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勘違いから始まる恋もありだろうか

作者: 佐々木由衣語

「月が綺麗だね」


 僕は、何の気もなく隣にいる女子、菜々緒にそう言った。


「えっ……!」


 彼女は、何故だか、頰を赤く染め恥ずかしさと驚きが、混じったかのような表情をした。

 僕は、空を見上げて「ほぅ」とため息を吐く。

 今日は、雲一つなくまん丸い月が、よく見える。それが、何よりも美しかった。

 そんな僕に彼女は、ちょいちょいと肩を叩く。

 振り向くと、彼女は未だに引かぬ頰の火照りを更に火照らせて、こう言った。


「私も好きよ、和馬くん」


「……え?」


 *

『月が綺麗ですね』


 これは、かの有名な文豪が、『I love you』を日本人らしく訳したものならしく、この言葉は、例え文学に興味がない、としても誰もが知っていることーーならしい。

 文学に興味ない人の中でも更に興味がなかった僕は、その当たり前の事実を知らなかった。

 だから、彼女は勘違いしたのだ。


 ある地方の花火大会で、偶々同級生の女の子、菜々緒を見かけた。僕は、クラスメイトを見かけたら無視するのもおかしな話だと思うので、挨拶くらいは、することにしていた。


「こんばんわ」


 僕が、そう挨拶すると、向こうも返してきた。


「こ、こんばんわ」


 彼女は、僕に出会った事によほど驚いていたのか、挨拶もややつっかえていた。

 僕は、祭りは一人で冷やかす派だっため一人だった。また、向こうも同じだったのだろう、彼女も一人だった。


 それが、幸だか不幸だか、ここで、「はいさよなら」と別れるのもおかしな話だったので、僕は、意を決して彼女に、


「一緒に祭りを冷やかさないか」

 そう誘った。

 彼女もまた同じ考えだったのだろう。僕に同意し一緒に祭りを回る事になった。


 僕は、そこから祭りを楽しむなんてことはあまり出来なかった。それは、男としての本能が、女を退屈させてはならないとそう始終僕に囁いてくるからだ。

 僕は、必死に「今日は、せっかくの祭りだったのに着物は着なかったの?」やら、「女の子は、りんご飴が好きなイメージあるけど菜々緒さんは、どうなの?」だの、兎にも角にも話題を振りまくり気まずい間を作らせないようにした。

 今から思えば、その必死さが、勘違いを呼ぶ事になったのだろう。


 その後も順調に話題を振り続け花火を見、その余韻を味わっていた時、ふと空を見上げた時に、僕は、過去最大の失言をしてしまったのだ。


「月が綺麗だね」


 まさか、文学に全く興味がない僕が、夏目漱石と被るだなんて思わなかった。

 いや、それ以前に何で月が綺麗だったら、好きですと言っている事になるのか全く分からん。


 *

 花火大会が、あったあの日。彼女は、僕に告白した後、恥ずかしさからか、「そ、そう言えば、うち門限が厳しいんだった!」と、早口でまくし立てて帰ってしまった。

 それは、不幸中の幸いだった。いや、そう言ってしまうのは、彼女に失礼か。

 ただ、少なくとも言えるのは、僕が、何でこうなったのか調べる猶予が、与えられたのは、本当に助かったという事だ。


 次の日、携帯を除くと一通のメールが、届いていた。


『昨日は、変なこと言って逃げてしまってごめんなさい。また、お話がしたいので、ご都合の良い日程を教えて下さい』


 紛れもなく菜々緒だった。今、夏休みということもあり学校で会うには、まだ二十日ばかり時間があった。その為、彼女は、連絡してきたのだろう。


 僕のせいで、こんなどうしようもない勘違いを引き起こしてしまったのだ。もちろん、断るなんて選択肢を取れるはずもない。


『明日の十四時、駅前のカフェで、会えますか?』


 僕は、一気にそうメール内容を打つと送信ボタンを押した。

 すると、すぐに分かりましたという内容のメールが、帰ってきた。

 さて、どうしたものか。


 今回、彼女がしてしまった勘違い。それを勘違いでなくさせるには、僕が彼女のことを好きだったらいい。


 しかし、僕は彼女に対して何か特別な感情を抱いているわけではなかった。


 彼女が、普段学校で、どのような態度を取っているのかを説明すると、動かざること山の如し、みたいな感じだ。

 友達と喋りもしないし、また授業でも積極的に挙式したりはしない。

 良くも悪くも誰からも好かれも嫌われもしない人物だ。


 そして、僕はと言うと普通だった。

 自分の事だからか分からないが、兎にも角にも彼女が、僕を好きだと思うような長所は、ない。


 例えば、僕ってイケメンかも?だなんて、ナルシストではないが、少しそう思っちゃう程度の顔でしかない。

 客観的に見てよくて中の上くらいだ。辛口なら中の下だ。

 また、性格は、どうかと言われても自分では、分からない。

 少なくとも僕自身は、利己的で、かつ自己中心的な所がある、嫌な奴だと思っている。


 全く、どうして菜々緒は、僕を好いたのだろうか。


 *

 次の日、僕は、予定通りカフェに向かった。店に入るとまだ約束の五分前だと言うのに、彼女は、もう席についていた。


「待った?」


 社交辞令的にそう聞くと、彼女は、「全然待ってないよ」と両手で手を振りそれを否定した。可愛らしい仕草だが、彼女のいたテーブルを見るとコーヒーに入れる砂糖のスティクが、二本あるため、それなりに待っただろう事は、すぐに分かった。


