすべて冒険者ギルドだ。火事が起きた時に消火にも行くし、時にはお悩み相談まで行うのだ。

全部雑用だが何でもやるせいで、冒険者ギルドの権限は案外大きい。そのため、ギルドメンバーになるためにはそれなりにちゃんとした身元確認が必要なのだ。

基本的には、この街で育ったこと及び街の人2名の証人というのが身元確認の方法なのだが、他にもお偉いさんの身元保証があれば認められる。

認められるのだが……


「じゃあこれで!!」


この頭が軽そうな竜人少女が取り出したのは隣国の皇帝の勅令であった。

龍皮紙という超高級な、劣化しない紙に書かれているのは『本書の所持者を帝国第一皇女と認め、その身柄と責任を保証する』という文言及び、皇帝のサインと玉璽であった。内容は簡素であるが、帝国で一番形式を守った書類である。「パピィにもらったの~」とのんきに話すこいつが本当に帝国のお姫様、しかも下手すると次期皇帝だとはとても信じられなかった。


「所持者って、これ、奪われたらどうするんでしょうね」

「奪ったらその人が第一皇女だよ。強くないものは皇族になれないし、強さこそが皇族の証明だから。受付ちゃん奪ってみる?」

「結構です。私は自分の出自に誇りがありますから」

「おお、かっこいいー」


真っ白でぷにぷにしてそうなマシュマロのくせに、強さには自信があるらしい。あの脳みそまで筋肉なギルドマスターにも聞いたが、9割の確率で俺が負けるだろうとか言っていたし、その強さは本当なんだろう。私にはマシュマロにしか見えないが。ああ、マシュマロが食べたくなってきた。


「身元確認は十分です。それではアンジェリーナ、あなたは今日から冒険者ギルドのメンバーです」

「やったー!!!」

「ランクは……国王推薦準拠だからゴールド、Bランクですね」


冒険者ギルド内にもランクがある。これは別に強さではなく、信頼度を示すものだ。トラブルになった時の保証や、確実に依頼に取り組んでくれるかを示すものでしかなく、トラブルが多いとどんなに優秀でもランクは上がらない。200年ほど前に魔王退治をした勇者ユウタが、女性トラブルや周辺トラブルが多く、魔王退治までしたのにCランクどまりだったのは業界では有名な逸話である。

Bランクはギルドの職員格である。本来最初から登録するときに渡すものではないのだが、国家統治者レベルの推薦が来ると、配慮からBランクを渡すことになっている。ただ、それを見て回りがどう思うか、というと決していい気持がするものではない。


「ほかの冒険者連中から目を付けらないようにしばらくかくしたほうが」

「ヴォルヴさん見てください、金ぴかですよ金ぴか!!!」

「ってちょっとぉおおおお!!!」


私の心配をよそに、マシュマロは私の止めるのも聞かずにほかの冒険者に見せびらかいに行った。本当にこいつは言うこと聞かねえな!!!


ギルド加入祝い、と言い出して、マシュマロとおっさんたちは狩りに行くことになったようだ。

おっさん連中も先輩としてすごいところを見せようとか考えているみたいで、妙に気合が入っている。


「アンジェリーナさん、剣は持っていかれないのですか?」

「え? 剣」


不思議そうに首をかしげるマシュマロ。聖剣とか大層な名前がついている剣は、まだ受付で預かりっぱなしだ。それを取り返そうともせず、マシュマロはベアさんからデカい剣を受け取っていた。


「ああ、それ使いにくいので、まだ預かっていてください。壁にかけておけば照明になりますから」

「それダメでしょ!? これ聖剣でしょ!? 国宝でしょ!?」

「自己主張激しくて使いにくいんですよそれ。すんごい光るし。軽すぎるし繊細でたたき切ろうとすると罅が入りますし」


すごく光っているせいでよくわからなかったが、刀身をよく見ると罅が何本も走っていた。


「聖剣が!!!!」

「うちの帝国でも由緒は一番だけど同時に使いにくさも一番で、ぶっちゃけ一番不人気だったんですよね。だから私でも持ち出せたんです」

「聖剣なのに!!!」

「壁にかけておけば明るくなるし、マイナスイオンも出るらしいので空気がきれいになりますよ」

「聖剣なのに照明と空気清浄が役割って何!! あと『まいなすいおん』ってなにさ!!!」

「後、選ばれてない人が抜くと手が焼けます。私も手が焼けるので、使うときは回復魔法垂れ流しながらになりますね」

「私抜いちゃったじゃん!? 先に言ってよ!!! 焼けてないけど!!!」

「やったね受付ちゃん!! あなたが勇者だ!!!」

「なんでそうなるのさ!?」


手が焼けてないということは聖剣に選ばれたのだろうか。でも聖剣に選ばれるとどうなるんだろうか。勇者になれるのか。勇者になったらどうすればいいのだ、魔王を倒せばいいのか。剣なんて重いもの振ったことないんだけど。これよりスコップのほうが使い慣れてるし敵を倒せそうである。

