私の日常①
やっと出てきました。
本編の中心人物。
サポーターのシルヴィアさんです。
からんからんっ・・・。
サラリとしたストレートの黒髪を揺らしながら一人の少女が扉を開けて入って来た。
まだ幼さを感じる彼女の肌は陶器の様にきめ細やかで、そのエメラルド色の瞳は神々しいまでに澄んでいる。
そんな彼女がやって来たのは、とてもお洒落な喫茶店・・ではなく。
多くの荒くれ野郎共とワイルドなお姉さん方が集まる、ここロベルタ・ガーデンの冒険者ギルド【南支部】である。
たった今入って来た彼女も、その背中には大きく無骨なバックパックがその背中には背負われていて、見た目に反して旅人風の出で立ちである。
説明が遅れたが、ここロベルタ・ガーデンは世界8大迷宮の一つであり、その地下大迷宮の入り口を中心に、街が円状に広がっている。
特に迷宮の広大さは有名で、その深部の末端はどこ広がっているのか未だに把握出来ていないほどだ。
そんな規模も人も大きな街に冒険者ギルドが一つではとても足りるはずもなく、本来は街に一つ二つあればいい方である冒険者ギルドが、この街にはなんと4支部も存在していた。
「こんにちは。当ギルドにようこそ・・、あ、シルヴィーお姉ちゃん、おかえりなさいっ!!」
鈴の音に反応して顔をあげた、元気に挨拶をした受付嬢は、相手が知っている顔だとわかると、ピョンと椅子から飛び降りてタタタタッと駆け寄ってくる。
この小さな女の子は、その見た目通りまだ7歳の少女である。
先ほどの入り口にかけられた鈴の音は、この支部のちょっとした名物のようなものであり、何を隠そうその製作者はこの子が学校の工作で作った力作である。
「ただいまハンナさん。でもまだお仕事の途中でしょ?お客さん困ってるよ。」
シルヴィアはハンナを抱きとめた後、優しく諭すように話しかけた。
そう言われてハンナが自分の席を見てみると、いい歳したおっちゃん冒険者が『はんなちゃ〜〜ん・・』とガックリと項垂れでいる。
「そうだぞハンナ!早く仕事に戻れ!!」
「ひぐっ!?」
一番奥の受付にいた、これまたムッキムキ&眼帯のオジさんが厳しく注意をすると、ハンナはビクッとして泣きそうになってしまった。
「あっ、いや待て!そうだな・・今いるお客さんが終わったら休憩とっていいぞ?」
いかに強面な男とはいえ、7歳のハンナが泣きそうになるとなれば、慌ててしまうものなのか。
彼は直ぐにそう言い直したのだった。
「えへへ、お父さんだ〜い好きっ!!シルヴィーお姉ちゃん、ちょっとだけ待っててくれる?」
「勿論です。さ、行ってきなさい」
「うん!」
ハンナは可愛く返事をすると、仕事場へと戻って行った。
さて、やはり紹介しないわけにはいかないのが、ここでドッシリと座っている受付ジョーである。
実は彼こそがここのギルドマスターであり、ハンナの父でもある、ジョセフ=ワイグナーその人であったりする。
「あらあら、皆さん御免なさいね?どうぞお仕事にお戻りになってくださいな?」
愛娘に厳しく接しながらも、それ以上に溺愛している旦那に困った顔をしながら、その場を沈めているのがハンナの母親であるアメリアだ。
彼女の見た目は、まんまハンナが大きくなったらこうなるであろうと思うような美人さんである。
因みに彼女は元、・・いや現役受付嬢でもあったりするので、親子3人+スタッフさん数名で回しているアットホームなギルドがここ南支部なのだ。
「シルヴィアさんお疲れ様でした。新人の彼らは如何です?」
「如何も何もダメダメです。つい先ほど隣の治療院に放り込んできました」
「相変わらず手厳しいんだから。でも、ありがとうね、助かっているわ」
「サポーターの仕事は、間違ってもお守りなどでは、なかったはずなのですが」
こんな気安い会話を交わせているのも、この二人は長い付き合い・・それこそアメリアがまだ15になり、ここで働き始めた頃からの関係であるからだ。
「では私はいつもの席で待っているので、ハンナさんに伝えてください」
「わかったわ、今度何かお返ししなくちゃね」
二人は話しを終えるとアメリアは仕事へと戻り、シルヴィアはいつも使っている窓辺の席にむかった。