閑話 グランダ皇国間者編
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ある間者の独り言
俺は今、ガキを運んでいる。
俺たちが拠点にしていた、屋敷の主人である侯爵の手助けをしていたリーダーの元騎士が失敗したのを見た。
今回の俺の方の担当任務は、白い髪のガキをグランダ皇国に運んで報酬をもらうだけの仕事。
お貴族騎士様なんて奴は、甘いから失敗するんだ。
まあ、奴の担当の娘の方は得体の知れない力があるみたいだから、俺の方の仕事がちょろかったのは確かに幸運だったんだけどな。
俺は、平民出で腕っぷしの強さで雇われただけ、金になるならなんでもやる。
あの、得体の知れない不死身の辺境伯爵の子供だから、かなり警戒してたが、5歳の息子の方は簡単に拘束できた。
つくづくあの娘の方じゃなくて良かったと思う。
あんな攻撃受けるのなんざ、まっぴらごめんだ。
3年前、あの娘を攫うのにディラント領主邸を襲った時、俺は確かにあの領主を刺した。致命傷だったはずだった。
だが、まるで何も無かった様に、あの領主は怪我ひとつなく生きていた。
その時から俺たちは、不死身の辺境伯爵と呼んで恐れていたのだが、その娘の方も普通じゃない。
攫っても、いつの間にかすぐに消えてしまい、拘束できない。
何故なら、俺たちの方が気絶させられてしまうからだった。
もう俺は、このガキをグランダ皇国に渡したら、あの領主一家と関わりたくない。今運んでいるこのガキもそうかもしれないが、あいつらは化け物だ。
そんな事を考えながら、馬を走らせ先を急いでいたのだが……突然馬の様子がおかしくなり速度を落とし始め、怯えた様子で耳を前に向け、とうとう動かなくなった。
「なんだ?向こうに魔物でもいるのか?」
俺は必死で馬を進ませようと強く腹を蹴り込んだが、全く言うことを聞かない馬に苛立っていると、殺気を感じた。
そこには、白い髪のあの娘がこちらに向かって歩いて来るのが見えた。
…何故…こんな所にいる?どうやって?それにこの殺気は?
いや、恐れる事はない、俺にはこの隷属の魔道具がある。隙を見てこれを着ければいい。リーダーが失敗したのは知っているし、侯爵との取り決めなどもう無効だろう。
俺が、あの娘もついでに捕らえてグランダ皇国に引き渡せば、大金が手に入る。俺はついている。
俺は素早く馬を降り、馬の背に括り付けていた麻袋の口を開いた。
この中には白い髪のガキを入れてある。その首に着けてあった隷属の首輪を外した。
…よし、今度はこれをあっちの娘の方に着ければ仕事は終わりだ。
さて、問題はこれをどうやって………なんだ?
ヒュンッと音がした…ボトッいう音も聞こえた。
「は……っ?な…い?落とし…。」
今手にしていた筈の隷属の首輪が無い。
「ひ…?ぎゃあぁぁっ!熱っ!痛ぇぇっ!俺の…腕がぁっ!」
「ねえ、その汚い手で私の弟に触らないでほしいんだけど…それにこんな隷属のチョーカーなんか着けて!こんな麻袋に押し込んでっ!…許さないから。」
いつの間にこんな近くに!
「ばっ…化け物どもめっ!」
「化け物どもだなんて、失礼な奴ね。って…ども?」
「そっ、そうだっ!お前の父親も殺しても死なない化け物だろう!俺はあの時、確かにとどめを刺したんだ!それなのに何故生きているっ!?」
「あー…そう、父様刺したの、あなただったのね…。」
その瞬間に膨れ上がった殺気…意識を失う直前思った…俺はついてなんかいなかったと。




