37 不味いかな?
その部屋は昼間なのに薄暗い部屋だった。
闇ちゃんの力の及ぶ範囲なのだから、侯爵家からあまり離れてはいないのだろうけど、ここは一体どこだろう…。
闇ちゃんが安全だと判断して運んできた場所だから、大丈夫だとは思うけど。
薄暗い中で目を凝らして周りを見ていると、だんだんと目が慣れてきて、ベッドが見えた。
他にも、家具や置物、壁には絵画がかけられ、少なくとも貴族の部屋だとわかる。
何故こんなに薄暗いの…?
そう思った時、ベッドの上に誰か寝ている事に気づいた…苦しそうな呻き声が聞こえたから。
「…うぅ…っ…。」
苦しそうな息遣い…病気の人の部屋なのだろうか。
…誰か、看護の人を呼んだ方がいいのかも。
そう思って、ベッドに静かに近づいてみた。
豪華なベッド…痩せた金髪の少年が横たわってる。
何気に目を凝らすと…
…げっ!な、何これ…?どす黒いモヤが、蛇のようになってその少年の身体に絡みついて蠢いている。気持ち悪い。
周りが暗いのにそれははっきりと視える。
これ…呪い?
これが、この人の命を喰っている呪いなのだと感じた。
その黒いモヤは…ベッドの脇に飾ってある女神像に繋がっている。
この女神像が…呪いを発してるの?
この子…すごく苦しそう。この黒いモヤを断ち切れば楽になる?
その時、カチャリと不意に扉が開き…その人物と目が合った…。
「っ!そなたは誰だっ!そこで何をしているっ!」
ヤバ…おんなじ金髪。お父さんかも。
私、ただの侵入者だよね。これ。
だけど、この子の呪い…解いてあげたい…。
「ごめんなさい。勝手なのですが少しだけ、私に時間をください。この呪いを解きたいのです。」
「呪い…?」
「はい、黒い呪いが絡みついています。」
そう言って、そのおじさんを手で制して、
「解呪」
そうつぶやくと、黒いモヤが一瞬で膨らみ…弾けるように霧散した。
そして、女神像の額の部分が割れ亀裂ができた。
少年は、長い間この状態だったみたいで、呪いの蛇は消えたけど、身体は痩せてるし、全身酷い状態…まるで細胞が死んでしまっているようだったので…普通の治癒魔法では足りないかもしれない。
「完全回復」
薄暗い部屋の中が黄金の光で満たされ、それと共に少年の身体も皮膚も綺麗になってゆき、土気色をしていた顔も白く美しい肌になった。
…おおう。イケメン出来上がり。
魔力はごっそり減ったみたいだけど、もう今は父様の時みたいに眠くはない。
息遣いも静かになり安定したのを確認して、改めて扉の前で呆然とこちらを見ていたおじさんに声を掛けた。
「これで、この子は大丈夫です。あと、この呪いの原因は、その女神像でした。それと、ごめんなさい!勝手にこの部屋に入ってしまって。余計な事したのかもしれないですが…そ、それじゃ…し、失礼します!」
一気にまくしたて、そのおじさんの言葉も聞かず、そのまま転移して逃げた!
うわぁ…いくらあの子を助けたいと思ったとはいえ、やり過ぎたかなぁ…ヤバいかなぁ…あのおじさん誰だったんだろ。
侯爵の関係者だったら…不味かったよなぁ…。
どうしよう…。
今更、遅いんだけどねっ!




