閑話 グリマス・リグトス子爵
皇女の守護騎士の独り言
その方は黄金の光に包まれ現れた。
皇帝陛下と皇太子殿下が御身を呈して救おうとなさった大切な皇女殿下を隣国へと逃す使命を賜り、国境まで来た時私の不手際で皇女様に大変なお怪我を負わせてしまった。この小さな御身では耐えられない程の斬撃を背中に…。
私も斬撃を何度も受けたがこの鎧と盾のおかげで致命傷にならず、何とか皇女様を抱え国境壁を乗り越えた。
だが少し進むと地の中から突然現れた亡者達に足を取られた。その時後ろから追跡者の放ったと思われる矢に倒れ次々と地の中から這い出した亡者どもに集られ身動きが取れなくなった。
そして皇女様を盾と我が身で囲い守る内、先程の矢に毒が塗られていたのだろう、意識が朦朧としてきた。
…もう助からないのだろう。何故なら、この先に聳え立つ白い壁がこれ以上進む事を不可能にしているのだから。
陛下、殿下…申し訳御座いません。私は守護騎士として役目を果たすことが出来ませんでした。
そうして、痛みと矢毒で意識を失いそうになった時、私達に群がりのし掛かっていた亡者達が突然消失し、清浄な空気が辺りを包んだ…そして、私の身体が楽になり何故か安堵と共に意識を手放した。
気がつくと、皇女様のお話するお声が聞こえ、何処かで寝かされ治療されたのが分かった。
助けてくれたのは、隣国バルディアのディラント領主らしかった。皇女様は恩人に偽りなく全てをお話しされていたので、私もそれに倣い知っている事を包み隠さず話した。普段なら恩人とは言え隣国の知らぬ者に内情を全て話すなど愚者であろう。だが、その領主の傍らに立つその方を一目見て、信じられると感じてしまったのだ。
その方は清浄な黄金の光に包まれ立っていた。
まるで女神の様な雰囲気の少女だった。
不思議だが、私にはその身を包む輝きが見えた。黄金の輝きの周りを更に七色の光が舞う、それはとても神々しいお姿だった。
まだ、ほんの少女に見えるその方が強力な治癒魔法で私と我が国の皇女マリアナ様を救ってくださったのだと分かって、更に信仰に近い思いが湧き上がった。
「安静にしてくださいね!」
ああ…美しい…。
その方の慈愛に満ちた微笑みを向けられて、かなり緊張してしまった。
感謝の言葉を発するのが精一杯だった。
皇帝陛下、皇太子殿下、そして皇女殿下…申し訳御座いません。私は皇女殿下の近衛騎士隊の守護騎士でありながらあの方に魅了されてしまいました。
いや…今は何としてもグランダを救う手立てを考えねばならない時だ。
だが、もしもグランダ皇国をガルダート教皇の魔の手から取り戻す事が出来た暁には…あの方にお仕えしたい。




