授業中ですよ
改稿、順番の入れ替えを行いました。
「えーー、というわけでその魔力の結晶が大陸の各地へと散らばり、ダンジョンコアとなったとされています。ではダンジョンについて説明を・・ヘンリエッタさん」
「はい!」
今はのどかな昼下がり。
昼休みも終わり食後で少し眠くなりがらも、ここ“シュヴァリヒト冒険者養成学校”では授業が行われていた。
教鞭をとる初老の教師に名前を呼ばれた生徒が、気持ちのいい返事と共に起立する。
「ダンジョンは通称8大迷宮と呼ばれるものが有名です。同時に魔王の魔力結晶による最古のダンジョンとして知られています。またその8つを起点に派生したと思われるダンジョンも、大小合わせて65迷宮が確認出来ています」
「はい、そこまででいいですよ。よく勉強していますね。因みにここ最近で発見されたものを含めると67ありますので覚えておくように、ではその補足を・・・」
さて、この世界の各地には様々なダンジョンがある。
迷宮型、樹海型、深海型、生態型、異界型、などなど・・・。
各々に特徴はあるものの、全てのダンジョンには総じてトラップや魔物といったものが、外敵を阻んでいる。
では何故そんな所にわざわざ潜り込む必要があるのか?
それは、そこに浪漫があるから?
とても希少な装備品や貴金属、アイテムなどが発掘されるから?それとも国益に繋がるから?
もちろんそのどれもがあるのだろう。
だがしかし、国が冒険者養成学校を作ってまでする理由になるかと聞かれれば、答えは否である。
国を挙げて攻略に乗り出す必要性がある理由。
それは偏にダンジョンが、刻一刻と増殖しているからに他ならない。
ダンジョン研究者によれば、大地の奥深くに根を張ったダンジョンコアは、そこから栄養、つまり魔力を吸い上げ続けているらしい。
その結果が派生した新たなダンジョンであり、手に入るレアアイテムではないかという説が現在では最も有力であった。
◇
座学の授業も終わり、今は実技講習を受ける為、生徒たちが揃って校庭へと向かっている途中だ。
各々が友達同士でグループをつくり、雑談をしながら歩いている中。
そこに混じって一人寂しく歩く少年クルスも、今年入学した訓練生であった。
「でさ、その冒険者の人はついに探し求めていたレアアイテムを見つけたんだって!」
「へぇ〜〜、凄い人だったんですね。それじゃあその人は、ダンジョンで行方不明だった恋人さんを?」
彼の少し前を歩いている女子のグループでは、友達同士でおしゃべりに花を咲かせている。
聞こえて来る声からすると、何処かの冒険者による恋愛譚のようだった。
「ええ、見つけたのよ。・・・でも彼は、そのアイテムを見つけてまで、探し続けるべきではなかったの・・・」
それまでは、テンポ良く語っていた話し手の少女は一転、暗い表情をみせる。
ごくっ。
友達の二人が固唾を飲んで、話の続きに耳を傾けると、話し手の少女はその結末を告げた。
「だって、そのアイテムこそが、その彼女の成れの果てだったんだからっ!!」
「いやぁぁぁ〜〜〜〜っっ!!!」
どうやら怪談話だったらしい。
「にゃはははははっ!!」
見事驚かせる事に成功した話し手の少女は大変ご満悦の様子。
この明るくサッパリとした性格の彼女は、猫獣人族のスカウト志望で、名前は確かチェルシーだ。
あまり他人に興味を持たない傾向にあるクルスは、同じクラスメイトの半分も覚えてはいない。
「やめてよね?そ、そんな話信じないんだからっ!!」
「エッタはわかりやすい。可愛い・・・」
更にその内の一人はクラスのまとめ役であり、顔でもあるヘンリエッタ。
優しく生真面目で、人見知りのクルスにしては珍しく好感を持てる相手であった。
しかし残念ながら、もう一人の名前には心当たりがない。
やがてクルスは、騒いでいるクラスメイト達を避けるようにして、一人先に校庭へと急いでかけていった。