73 迷子じゃないのよ!
魔物を討伐しながら、魔の森の東に向かって走る。
…見えてきた!うわわ…強い!戦い方がめっちゃかっこいい!
背の高い緑の髪の男性が、トレント達を次々と炎の矢で撃ち倒していた。私みたいに無数のファイアーアローじゃないのに、凄い速さで打ち込んでいる。マジでかっこいい!だけど、なんかこの人、どこかで見た事ある様な気がする。てか、副ギルドマスター?…にしては、髪型が違う。色は同じだけど、副ギルドマスターのクレストさんはサラサラの長髪を後ろでひとつに縛っていた。だけど、この人はちょっとオールバックっぽいショートヘア。
そうだ、マップで見れば、名前わかるじゃん。えーと、ソレストさんと言う名前。ほぼ兄弟ではないでしょうかね。クレストさんは華奢な文官タイプだけど、ソレストさんは上半身が逆三角形で逞しい感じ。失礼になるから、勝手に鑑定はしないけど。弓を射ってるから、魔弓士なのかな。イケメンだ。
トレント達の攻撃を避けながら倒しているけど、全て避けきれてる訳じゃないみたい。あちこち切り傷が出来てて、ちょっと血が出てる。どうしよう。手を出したりしたら、怒られるだろうか。
悩んでいると、私の気配に気付いたのか、彼がチラッとこちらを見た。
瞳は濃い琥珀色、茶色に近いかな。
すると、彼は突然こちらに向かって凄いスピードで走って来た!
え?え?なに?どうして?
お姫様抱っこされた。
そして、ソレストさんは私を抱っこしたまま、森の中を爆走中です。
えーと、マップで見ると、森の出口に向かってるんだと思う。
私、迷子じゃないんですけど。
あ!ハクがこっちに来てる。私が森に来たのがわかって、追ってきたのかもしれない。
もし、この人とハクが鉢合わせしたら…?
初対面だから、当然敵だと思うよね。ヤバ。
「ソ、ソレストさん?止まって下さい!私、迷子じゃないです!森の中でしなきゃいけない事があるんです!止まってー!」
「迷子じゃないのかな?だけど君はまだ子供だ。ここは危険なんだよ?ああ、それよりも…君はどうして俺の名前を知ってるのかな?」
「すいません。私、フィアルリーナ・ディラントと申します。」
「ああ!君が噂のあの、見習い冒険者なのに稼ぎ頭の領主令嬢ちゃんか!…なるほど、強いんだね。」
爽やかに笑いながらも、走るのを止めてくれない…。
ハクが来るよー。ハクは速いんだよー。追いつかれちゃうよー。鉢合わせしても喧嘩しない様に言わなきゃ!
「あの!もうすぐ、白い犬が来るんですけど、私のお友達なので、喧嘩しないで下さいね!」
言い終わった瞬間に、目の前を塞ぐ様にハクが立ち塞がって、戦闘態勢?!
ソレストさんも…戦闘態勢?!
だから!ダメだって!




