目的の違い
結局8月に上げれなかったクソ雑魚ナメクジですどうも。
皆様の応援のおかげでローファンタジーのジャンルで日間65位になれました。ありがとうございます。
対抗戦開始から、およそ三十分が経過した。
職員棟二階の西側階段にある図書室で一人を撃退してから、俺は各教室を回って静城を探していた。
ざっと確認しただけだったが、それでも途中で何回かは交戦し、どれも一応は勝利できた。
当然ながら、静城を見つけることはまだ叶っていない。
そんな中でもアナウンスは続き、やはりかなりの人数が敗退して、残すところおよそ半分より少し多いくらいだろう。
そして今、俺は職員棟三階にて全力で走っていた。
<高速移動>まで使って全力で、だ。
うちの学校は教室棟、職員棟ともに横に広く、二校舎したないため通常の校舎が約百六十メートルとすると、うちの校舎は二つとも約三百メートルと倍近くある。
そのため、渡り廊下は東側、中央、西側と三つ存在し、双方の行き来にそれほど不便を感じることは少ない。
クラスは全部で九クラスあり、対抗戦のための準備室と自習室という名の空き教室を含めて十六教室あることが横幅の内訳となるのだが、あと少し足りない部分はトイレの数やら階段の広さやら色々あるが、それはそれとして置いておこう。
じゃあ何故、俺が走っているのかは、今も後ろから降ってきている大量の棘が原因だ。
「避けるな、当たれ」
誰が当たるか、と内心突っ込みを入れながら<千里眼>で後ろから発射される棘の軌道を見てから縦横無尽に動きまくって回避し続ける。
<千里眼>と<高速移動>の同時使用は少しきついが、あの針に当たれば用救護の流血になることは確定するといっていいだろう。
というのも、後ろから親の仇のような勢いで追いかけてくる男子生徒に当然ながら見覚えは無い。十分程前に丁度二階の教室を見終わる頃に中央の渡り廊下から現れたのが始まりだ。
当然、その前にもいくらかの交戦があり、距離も離れていることから正直油断していたと言えば反論はできないが、それでも俺は警戒をしながら距離を詰めようと床を蹴った。
だが、結果として俺はそこから下がらざるを得なかった。
男子生徒は俺を見つけた瞬間に、体中からハリネズミのように棘を生やし、そして真っ直ぐ俺へと発射した。
それから今まで、二階にとどまらず三階にまでこのどうしようもない鬼ごっこは続いていた。
<高速移動>を使っているというのに、男子生徒の針は寸分たがわず俺を狙い、更にはそんな俺に追いすがるように彼は走って追って来ていた。
正に予想外と言うしかない。
「そらそら、逃げるな」
しびれを切らしたのか、男子生徒は今までに見ない動きを始める。
右足のつま先に針を生やし、そのまま左足で飛んだ後、蹴るようにして俺に発射した。
「早っ!?」
その速度は今までの比ではなく、目視した時点で既に直撃寸前だった。
俺はたまらず、咄嗟に横へ飛び退いた。
そこは、教室の窓だ。
ガシャンと、けたたましい音を立てて、その教室、理科室へと右半身を犠牲に飛び込んだ。
よくある教室と一体になったかのような特殊な形をした机の実験台はそのままに、椅子だけが準備室へと片された、なんとも寂しい教室となっていた。
通常よりも広い理科室だが、椅子がないだけでより広く感じるのは、普段見慣れたものが少し変化しただけでも全く違った印象を受けるような現象と似ている。
「ぐっ……」
だが、それよりも。俺が初めに感じたのは、今や珍しさすら感じる痛みだ。
途中、教室の窓を破壊する所まではいい。
それはどうにか<振動操作>を使って、触れるだけで破壊は可能だった。
だが、その後に破片となった窓の残骸へ倒れこむ形となったからか、切り傷と擦り傷があちこちに出来上がっていた。
着ていた制服にはガラスで切ったのだろうか、破けている部分が何か所か見られる。幸いぶつかったのが右側であったので、左腕に着けている腕章にはこれといった傷はないが、『アクセス権』で痛覚を遮断できないことがもどかしい。
「クッソ……」
動く分には気にならないが、痛いと感じることには変わりなく煩わしさを感じさせる。
けれど今はそんなことを気にしている余裕はなかった。
巻き戻るように窓が修復されていくなか、引きずるように体を起こすと俺はすぐさま奥の方へと駆けていく。それと同時に、男子生徒も俺に追いついたらしい。
俺が奥へ移動する頃には、修復された窓の方に男子生徒は立っていた。
「さて、チェックメイトだ。随分と手古摺ったが、どうだ? 校内三位の俺を相手にここまで奮闘したんだ、ここいらで降参するのも悪くないんじゃないか?」