「それで、話って?」


 メールのやり取りからすれば、彼女が、僕に話があるわけだから、それを盾に彼女にまずは、話させる。


「そ、それは、これから私達、どうしよっかって……」

「そうか」


 具体的には、何も彼女からは、言わなかったが、言いたい事は、よく分かった。

 僕は、昨日、一つ決意していた。


「なら、付き合おう」


 彼女を傷付けるくらいなら、自分の時間を浪費した方が、ましだと思った。全くもって、酷い男だ、僕は。


「そ、そう。ありがと」

 彼女は、何故か僕に礼を言い、下を向きまた頰を赤らめる。そして、やや経ってこちらを見ると何か決意して僕に話す。

「じゃ、じゃあ、せっかく夏休みだし、遊園地行かない?」

「うん、いいよ」


 即答だった。

 何故かって、僕も実は行きたかったからだ。

 ただ、一人でだけど。


 そして、二、三日後、僕は、都内?にある遊園地に来ていた。いやはや、平日だと言うのに、酷い込み様だ。見渡す限り人、人、人で、人がまるでごみのようだった。――それ、東京タワーとかで言うセリフだな。


「ごめん、待ったー?」


 約束していた時間から、二、三分遅れてようやく菜々緒が来る。彼女の服装は、普段、全く喋らない人とは思えなかった。水色のワンピース?がとてもよく似合っていた。はっきり言ってちょっと見とれた。


「別に、待ってない。二、三分なら遅れても別に怒りはしないよ」


 照れ隠しに、そう言うと、「じゃあ行こうか」と、彼女を先導しランドに入っていった。


「チケット、ちゃんと持ってきたか?」

 話すこともあまりなかったので、話題振りに忘れ物チェック。どんだけ話題振るのが、下手なんだ、僕は。


「違うよ、和馬くん。パスポート」

 彼女はそんな至極どうでもいいことを言い、チケット、じゃなかった、パスポートを手で、ひらひらさせながら見せてきた。


「はいはい、ここ夢の国だもんな」


 全く、態々チケットじゃなくてパスポートとしたのは芸が細かいのだが、そこまでするのならこの国の王とか決めろよ。誰が、政治のトップなの?喋って踊れるネズミさん?

 まあ、ランドで出会っても喋らないけど。


 僕たちは、ランドに入り乗り物を楽しんだ。例えば、ブラックサンダーっぽい名前の山をグルグルしたり、でっかい雷が、落ちそうな山をこれもまたグルグルしたり、汽車で山を駆け巡ったりした。

 ――全部同じだな、これ。

 何故だか、妙に菜々緒は、このアトラクションが好きだったらしく、三回も乗ってしまった。お陰で、少し乗り物酔いをしてしまった。

 もういい加減にしてくれ、そう言う前に、彼女は、「ワンモア」と言った。


「これが最後だぞ」


 どうにも甘いようだ、僕は。

 待ち時間の間、僕は、それなりに彼女に話題を振っていた。それこそ、ある程度楽しくおしゃべりしていた。しかし、もう話題もなくなり、幾らひねり出そうと思っても、もう何も出てこなかった。いや、一つだけ、実はまだあるのだが、それを聞くのも躊躇われるため、今まで避けていたのだ。


「どうして、僕のことが好きなんだ?」


 疲れていたせいか、頭に過った言葉が出てしまった。しかし、いい機会だ、いずれ聞かなければならない事なのだからなの今聞こう。


「和馬くんは?あなたが、話してくれたら私も話すよ」


「いや、僕は……」


「あなたの本心を聞かせて?」


 僕は、彼女の真剣な思いに応えることが出来ない。本心何て聞かせられないからだ。

 だから、取り繕おうと、嘘、ではないが、本心でもないあやふやなことを言う。


「可愛くて、おしとやかな女の子が好きなだけだ」


 僕がそう言うと、菜々緒は、少し寂しそうな表情をした。


「そう。私は、あなたの唯一じゃないんだね」


 ああ、しまった、とそう思った。彼女は、僕のことが好きだと言ってくれた。それは、彼女にとって僕は唯一だという意味だったのだろう。だから、同じ価値観を求めた。


「私はね、あなたが、唯一なの。だから、好き」


「何が、唯一なんだ。僕は、菜々緒が言うような特殊な人間じゃないぞ」


「それは、能力の話でしょ?あなたが、私にとって特別なのは、あなたが、私を救ってくれたから唯一なの」


 救った?この僕がか。まるで覚えがなかった。


「その様子じゃ、覚えてないのね。私が小学四年生だった時、いじめられていた私を庇って、今度は、あなたが、いじめられたわ。その時、私は、情けなかった。けど、それと同時に恋心が生まれた。それだけよ。だから、あなたが、好きだと言ってくれてうれしかった」


 彼女が、そう言って下を俯いたとき、僕は心臓が、とくん、と跳ねて、その存在をやたらと主張してくるのが感じられた。

 あ、あれ?もしかして――。

 自分の気持ちに気が付いたとき、ならば返す言葉も自然と決まってくる。


「そうか、なら僕にとっても君は、唯一だよ」


よかったら、僕のほかの作品も読んでみてください。

書いてみて分かったが、僕は恋愛物を書くの苦手だわ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 初めまして。 いいな、と思いました。 月がきれいですね、で勘違いする女の子がかわいい。 あと、誤字ありますよ。一気呵成に書いて投稿してる姿が浮かびました。 他の作品も読んでみます。 それで…
2018/08/29 16:29 退会済み
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