139 皇子様と脱出
「貴女は…女神…か…?」
ゆっくりと目蓋を開いて虚ろだった瞳はだんだんと光を取り戻し、私を見ながら皇子様はそう呟いた。
精霊ちゃん達の淡い光に照らされてても少し薄暗いけれど、私が女神様から貰った恩恵の瞳(真実の瞳から女神の瞳にグレードアップしていた…)はこの暗闇の中でもよく見える。
瞳の色はマリアナちゃんの紫色とは少し違って、まるでアイオライト貴石の様な、美しく澄んでいて透明な薄紺色の瞳だった。
綺麗な瞳…。
でもね。女神だなんて。違いますよ?
そして、私は自分の名を名乗り、女神じゃないと答えて、マリアナちゃんの無事を伝えると、とても安堵したみたい。
「あの…皇太子殿下、皇帝陛下はどちらにいらっしゃるかご存知でしょうか?」
そうなのだ。
この城?と思われる建物内部は、私のマップが上手く表示されないのよ。
だから、敵の場所とかがわからなくて困ってるのよね。
空白なの…よ。
…まさか、ダンジョン化しちゃってる…とか…。
そういえばリビングメイル…いっぱい湧いて出て来たね。
うわぁ…ボスはガルダート教皇ってか?
益々、レイスとかリッチ説が濃厚になってきた。
「…皇帝陛下は…私の様には捕らえられてはいない。どこか他の場所にいる。多分、隷属されている。」
ふーん。やっぱりね。ガルダートのやりそうな事ね。隷属は十八番だもの。
リグトス子爵が言ってたものね…民は愚かではない、皇帝陛下の姿が見えなくなれば騒ぎ出すって。
皇帝を操っているのね。
「では、私はここを出て、ガルダート教皇を倒しに行きます。」
「危険だ!フィアルリーナ様は我…私を助けてくれたが、戦う術はあるのか?貴女は女神の聖女ではないのか?」
うん、あの魔方陣を出たら、普通に力が使える様になってるし、いける。
「大丈夫です。私、精霊魔法士なんです。多分結構、強いんじゃないかと思いますよ。」
「我…わ、私も行く。私は父上を救い出し、ガルダート教皇を倒したい。武器を調達せねば。この宮殿の案内も出来る。」
ふふ…さっきから、一人称を我から私に変えようと頑張ってるみたい。皇子様なんだから我でもいいのにね。私の事、女神の聖女って言ってたから、それでかしら。
そうね。皇子様も連れてかないとね。こんな牢に置いといたら、良くないし。
「わかりました。一緒に戦ってくださいね。宮殿の案内よろしくお願い致します。」
とりあえず、宮殿内の転移出来る場所が、さっきのリビングメイル部屋だけだから、目視移転を駆使しよう。このダンジョン?宮殿のマップも開放したいわ。
「その前に、皇太子殿下、これをお召し上がり下さい。」
そういって、例のオレンジジュースを差し出した。
数日食事を与えられた形跡が無いのがわかったし、いくら完全回復させても、体力は戻ってない筈だもの。
かと言って、ハンバーガーやおにぎりじゃあ受け付けないでしょ。
お粥なんてないから、オレンジジュースで我慢して貰おう。
落ち着いたら、固形の食べ物出しましょう。
皇子様は一口飲んで、びっくりした様な顔をしたけど、すぐにひと瓶全て飲み干した。
うふふ。美味しかったでしょ?
美味しくって魔力も体力も回復するオレンジジュースは本当に使えるわ。
この国は魔法士がいないらしいけど、きっと、潜在的に魔力や魔法も持ってて、女神の恩恵を受けさえすれば、すぐに魔法が発現するんじゃないかしら。
さて、そろそろ、この鉄格子から脱出しましょうかね。
幸い、この牢のフロアは見張りも居ない。
まあ、見張りも居なくて灯りも無くて真っ暗で、放置されている場所みたいなんだけどね。
「転移。」
「は…?」
みんな同じ様な反応…するよね。
楽しいわー。




