閑話 王城編
国王の独り言
なんという事だ。
ダルグレットが侯爵について話があると城へ来た。
丁度、侯爵を捕らえた直後であった。
ダルグレットが話したのは彼の娘が、数年来ずっと侯爵に狙われていて、3年前には領主邸を襲われていた事。その時ダルグレットが侯爵の配下に刺されて瀕死の重傷であった事。それを治癒したのが娘のフィアルリーナだった事。
娘の治癒の力を黙っていた事は遺憾だが、希少な精霊魔法士に加えて、聖女の力をも持っていると知れたら、他にも良からぬ事を企む輩が出ると懸念してのものなのだから仕方なく許した。
そして、今回、大教会から娘だけでなく幼い息子までも攫われたと聞いた!娘はやはりと言うべきか、罠を破り戻ってきたという。
多分だが、その戻る途中で我が息子である第一王子の命を救ったと。
そして、その後、今度は攫われた弟を取り戻すと言い残し、侯爵の屋敷に向かったと。
…これは、本当に8歳の年端もゆかぬ娘の行動か?
なんとも、感心するやら呆れるやら…将来は凄い女傑になるのではないか。
いや、感心してばかりはおれん。
これも多分だが、先程の出来事で我が息子のアレストはあの娘に心を奪われたようだしな。
どうしたものか…幸い、最初婚約していた公爵の娘とは病を患った時に解消されておる。その後、第二王子のブラストと婚約したのだが、もし第一王子の病が完治したと知れば、再度婚約のやり直しをと言ってくるであろうか?
いいや、そんなムシの良い話は聞く必要もない。
アレストはフィアルリーナと婚約させる。
問題はダルグレットをどう説得するか…。
うむ、今はそれより、兵を出しダルグレットに恩を売る事にするか。
◇◇◇
兵をダルグレットと共に差し向けている間に、捕らえた侯爵を尋問した。
やはりというか相変わらず小物だった…侯爵はすぐに喋り始めた。
何故こんな大それた事をしでかしたのか。
第二王子に取り入ろうと色々と画策していた様だが、あまり上手くはいってなかったらしい。
この事件に第二王子のブラストが関わっていなかった事にほっとした。
確かにあやつは王位にはあまり興味を示さんかったな。
尋問中に聞き捨てならない事案が出てきた。
なんと、侯爵がグランダ皇国と繋がっていたと…。
あの呪いの女神像、隷属の首輪や転移拘束魔法陣などは、全てグランダ皇国からもたらされたもの。
ディラント辺境伯爵の娘に一目惚れし、婚約を申し込んだ…そして断られた。
当然ながら断られるだろう?こやつはアホか?
噂で特殊な性癖のことは多少聞いてはいたが、ここまでだったとは。
それ以前にも貴族の幼い娘が行方不明になっておるが、まさかこやつの仕業ではないのか?
その件もきつく尋問すると、幼い娘を攫って隷属の首輪で奴隷にし、数ヶ月か数年で飽きると各地の孤児院に捨てていたと告白した。
隷属の首輪をしている間の記憶は全く覚えていないし、5歳前後の娘達なら記憶が元々曖昧だろうと狙ったという。そして、今まで実際に発覚する事はなかった。
グランダ皇国との間に密約を交わし、魔道具など協力する条件で…フィアルリーナを侯爵が隷属の首輪で囚えて、その弟の方はグランダ皇国が連れて行くという取り決めになっていたのだと言った。
これは外交問題であるが、証拠もない。
どうしたものか…難題である。
だが、侯爵家は取り潰し、侯爵の処刑は決定となった。
大司教の方は他の司教達と同様、隷属されていたのがわかったので、直ちにそれを解き、無罪放免とした。