「悪いが無理だな。こっちにだって目的があって参加してる。でなきゃ俺は自分で辞退してるよ」
時間にして約十秒間、俺達は向かい合った。
その間に、どうにか隙があるか探したが、教室の真ん中を陣取られているためにそれも難しい。
やがて、男子生徒は口を開いた。
「最後の警告だ」
そう言って、その間に修復された窓の方に右手を触れさせた。
意図が分からず、そのまま見ていると、今度は触れている窓の周辺に例の棘が勢いよく形成された。
「俺の能力は<茨>、体が触れている所ならどんな場所でも固い棘を形成できる」
「……それで?」
校内三位という男子生徒の発言を聞いて、その表情を見て、やっとその意図を理解する。
奴の顔は、嗤っていた。
俺を真っ直ぐ見て、俺の顔を見て、間違いなく奴は楽しんでいる。
その証拠が、能力を発動した直後に見せた、あの笑みだ。
奴はこの対抗戦、果てはランキングバトルを通じて、大方人が怖がる姿を見て楽しんでいるんだろう。
悪趣味な事この上ないが、それでも言わせてもらおう。
「……まだ甘いな」
「……あぁ?」
俺の言葉を聞いて、奴は明確に尖った。
「甘い? 俺がか? ふざけるのも大概にしろよ」
「ふざけてなんかない。何せわざわざ警告してくれるんだ、優しいじゃねぇか」
「……」
単純な運動能力ではあちらの方が上。それは<高速移動>で走る俺に、素の身体能力で追いかけつつ攻撃を加える程の余裕を見せていることから、良く分かるだろう。
能力の方も、物に触れてから一秒も経たずに棘を生やしていることから、どう贔屓目に見ても厄介なことは確実に言える。
そんな、単純に相手にしづらい奴を相手取った時に有効な手段。
既にそんなありふれた単純な策は打った。
後は、ただそれを利用するだけ。
「後悔するなよ」
そう言って、奴は足元から勢いよく、棘を生やし始める。
それは波紋のように広がり、この教室一体を埋め尽くさんと迫る。
もし対応を誤れば、あの棘の群れは確実に俺を串刺しにし、怪我では済まない事態となるだろう。
だが、先ほども言った通り、既に策は打った。
「ハハハハ! そら串刺しだァ!!」
瞬きをする合間も惜しい程に迫る棘を前に、俺はただ冷静に、詰み将棋の様に一手を打つ。
俺の仕組んだ単純な策。それは、相手の冷静さを欠かせること。
伸るか反るかの一発勝負だったが、奴は俺の挑発によく反応してくれた。
ある程度頭に血が上っていると、人は途端に周りが見えなくなる。
つまり、咄嗟の出来事を処理するのに空白が生まれる。
そのタイミングを自分で操作できれば、ほぼ自由に隙を作らせることができる。
だから俺は、笑った。
さっき煽ったのは、逆上を誘うため。それに乗った奴を今後どうするか、全ては俺のさじ加減ひとつ。相手がどれだけ強かろうが、ひとたび冷静を欠けばどうなるか、身を以て教えてやろうじゃないか。
俺の勝ちは確定した。後はただ単純な作業の様に手順を進めるだけ。
迫りくる棘を前に、俺は努めて冷静に右足を上げて、いつものように踏み抜いた。
――――――瞬間。
「……は?」
俺と奴は、ほぼ同時に訪れた浮遊感に身をゆだねていた。
それは凄まじい音とともに、今さっきまで迫っていた棘すら無効化すると同時に、死神が手招くように奴の動揺を誘っていた。
それは非常に致命的な隙だ。
この俺の姿が、『落下している』という状況を前に、完全に消去されている。
奴には俺の表情はおろか、今から何をされるのかさえ知り得ない。
それもそうだ。
自分の立っている床が何の前触れも無く破壊されれば、誰だって意識を下に向ける。
そう、俺はまるで呼吸をするように、当たり前のようにこの教室の床を破壊した。
だから今俺と奴は下の教室に落ちている。
そして、それは逆に下の教室の天井が破壊された証。光が消えた証。
「な!!?」
それは突然だった。
奴の身に着けていた腕章がまるで切られた後のように真っ二つになったのだ。
その、一本の線が入った腕章が。
『三年五組鮫島、失格。代表者失格のため速やかに退場してください』
「な……なんで……!」
余程ショックなのか、奴……鮫島はヒラヒラと落ちていく腕章を目で追うだけで、俺の方をちらりとも見ようとはしない。
何はともあれ、静城のことをどうにかする前に俺が退場する最悪のシナリオは回避できた訳だ。
俺はしっかりと下を見ながら、<振動操作>で着地の衝撃を殺して負担を掛けずに降りる。
単純な運動能力で言えば、かなり危険な相手だったが、鮫島の煽り耐性が低いお陰でどうにか勝利を収めれた。
正に、勝負事では先に冷静さを欠いた方から負けるという典型のような戦闘だった。
もしも鮫島がもっと冷静な奴なら、こうも簡単に勝つことはできなかっただろう。