というかさっきから魔王を殺せって剣がすごいうるさい。洗脳のように私に語り掛けてくる。そんなことよりマシュマロ溶かしたココアが飲みたいんだけどさっきから本当にうるさく魔王を殺せって止まらない。


「なんかこれ、魔王を殺せってうるさいんだけど、本当に聖剣? 呪いの武器とかじゃなくて?」

「マジで本物だよ!!! 呪いの武器よりも面倒だからうちの宝物庫に基本封印されていたりしてたけど取っ払って持ってきた」

「なんでそんなの持ってきたの!?」

「だってかっこいいかなぁって。実際邪魔なだけだったけど。光るから野営の時とかすごく虫が寄ってくるし」


確かにすごい勢いで虫が寄ってきそうである。

それにしても『魔王殺せ魔王殺せ魔王殺せ魔王殺せ魔王殺せ魔王殺せ魔王殺せ』って本気でうるさいんだけど……鞘にしまってもまだ聞こえてくるし。

困っているのをするっと無視されて、マシュマロは、ベアさんからもらった、雑な鉄塊みたいな、鋳造の安物の大剣を担いで毛皮のフードを被って出発していった。いや、そのフードかぶっても服があの二の腕太もも丸出しじゃ、まるで防寒性能ないと思うんだけど……

ひとまず解体場開けて、きれいにしておか『魔王殺せ魔王殺せ魔王殺せ』うわあああああ!!!! この呪いの武器ほんとうにうるせー!!!!!!










半日後、みんな帰ってきた。優勝はなんとあのマシュマロだった。持って帰ってきたのはこの辺の魔獣のトップである天氷竜の牙と尻尾だった。

本人曰く、「穏便にお話をして、交渉で自分の尻尾と交換してもらっただけ」とのこと。現にマシュマロの尻尾は途中ですっぱり切れていた。


「でも、痛くないの? 尻尾切っちゃって」

「切れやすいところがあるんですよ。最悪尻尾切って囮にして逃げられるようになってるんです。そこの線で切れば痛くないんです」

「え、竜ってトカゲの一種だったの?」

「違うといいたいのですがたぶん同じなんですよね」


マシュマロはちょっと遠い目をした。

なおマスターは一部始終を見ていたとのことであるが、マシュマロは竜の顔面に拳を叩き込み、一発で牙と心をへし折ったらしい。交渉とは何だったのか。


なんにしろドラゴンテイルは、煮込むとすごいおいしいのだ。皮をはいで竜皮にして、残りは煮込みに使うとしよう。

マスターは大物の雪牛を、ベアさんは雪熊を狩ってきていた。どちらも大物であるが、評価としては雪熊のほうが高いだろう。このアホマシュマロさえいなければ、ベアさんトップだったろうに、と若干憐れんでいたが、ベアさんはマシュマロの尻尾を心配そうになでていた。どうやらちょん切れてるのを悼んでいるようだ。どうせそいつ何にも考えてないですよ、とは思ったが黙っておいた。


「というか受付ちゃん、さっきから顔色悪くない?」

「いや、これが本気でうるさいんだけど、どうにかならない?」


さっきから延々と『魔王殺せ』コールを受けて若干私はグロッキーになっていた。いい加減黙ってほしい。


「んー、封印すればいいんだろうけど、それも大変だし…… あとはもう壊れちゃえば聞こえなくなるかも?」

「それだ」

「え?」


正直言うとかなりまいっていたのだろう。どう頑張っても静かにならない剣を黙らせるには壊すしかないと思った私は、柄と剣先を持つと、両刃の刀身の平らな部分に、膝を叩き込んだ。

元々罅が入っていてもろくなっていた聖剣は、真っ二つに折れた。


「う、受付ちゃんが聖剣をへし折ったー!?」

「なにー!?」


半分にへし折ったのに『ま、魔王を、こ、殺すのだ』とまだうるさい聖剣。柄をもって壁にバンバンとたたきつけるとようやく静かになった。


「あーすっきりした」


半分になって、光の量も半分になりちょうどいい明るさになった気がする。この明るさなら照明代わりにちょうどいいだろう。刀身のほうは適当に壁に刺して照明代わりに、柄は私の机の上にぶら下げてやはり照明代わりにしよう。


「う、受付ちゃん、それ、一応聖剣なんだけど」

「あ“?」

「ひぃ、ごめんなさいっ!!」


マシュマロがなんと言おうが、あれはただの光る呪いの剣である。へし折った私は正義であり、呪いの武器を有効活用できるやりくり上手なのだ。


「マスター、ヴォルヴさん、ベアさん。受付ちゃん、なんかたまってるんじゃ」

「お姫が来てから結構ストレスっぽかったからなぁ」

「マスターが1週間前大宴会で散らかしきった挙句吐いた処理までさせたって聞いてるしそれじゃないのか?」

「ヴォルヴがこの前エリスのプリン食べたのもあった」

「あれはあとでちゃんと買ってきただろう!?」

「3個200円の安物と白銀堂の限定プリンは別物」


こそこそ出戻り連中がしているのを後ろに、私はうっぷんを獲物にぶつけながら、解体をしていった。


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