20 内緒で邸を脱出
「結界」
念のため、身体に結界を纏う。
「転移」
唱えた瞬間、薄暗い部屋の中に移動した。
…よっしゃーっ!誰もいなーい!
そう。誘拐された時にいたあの《埃っぽい小屋》だ。
ここは確実に領主邸の外のはず。
ボロい小屋のようで、壁に隙間があり外の光が漏れている。今は昼間なので、真っ暗ではないのよ。
でも、私を攫った奴らのアジトとかだったらまずいからねぇ。
恐る恐る壁の隙間から外を覗いてみると…
ホームレス?
ボロボロの汚れた服を着て、うずくまり動かない人達が数人見える。
ここ、スラム…?
うわぁ…外に出るのは勇気がいるわ。
この小屋も誰か来るかもしれないし。どうしようかな。邸に戻るか、思い切って外に出るか。
…うん。せっかく来たのよ…やらねば。
私が行動範囲を広げれば、転移できる範囲も広がるのだ。
スラムは危険だろうけど、結界と転移があればなんとかなる…はず。
そっと扉の前に移動して、隙間から外を覗いてみる。
扉の前には誰もうずくまってない。
静かに扉を開いて外に出たけど…?
誰も反応しない。死体じゃないよね?皆んな痩せこけてて動かない。うん。生きてはいるみたいだけど、私には気づかない。
ここ、ディラントの街だよね?まさかの王都のスラムとか?ないない。確か行くのに数日かかる距離って聞いたし。あの夜の短時間で移動できる距離。そんなに遠くまで行けるはずはない。
となると、ここはやっぱりディラントの街。
そしてスラム。
あの素敵なとうさまの治める街に、こんな場所があるのが…ちょっと悲しい。
結界のせいか誰にも気づかれてないのは好都合です…が、そこら辺にいる人達が気になるよ。病気なの?お腹すいて動けないの?私に何かできないだろうか?
帰ってとうさまに相談す…るのはだめよね。色々と不都合な事実が…バレちゃうのはキビシイ。
こういう問題はかなり難しいのはわかってるから、今は何も出来ない。
目標がまた出来た。きっと、お風呂をつくることなんかより、かなり難しいと思う。
でも、とうさまのこの街からスラムをなくしたい。全ての街からなくすのは無理だとしても、ここだけは、人々が安心して暮らせる街にしたい。それは私の将来にも関係するのよ。のんびり穏やかで自由な…そして安心できる老後を実現するために。
老後までこの街に居るとは限らないけど、出来れば歳をとったらこの街に帰って来たいのよ。異世界のふるさとってやつね。
目の前の悲惨な現実から、今は目をそらし、スラムの裏路地を歩く。
やがて、薄暗いスラムの裏路地から、活気のある表通りに出た。
あ。全然雰囲気違うな。
そう思いながら、テクテク歩く。周りの景色をしっかり憶えておかないとね。この街を網羅するのよ。
この街なら、どこにでも転移できるようにね!