「ふぅ……」
そういう意味では、実に幸運だった。
崩れた瓦礫が元の天井に戻る最中を横目にしながら、俺は教室を出る。
鮫島は最後まで、動かなかった。
俺が鮫島に向けてやったことは、酷く単純だ。
挑発して、周りが見えなくなった瞬間に<振動操作>で床をぶち抜き怯ませる。その後は下にできる影を使い<影操作>で鮫島の死角から腕章を切ったのだ。
だが、それも全ては鮫島が挑発に乗ったからこそ、成立した一種の綱渡り。
そうでなければ、あの飛びぬけた運動能力を以って回避されていたに違いない。
『三年六組藍田、失格』
その時、一つの放送が入った。
いや、もしかすると苗字が同じなだけなのかもしれないが、そのもしもを考えると驚きを隠せない。
三十分前、あれ程脅威に移った藍田が失格したかもしれない。
聞いた限り、クラスは言わなかったが、三年という情報だけは一致している。だがそれで決定できるほど浅はかに決め付けることもできない。
あくまで、可能性として考えるべきだろう。
「と、すれば、当たりは教室棟か……」
そして、その可能性を考えたとき、それが可能な人物は俺の知る限り一人しかいない。
当然、静城だ。
もし今の放送で失格になったのが、あの藍田翔子なら俺の目的である静城は向こうの校舎にいる可能性が高い。
それに、さっきまで職員棟の三階にいてそれらしい影も見ていないとなると、どちらにせよ教室棟の方へ行くのは間違いのない選択と言える。
だが、気になる点が一つある。
それは他のメンバー四人のことだ。
今の所放送では名前が挙がっていないからまだ失格にはなっていないだろう。
それなのに、未だ一人として職員棟では見かけていないということは、他の四人も教室棟にいる可能性が高いのだ。
つまりもし俺が先にクラスの連中に会えば、静城と話をする機会が格段に減るということ。
今までは会わずにすんでいたが、教室棟の方にそのどちらもいる可能性が高いということはどちらともある可能性が高いと言うこと。
だから俺はどうにか先に静城に会い、話を着けなければならない。
「そう考えると、何とも妙なレースになったもんだな。本来のチームメイトと先に会えばアウトか……」
本来の俺の目的は勝つことではなく、静城と話合うことだ。
他の四人との相違が目的であるが故に、俺にとって分断されることは有利に働き、四人には不利に働く。逆に、合流できることは俺にとって不利に働き、四人には有利に働く。
対抗戦に出るという手段は同じでも、目的が違えば結果はこうも違ってくる。
それは何とも形容しがたい。敢えて言葉にするならば、一種の疎外感だ。
自分だけ違う目的を持って行動していると言えば、それはそれで自己中心的なものだが、実際問題それを言われると弱い。
何を言い訳しようが、俺が独りよがりの理由で対抗戦に参加していることは間違いなく事実なのだから。
「!」
俺が丁度、三階への階段に足を掛けた時に<千里眼>を通じて見ていた三階の渡り廊下に意外なものが映った。
「……犬?」
その意外な人影、それは女子の制服を着た人型の犬だった。
四足で地を蹴って進む様はまさに獣。だがあくまでその形は人のものに酷似していた。
言うなれば、獣人と呼ぶべき装いと言っていい。
その獣人は教室棟の方から逃げるようにこちらの職員棟の方まで走ってくるようだった。
まるで何かから逃げるように、ほぼ全速力と思われる素早い動きで渡り廊下を駆ける。
そうしているうちに、どうやら階段まで辿り着いたらしい獣人はまさにアクロバティックに階段から跳んだと思えばそのまま壁を蹴り、三秒と経たずに二階まで降り立った。
当然、俺はその場で固まるわけにもいかずに後ろへ飛び退いて相手の反応を覗う。
誰かはわからないが、あれだけの身のこなしができる以上どういった行動にでるか予測もできない。
「あ、黒谷くん!」
「……菱田なのか?」
女子の制服を着た獣人の正体は、なんと菱田だった。
能力のことは作戦会議の時に聞いていたが、実際にここまで姿が変わるとは思っていなかった。
「他の奴らは?」
「それが――――――」
どうして逃げるようにこっちに走ってきたのかはひとまず置いておいて、教室棟の状況を聞き出そうとした時、放送が入った。
『二年三組田辺、篠原、失格』
うちのクラス二人の失格を知らせる、放送だ。
それも、同時にということは、教室棟で何かがあったことに他ならない。
俺はこの状況で、果たして目的を達成できるのか、一抹の不安を抱えながらただ放送を聞いていた。
まだまだ、対抗戦は終わらない。
よければブクマ、感想等よろしくおねがいします。




