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閑話 グロルド・リグトス

 

 〜ある暗殺者の独り言〜


「…う…ぁ…。」


 …俺は気絶させられていたようだ。


 意識が朦朧としている…身体中が痛い…。


 ここで、俺は死ぬのかもしれない。


 あの娘に手を出してはいけなかったのだ。


 もう既に、魔方陣の中にあの娘はいない。


 …恐ろしい…。


 俺は逆鱗に触れてしまったのだろう。


 そのせいで、今、動くことも出来ない程の重症を負っている。


 辛うじて生きてはいるが、全身焼け爛れ、恐らく内臓も損傷しているだろう。


 あの、隷属の魔道具を見せた瞬間に発せられた、子供とは思えない程の殺気。


 突如、感情を無くしてしまったかの様な、暗い無機質な黄金の瞳。


 俺を見据え平然と魔法を放った。


 …なぜ、魔法が使えた?この魔方陣は、グランダ皇国最高の技で作られたもの。強力な魔法使いでも簡単に捕らえられる。近距離制限ではあるが強制転移させられる。そして、この中に捕らえられた者は魔法を使えないはずだ。


 よく考えれば、娘は何度攫っても、搔き消える様に居なくなってしまう不思議な力を使ったのだ。


 毎回、全員気絶させられ、娘は消えた。気絶させられるだけで、殺された者はひとりもいなかったが。


 だから、こんな怒りを露わにすることなど無いと、高を括っていた。


 先程まで捕らえていたのは、人の手では触れてはいけないモノだったのかもしれない…。


 ◇◇◇


 …いつのまにかまた、気絶していたようだ。


 あれから、どれくらいの時が経ったのだろう。


 …!?…あの娘が…戻ってきた?


 さっき逃げて行った白い娘は何故か、戻ってきた。


「ハイヒール」


 ??…治癒魔法だと?


 この娘は精霊魔法士だったはず…なのに、ハイヒールを使った。


 痛みが和らぐ…顔の部分だけ…?


 そして娘はこう言った。


「ねえ、私、弟を探しているの…あなた、知らない?」


 まずい…白い髪の男の子は今仲間の一人が運んでいるはず…言えない。


「……。」


 娘は少し思案した後、呟いた。


「精密鑑定」


 鑑定?この娘は一体?


 娘は俺の本当の名もグランダ皇国の間者だという事も全て見抜いてしまった。


 本当に恐ろしい…。あの黄金の瞳で全てを見通すのか?


 この娘はこの王国を守護していると言われる女神の化身か。


 それとも、魔の森の奥で魔物を支配していると言われる魔王なのか…。


 俺は豚侯爵の趣味のせいで、あの娘にこだわったから、こんな目にあってしまった。とんだ貧乏くじだ。


 白い髪の子供を欲していた我々、侯爵は娘を、我が国は男の子の方で手を打つ事にした。


 白い髪の子供は最優先で運ぶ手筈になっていた。


 男の子を今、仲間が運んでいるのを知られたら…どうなるか。


 特にそれが、不死身の辺境伯爵を刺した奴だと知られたら…。


 俺の本当の名は、グロルド・リグトス。元騎士。一応皇国の貴族だ。隠蔽の魔道具で隠しているので、今はグロルと名乗っている。


 俺は表向き侯爵の部下となっているが、グランダ皇国の皇帝陛下直々の密命を受けてここにいる。


 俺の任務は、才能のある子供を攫って、皇国に送ることだった。特に白い髪の子供を狙っていた。


 実はグランダ皇国で100年程前に、魔の森の魔物を退けたと言われる精霊魔法士は、その時、魔力を使い果たし、その命と引き替えに魔物を防いだと言われている。


 そして、その精霊魔法士は元々、グランダ皇国と国境を接していた、バルディア王国ルーデンス公爵領で生まれた者で、血筋などは明らかにされていないが、白い髪の男だったと伝えられている。


 皇帝陛下はその後、魔の森の脅威に対抗する為、才能のある子供達を集めて強力な魔法士に育てる事にしたが、創世神ガルダートを崇める我がグランダ皇国には、強力な魔法職の者が現れる事がなかった。


 何故か強力な魔法職を持つ者は、女神リルディアを崇めるこのバルディア王国に現れるのだ。


 女神リルディアは、慈愛の女神と言われているが、もう一つ、密かに戦女神リルディアとも呼ばれているのだ。


 俺は、この国に潜入する為に、騎士から裏の任務に適した暗殺者に変え、魔道具で素性を隠蔽して侯爵を隠れ蓑に利用していた。言葉遣いも貴族と悟られない様変えた。


 あの豚侯爵は、5歳から8歳程の幼い娘が好きという変態で、何故か王位を狙っている馬鹿な男だ。まあ、正確には、第二王子を傀儡にして操るつもりのようだが。


 俺はそちらの方には関わっていないので、詳しくはないが、裏で色々と画策していた。その内のひとつ、女神を象った魔道具は、グランダ皇国が侯爵に渡した物だ。


 中には部下の失敗で、幼すぎたり、容姿が好みではなかった侯爵の嗜好には合わない娘も攫ってしまったが、そんな娘達は侯爵に見向きもされぬまま、直ぐに何処かの教会へ捨てられた。


 その娘達には申し訳ないと思っている。


 今更遅いのだが…。


 俺はもう、皇国には戻れないかもしれない…。


 だが…もし、皇国に無事戻れたなら、皇帝陛下に必ず申し上げねばならない。


 聡明な皇帝陛下ならすぐにわかって下さるはず。


 あの白い髪の娘はただの精霊魔法士ではないと。


 悪意ある者を裁く女神の化身。


 あるいは魔の森の王。


 絶対に触れてはいけないと。

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