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閑話 王子

 〜じいの独り言〜


 最近の王子の様子が変なのでございます。


 どう、おかしいのかと言うと、いつもあの奴隷を近くに置くのでございます。


 とても奴隷の扱いではなく、それは大切にしておられるのです。


 奴隷なので、従順なのは当たり前なのですが、異世界からの召喚者の特徴なのか、自我が無いにも関わらず態度が柔らかく王子がそれをとてもお気に召しているご様子。


 そもそも、あの奴隷は王子の盾がわりに使うつもりでございましたので、側近くに置く事は良いのですが、他の女性たちを近寄らせないようになりました。


 もちろん王子妃様も…。


 幸い王子妃様との間にただお一人のお子様が生まれておりますので、後継の問題は今のところ大丈夫なのですが…。


 じいは心配でございます。


 このままでは、何か良くない事が起こりそうで…。


 ================================


 〜王子の独り言〜


 勇者召喚は失敗だ。


 よりによってあんな女が召喚されてしまうなど。


 勇者でなければ、森からの魔物の襲撃は止められん。


 父上は他に何か策はあるのか?


 あの女のステータスも調べぬうちに出て行く事を許してしまったのは間違いだったのでは。


 あの感じではあまり良い数値ではなさそうだった。


 まあいい。あの女に渡した荷物の中には、しばらく不自由しない程の金を入れるように指示を出したから、運が良ければ、生き残れるだろう。


 ◇◇◇


 …教会から緊急の連絡が入った。金ランクの治癒師が現れたと。聖女ではないかとの報告だった。


 ふと、あの黒髪の女を思い出した。


 まさかな…こんなに早く街に戻って来れるはずはない。


 すぐにじい達に確かめて連れてくるよう指示を出した。


 そして、あの女は街に戻っていた。


 じいの言う通り、あの女には何か秘密があるようだ。


 勇者ではなくとも、使い途があるだろう。


 女はとても腹を空かしていたようで、何の疑いも持たず料理を口にした。


 ◇◇◇


 女はルリと言う名だった。


 隷属のチョーカーを嵌めると気を失ってしまった。


 ◇◇◇


 私の盾がわりにするには、レベル上げをせねば全く使い物にはならないと、毎日魔の森近くの草原で魔物を狩らせた。


 人形を手入れするかのように、メイド達がルリを磨き上げるので、召喚された時とはまるで別人のように美しい女になった。


 私には妃がいる。我が息子も生まれたばかり。


 だが、強く美しく穏やかなルリに惹かれていく自分を止められなかった。


 私は密かにルリを想いながら、日々を過ごす。


 ルリに自我は無いが、色々なスキルを持っていて、聖女の名に恥じぬような凄い魔法を使えた。


 魔物を退ける強固な結界を幾重にも張り巡らせ、強力な光魔法で魔物を屠り、いつまでも尽きる事のない魔力で味方を癒し、神の御業と云われる再生もやってのけた。


 その結界は王都を覆うことも出来た。


 その強大な力を欲しがる輩も当然現れてくる。


 欲にまみれた貴族どもが父上を唆し、ルリを私の直属から外そうと企んだようだが、なんとか阻止できた。


 ある日、ひとつの凶報がもたらされた。


 魔の森から魔物が溢れた…と。


 とうとう恐れていた事が始まった。


 もはや、兵士や冒険者達でも殲滅出来ない程の大群が押し寄せてくると。


 伝説の勇者の大規模な殲滅スキルでなければ、対抗できぬ程の魔物の大群である。


 王都の民は既に避難を始めていて、山の砦を越えた向こうの街を目指している。


 山の砦は谷を利用して作った、最終防衛の砦だ。万が一王都で魔物が足止め出来なかった場合には、砦を閉鎖し、壁にして、それ以上の魔物の侵入を阻止する手筈になっている。


 私達も避難しなければならない。王家の血を絶やさぬように。


 いつものようにルリを探す。


 どこへ行った?


 すると、じいが言った。


 ルリは王城に残って、最後まで結界を張り続けるのだと。


 私は葛藤した。


 ルリを死なせたくない。一緒に避難したいと。


 だが、王子の立場では、ルリを犠牲にしてでも生き延びなければならない義務がある。


 魔物を殲滅出来なかった今、もうルリに避難する時を稼いでもらうしかない。


 …だが、最期に一目会いたい。


 私はじいの止めるのも振り切りルリを探した。


 ルリは王城の入り口すぐの謁見の間に静かに佇んでいた。


 そして、いつもと変わらず美しい微笑をたたえ、結界を張り続けていた。


 私が名を呼ぶとこちらを見て、また微笑む。


 思わず駆け寄り抱きしめた。


 連れて行けないのならば、いっそこのままルリと共にここに残るのも良い。


 そう思った。そして、奴隷から解放してしまおう。たとえ自我が戻り、罵られようとも。


 妃と息子には申し訳ないが私はルリを愛している。


 このまま最期まで一緒にいようと思う。


 …魔物が押し寄せて来ているのがわかるが、ルリの結界に阻まれているようだ。透明な障壁の外側にひしめいているのが開け放たれた扉の向こうに見える。


 私は剣を抜き放ち、結界が破られた時に備える。


 その時、ルリが何かをつぶやいた。


「多重結界」


 私達のいる部屋の大きさの結界が新たに張られ、続いて…


「浄化の光爆」


 その結界から外側、街に侵入して来た大量の魔物を建物ごと吹き飛ばした。


 ルリに出されていた命令は《王都の人々を守り、魔物を殲滅すること》。


 結界が消えてしまった。ルリも立っているのがやっとのようだった。


 魔物が全て殲滅出来たと思ったが、遠くにまだ残ったのがいるようだ。


 ルリの魔力は残り少ないのだろう。その場に崩れ落ちた。


 倒れたルリ。


 私は隷属のチョーカーの留め金を外した。


 だが、ルリが一瞬微笑んで、つぶやいた。


「転移」


 次の瞬間、私はじいの近くにいた。


 ルリは残り少ない魔力を使って私だけを転移させたのだ。


 じいは私を探すうちに魔物と遭遇し、負傷して山の砦に運び込まれていた。


 魔物はルリの魔法でかなりの数が殲滅されたが、王都は王城ごと更地になり、魔物がうろつく魔の森の一部となっていった。


 その後、命知らずな冒険者が旧王都に入り込み持ち帰った情報がある。


 王城のあった場所には魔物が寄り付かない聖域があったと。


 いつか、魔の森を消滅させ、王都を取り戻す。


 これが、我が王家の悲願となった。



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