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第一話 虐められっ子

――――――――チャイムの音がする。

 山が近くにあるとチャイムの音はなぜか緑色なんだ、なんて感じてしまう。

 高校3年の冬、机に顔を合わせて聞くこの音は一体何度目のものなのか、僕はそう思う。

「おい、なぁに寝たふりしてんのかなぁぁ?せぇいぃじぃんくぅーん」

 僕、坂上聖人はゾッとする。――せいじん――そう呼ばれるだけでゾッとする。

 あぁ、今日も始まる、そう思うと、ゾッとする。

「きょ、今日は何を買ってきt――――」

「いつも言ってんだろぉが......お前は言われたことだけすればいいんだ...よっ!!」

 ゴツンという音と共に聖人は安寧の地から転げ落ちる。俺に気安く話しかけてんじゃねぇよ、そう言った声は少し遠くから響いた。

 お昼休みになると、いや、休み時間になると...隙あらば僕で遊び、使い、恥ずかしめ、虐める――――クラス全員の名前を覚えてはいないが、山下...山下くん...この人は特に忘れない。後ろにいる5人は名前は覚えていないとはいえ、顔だけは絶対忘れない、いつものメンバーだ。

「んだよ、ほら行って来いよ、いつものパンでいいからよぉ。お前らもそれでいいよなぁ?」

 山下くんは威厳を保ったまま大きな声を上げ後ろを振り向く。

 その声に肯定する5人の笑った顔――――――――嫌に、なる。

 だけどため息はつけない。ヘマをしてこれ以上痛い目に合いたくないからだ。

 僕は黙って食堂へ向かう。

 山下くんたちはいつも2個ずつパンを食べる。つまり買う個数は12個だ。

 パンを手に取りお金を出す。僕のお金を、出す。

 お会計をしているおばちゃんも、最初は――そんなに買ってどうするんだい?みんなの分かい?虐められてたりしないかい?大丈夫かい?――いろんな声をかけてくれた。

 でも今は違う。

 毎日のように見る12個のパンを大きな袋にまとめて入れ、目も合わせない、声もかけないでお金を回収する。諦めた、そんなところだろう。

 僕は教室に戻りながら思う。チャイムの音を聞いた回数と山下くんに...あのクラスに虐められた回数、一体どっちが多いんだろう、と。

 そんなこんなでクラスの前。僕は深呼吸をしてドアに手をかけた。かけたと同時にドアが開く。

 いい、香りがした。きっと髪からだろう。黒色の長い髪を垂らす少女と目が合った。

 宮川里奈さんだ。

 クラスで、学校でも有名なほどに美人で、お昼休みはいつも図書館に通っている。そのため図書館は本ではなく宮川さんを見にやってくる輩が半数を上回っていると聞く。話している姿は見たことがない気がする。...ちょっとミステリアスな人だ。

 なぜ僕が名前を覚えているかというと......美人だから...というのも少なからずあるが、この腐れ切ったクラスで唯一僕を虐めない人だからだ。止めようとはしないけれど、決して笑ったりしないし、そもそもこっちを見ていない。傍観者とは少し違う。

