破壊の体現
◆◆◆
「なにやってんだお前?」
休日に目的も無く町をぶらつき、ふと目に入った白髪の中学生くらいと思われる不思議な少女。
少女は興味の示すものを眺めては次へ、眺めては次へと何をするでもなくただ見ていた。その真っ白な服装と醸し出す別の世界を映すような雰囲気によって周りの人々と比べかなり浮いているように見えた。
だからだろうか。何の目的もなく、その少女に声をかけた。
声をかけられこちらに振り向いた少女の表情は心底意外そうな顔をしていた。自分が声をかけられることなどまるで考えていなかった顔だった。
「別になにもしていないさ。ただ暇だったから眺めていただけ。」
だがすぐにその表情を無くしこちらの問いに答えた。
「そうか、悪かったないきなり声かけて。」
「いや、気にしないさ」
違和感を覚えた。何となくで形容しがたいが、そのことだけははっきりとわかった。
「でもそうだね、本当に悪いと思ったなら私と暇を潰さないかい?」
そう笑って少女は俺に提案する。普通なら、普段なら断っていた。なのに、
「ああ、いいぜ。何すんだ?」
その時はなぜか即答していた。
打算など一切なく、何も考えずそういうものだからと自然的に。
「私のことはシロとでも呼んでくれ」
「シロか、俺は黒谷蒼太。呼び方は任せるよ。」
「なら蒼太だな。」
―――――――――
「なぁ蒼太、蒼太は無能力者だろ?」
歩きだしてから少しするとシロは俺にそう聞いてきた。確信を持って問われたその言葉は正に事実の確認でしかなかった。
ちょうど勉強でわかっている問題を解いて答えに丸を付けようとする感じに似ている。
「……そうだけど?」
若干苦々しげに俺は答えた。法律やランキング制度で迫害などといった酷いものはなくなったが、人は愚かだ。自分より下の者を見つけると無意識にちょっかいを出す場合が多い。よって水面下ではいじめは絶えなかった。
俺も無能力者でしかも妹は能力者であったから比べられることは少なくなかった。
大抵、無能力者とバレた時の対応は距離をとられるか、見下すか、励ますか、気にしない、といった主に4つの対応をされた。
大半は見下してくる中、こいつはどうだろうかと俺は返答を待った。
「じゃあもし、私が能力を蒼太にあげるって言ったらどうする?」
「―――――――――は?」
その時、無能力者かと問い警戒していた俺は考えを外に漏らすまいと気張っており顔は険しかった。だが今の問いに対して警戒していた俺の内心と口から洩れた内容は一致していた。
即ち、『何言ってんだコイツ?』である。
「……いや、いやいやいや、自分の能力あげるとか無理でしょ。今まで能力を譲渡できるって聞いたことないよ俺?」
「だから、もしの話だよ蒼太。」
「もし」の部分を強調してそう言ってくる。
だがどう考えても胡散臭くてありえないと俺の脳はそう結論づける。
でももし、本当に能力を貰えるなら。
「もし、ね。」
「そう。もしだ。」
「―――いらない。」
「……いいの?本当に?」
「いらない。そもそも能力者と無能力者の違いは能力の有無だろう?昔の人たちだって能力なんてなかったんだ。なら、あってもなくてもいっしょだろう?『過ぎた力は身を滅ぼす』。だったらいらないね。そもそも使いこなせるとも限らないし、そうなったら宝の持ち腐れだ。」
「そっか。」
「ああ、それで良いんだよ。」
いきなり力を手に入れて調子に乗らないかが最も不安だし。
「じゃあ、ちょっとゲームでもしないかい?」
「は?ゲーム?」
「どうせ暇だし難しくないから。報酬だって用意するからさ、いいだろう?」
これが始まりだった。
「暇なのは同意だが報酬を用意するからって参加してもらえるなんて甘く考えるなよ、俺は嫌だ。」
「なんでいやなのさ。別にいいだろう?ゲームに負けても何も要求しないからさ。」
拒む俺にシロは頼むよといったふうに食い下がってくる。このまま相手をするのも面倒だと思い、俺は渋々といった感じで折れたのだった。
「しょうがない。やってやるよ、ただしやるからには報酬狙っていくから覚悟しろよ……」
その後、何やかんやあって勝負をして勝ち、結果報酬として能力を押し付けられるように受けっとった。
勝負の内容は思えていないが、シロのことだからくだらないものだったんだろう。覚えていないということはそういうことだったのだ。
だが確かにあの時のあの会話で俺の運命は定まったのだろう。
あの日外に出ていなければ、シロに声をかけていなければ、きっと俺はいつも通りの無能力者だったのあから。
◆◆◆
『学校に1時間遅れていく』という神託をなぞるため時間を潰さなければならないが、俺は暇だった。
その時ふと頭に浮かんだのは約三年前の記憶。
まだただの無能力者だった最後の日のことだ。
あれが無ければこうして『神託』をこなしていなかったと思うと俺だって少しは感傷的になるものだ。
