閑話 アレスト・バルディア
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〜第1王子の独り言〜
私はとても浮かれている。
一目惚れした愛しい彼女との婚約が成ったからだ。
まあ、私が無理矢理婚約式に持ち込んだのだが。
婚約式の時の彼女は、私を治癒させた時の神々しい女神の様な彼女ではなく、頰を紅潮させた愛らしい素の彼女だった。
あの時、彼女が何故私の居室に現れたのかは分からない。
私にとって正に女神の導きと言わんばかりの幸運な出会いだった。
誰もが見放した瀕死の私を何の見返りも求めず救ってくれた優しい彼女。
今私の気を惹こうと纏わり付いてくるこんなあざとい令嬢達とは全く違う。
愛しい彼女の事を思い出すと、この者達にも笑顔で接してしまいそうになる。
だがこの女達に勘違いさせてはいけない。
この浮かれた気持ちを引き締め、周りの者達に気取られない様にするのが大変だ。
それにしても、鬱陶しい女達だ。
私には既に婚約者がいる事を知りながら、すり寄ってくる。
私が呪いに倒れ、王位継承から遠ざかると見た者達は掌を返すように離れていき、元婚約者の公爵令嬢さえもさっさと婚約解消し、第2王子のブレストと婚約したらしい。
因みに誰も見舞いにも来なかったな。病が感染るとでも思ったのか。
なのに、こうして今纏わり付いてくる。
だが、あからさまに邪険にし、排除する事が出来ないのが悩ましい。一応我が国の有力貴族の者達だからな。
もうすり寄ってくるな。不快だ。
私の側妃狙いなのか?生憎だが、私は彼女しか娶らないと決めている。それにまだ完全に王位を継ぐとは決まっていない。
しかし…ここは王都騎士学院だぞ。
何故チャラチャラと着飾った生徒がこんなにもいるのだ…?
彼女ならばきっと着飾らなくともそのままで美しい。
もちろんこの女達と比べるまでもなく文句なしの一番だな。
彼女は今どうしているだろう…逢いたいな。
私は彼女に呪いを解いてもらい治癒された後、直ぐに騎士学院に入学した。
王侯貴族に生まれたものは、10歳で必ず王都の学院に入学する事になっているからだ。
少し遅れたが、彼女の治癒のおかげで全快し、学院に入学したのだ。
そして、父上である国王陛下がギルドマスターをしている、冒険者ギルドにも登録した。
とここまでは良い。
問題は彼女との約束である、冒険者になるということだ。
それには、私がもっと鍛えて強くなり、彼女のいるディラントへ行かなければならない。
いや、鍛える為にディラントに行くのだ。
次期国王を辞して彼女の元へ行き、冒険者となる。
たとえ次期国王を辞す事が出来なくとも、彼女と共に冒険者をする。
貴族は冒険者登録が必須だが、本当の冒険者になる訳ではない。
冒険者登録は強さの証明の為にするだけで、実際には庶民の様な冒険者生活はしない。
中には貴族でありながら、冒険者となり国に貢献している者達はいる。
実際、冒険者というものは長く続けられるものではなく、怪我をしたり、歳を経て身体が衰え、引退後に家督を継ぐといった者が多い。
父上は反対するだろうな。王族と普通の貴族では違うと。
だが、私は彼女との約束の通り一緒に冒険者となり、愛しい彼女と共にいたいのだ。
それで、ひとつ父上に提案しようと思う。
辺境ディラントの領軍兵士達は強いと聞く。
騎士学院を砂漠や魔の森のある、辺境ディラントに移せば良いと。
そうすれば、貴重な素材も手に入り易くなり、装備も充実させられるし、より皆強くなれる…筈だ。
少し無謀な提案とは思う。
だが、愛しい彼女の心がまだ自分に向いていないのはわかっているから、彼女との関係を親しくする為に、少しでも長く彼女と一緒に過ごしたいのだ。
彼女の事を諦めていない貴族はまだいるそうだしな。
だから、多少無理矢理な口実を使ってでも彼女のいるディラントへ行かなければ。