 クラスと廊下の境界線で、目を見開いた僕と、同じく眉を少し上げた宮川さん。

 間も無く、宮川さんは僕の左を横切った。――――その際に

「ごめんなさいね」

 そう小さく零し、髪をなびかせ廊下の角へ消えた。

 僕は開いていた目をもっと見開いた。そして宮川さんにしばし見惚れていた。――――見惚れてしまった。

「せいじん!!」

 僕はハッとなった。まるで現実に戻ったかのような感覚だ。いや、文字通りだろうか。

 山下くんは怒っている、と思う。

 なにせクラスの屑がクラスの星と話したのだ。

 たった一言でも、山下くんの気に障ってしまった。

「こ、これいつものパン......」

 パンを袋ごと渡し、山下くんはそれを受け取りなり僕を四つん這いの状態にさせた。

 その後、2度僕のお腹を蹴り、背中に脚を置き、何事もなかったかのように僕の買ってきたパンを6人で楽しそうに食べる。

「あぁ、せいじん、これ今回のまかないなー」

 そういって地面に僕の買ってきたパンを一切れ落とす。

 僕が手を伸ばし取ろうとすると、背中にかなりの重みがかかった。

「手なんか使うなよ。お前は犬なんだからなぁ」

 笑っていた。その声は、笑っていた。

 僕は言われた通り口だけを使いパンを寄せ、そのまま口内へ運んだ。

 その様に、1人は爆笑し、1人はほくそ笑んで、また1人は蔑んでいた。

 ――――――――気づけばクラス中が笑っていた。

 わかっていた。宮川さんに遭遇しなければ、お腹を蹴られることはなかったかもしれないが、ここまで大体いつも通りだ。――――だからきっともうすぐ終わる。

 教室のドアが開いた。入ってきたのは宮川さんだ。お昼休みも残り僅かになり図書館から帰ってきたのだろう。

 宮川さんがチラッとこちらに目を向ける。僕にじゃない、山下くんたちに。

 いつものことだ。そうして山下くんは僕を解放してくれる。

 しかし今日は違った。正確には宮川さんが違った。宮川さんが向けたのはいつもの視線じゃなかった。

 それは冷酷な視線、蔑むような視線、全部全部、僕に向けられていた視線と同じ視線だった。

 それに驚いた山下くんはとてつもなく力を抜いた。僕の背中には足が乗っているのかさえ分からないほどだった。

「もう、いいぞせいじん」

 そう言い放った山下くんには今まで感じてきた覇気が感じられなかった。


 あの日から1週間。僕への虐めは強みを増していた。

「なんで、この俺が、てめぇみてぇな屑に向けられる視線を、浴びなきゃなんねぇんだよっ...!おらぁ!!」

 山下くんはあの日から毎日同じことを言いながら僕を蹴り飛ばす。

 昼休みは教室で、放課後は校舎裏で、ストレスを僕にぶつけてくる。

 やめて、とは言えない。だけど僕を罵ることはしなくなった。きっと僕を罵ることよりも、山下くん自身が受けた視線への愚痴が溜まっているのだろう。

 その点で言えば宮川さんは救ってくれた...ような気がする。

 そして昼も放課後も30分近く殴られ、蹴られ続けてようやっと解放される。

 正直、僕の心は折れかけている。いっそ死んでしまおうと幾度となく思った。

 あれからまた1週間が経った。

 山下くんたちの虐めは前の虐めに戻った。

 すっかり宮川さんへの愚痴も収まり、僕を罵るようになった。

 当然、昼は購買で休み時間は犬同然。放課後は水なんかをかけられたりして寒い思いをした。

 親にはばれたくないから制服が乾くまで暗くなった田舎道を遠回りした。

 歩けば歩くほどひしひしと感じたことがあった。

「もう、耐えられない」

 僕の体は、心はすでに限界を超えていた。

 辛さと痛さで前が見えない。足が思うように進まない。

 もう死なない理由はないように感じた。

 前も見ず、どこを歩いているのかもわからないけれど、兎に角進み、次第に歩幅が広くなり、気づけば走っていた。

 ただひたすら走っていた。我も忘れて。

 疲れた僕は足を止めた。

 膝に手をつき、荒げた息を整えた。

 ふと聞こえた虫の羽音に顔を上げ、体を起こし辺りを見渡した。――――――――山だ。

 無我夢中で走った先には、生い茂った木々、よく臭う土、そして一人佇む僕の姿だけがあった。

 感じたことのない本当の孤独に、僕は安堵の涙を流した。

「もう、いやだ...もう...いやなんだよぉぉぉ!!なんで、僕ばっかり...なんで僕なんだよぉぉぉぉぉ!!」

 木々を殴り、草を毟り、土を投げ、僕は荒ぶった。

そういえば初めてだ。虐めに関して僕が何かを吐き出したのも、涙を流したのも。

 孤独の中、僕はしばらく泣いた。しばらく泣いて、少し落ち着きを取り戻した頃に、僕は空を見上げた。

「これは神様がくれたチャンスなのかな」

 神様は、今までよく耐えた、もう終わりにしよう。そう言っている気がした。

 死ぬ場所としては絶好の場所だ。

 山頂からジャンプして木々に身を削られ、死ぬ。

 きっと痛い。でも今までに比べたらそんなもの屁でもない。

 それに誰にも気づかれず、孤独のまま死を迎えられる。

 僕は本当に死を受け入れ、山頂を目指そうとした。――――その時だった。

「よく耐えたよ、もう終わりにしようね」

 声が、した。

「誰だっ...」

 その声に振り向き、声を裏返して僕は声を放った。

「でもね、終わるのは君の人生じゃないよ。だって死ぬなんて勿体無いじゃないか!人生は謳歌するものさ。だから終わらせよう、君の辛かった日々を」

 その声の主は冬だというのに太ももの半分までしかない短いスカートに、フード付きの薄い黒の上着、そして長い金髪をなびかせている頭の上には先を変則的に折り曲げたとんがり帽子を被っていた。まるで...

「まるで魔女みたい。はいどーも、魔女ですよ?」

 そう言って顔を上げた声の主に僕は心底驚いた。

 心を読まれたのだ。

「君は...一体...」

「だから魔女ですよ。ちょっと動揺しすぎじゃないですかねぇ」

 そう言って距離を詰めてきた魔女に対して、僕は後退りすることさえ出来なかった。

初投稿!!どーも古家柴犬です!自分で書いたものが誰かに読まれるってちょっとどきどきします(笑)

語彙力、文章力等至らぬ点も...至らぬ点しかございませんが、長いようで短い物語を続けていこうと思うので温かく見守ってやって下さい!


批判、罵倒、感想等は僕のTwitter→@furuiieno__ まで是非!!

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