確かに俺は面倒事は嫌いだ。無能力者だというだけで能力者の後始末を押し付けられたりするのは横暴だと思うし、今でも納得なんかできない。
いじめを受けていた頃だって、俺は何も悪くないのにもかかわらず先生に言えば逆に甘いことを言うなと怒られる。それを知ったヤツらは何で先生に言ったんだとそれの激しさを増してくる。
でも、何事にも例外はあるように、自分が楽しいと思える面倒事ならば俺は構わないといつしか思うようになっていた。
たぶん、あいつの、シロの影響だろう。
「時間か。」
ふと時計を見やり、いつも出る時間の一時間後の九時十五分を指すことを確認した俺は鞄を持って玄関に向かった。
それから学校へ歩を進めて約十分程度、気を張って歩いていたからかいつもよりも歩く速さは遅めだ。
もうそろそろ学校へ着くが道中何かあったかといえばまだ何も起きていなかった。
このままの速度で行けば学校へ着くのはあと二分あるかどうかだ。とすると今回の神託は事故か何かの回避だろうか。
そう考えを巡らせながら残りの道を進めていた。
(もう学校か、今回は何かの回避だろう)
そう結論付けて校門に向かっていた。
「ん?」
そして目線の先、校門の前に立つ人影を目にする。
「なぁアンタ、なにやってんだ?」
後ろ姿しか見えていなかったがどこかの制服を着ているようで少なくとも俺の通う秋原高の生徒ではないとわかる。
不審に思い俺はその人影に声をかけた。
声を聞いて人影がこちらを向こうと振り返る。
その時点ではまだ遠目だったが女子だとは分かっていた。そしてその女子生徒の顔を見た瞬間、俺は本能から危険を察知した。
何故ならその女子生徒の瞳は赤黒く染まっていたからだ。
「……アア、アアアアア!!!」
女子生徒は俺を視認すると興奮した様子でこちらを睨みつけてくる。その赤黒い目が更に光って見えたような気がした。
「!!」
やばいと感じ半ば直感に任せるように右へステップし、女子生徒の直線距離から外れる。
その瞬間、俺を襲ったのは危機信号を発した脳をすべて塗りつぶすほどの強烈な喪失感と痛みだった。
「―――は?」
その原因を知ろうとして見ると俺の左腕は肘から先が消失していた。目を丸くして驚くが、今はそんなことをしている暇はない。
「があああああああ!!!」
そう頭では分かっているがあまりの激痛にその場でうずくまってしまう。
「アアアアアアア!!!!」
またもや叫び声をあげてこちらを見やる女子生徒にハッとしたように顔を上げた俺は体に鞭を打って無傷の右腕を動かしてすぐさまスマホをポケットから取り出し<空間操作>を使ってその場から離脱した。
そして転移先である女子生徒から二十mほど離れた直線の道に座り込んで初めて、状況を理解できた。
「ウウウアアア……」
女子生徒の目線の先は巨大なものが這った後かのように抉れていた。おそらく俺の左腕はそれに巻き込まれたものだと推測できる。
安全圏からスマホに番号を打ち込み能力を発動させる。痛みで手が震えるてもお構いなしだ。そして、ようやく落ち着いた思考で打開策を考え始める。
『痛覚を遮断。傷口を完全に止血。再生を開始。』
静城に言った能力の例外、それは俺自身に限り明確に言葉を発言する必要がないことだ。
現にいま俺の痛覚は遮断され、地面を染める程の流血も止まっており、とりあえずは無事といえる状態であった。
能力が発動し、俺の左腕は再生を初める。だが再生させるのに体力を使っているので奴を無力化するのはその能力の危険も加味して一瞬で意識を刈り取ることが理想的な勝ち方だ。
しかし奴の能力のトリガーがわからない以上迂闊な行動はできそうにない。
正気を失っているように見えるがそれが演技なら俺が突っ込んでいった瞬間を狙われてあの世行きだろう。
「ウアアアア」
依然としてあの女子生徒は俺に視線を向けてきている。
おそらく彼女の能力は視線の先のいくらかの範囲を破壊、若しくは崩壊させる能力だろう。
すると必然、彼女の視界に入らなければ安全だろうが、現在の立ち位置は離れているとは言え彼女の正面に位置しているため振り切ることは容易でない。
近づけば的、振り切ろうにも困難。ならば結論として当然あがるものはやはり、遠距離攻撃。
ここで戦わずして逃げることを選択した場合、後の被害を考えねばならない。
はじめ、学校の方を向いて赤黒い目を向けていたことから、その目的に学校の破壊があることを念頭にいれねばならない。そこから考えると、まず最初に狙われるのは学校と推測できる。
今俺が逃げるとその被害はつまり、学校にいる人間全員となるだろう。
何故なら彼女の能力が破壊、若しくは崩壊ならば校舎を破壊すればよいのだから。
遠距離攻撃というが<空間操作>はまだ制御が甘いので使えない。ならばーー
俺は<振動操作>を発動すると同時に右足を大きく振りかぶり、スタンプのように振り下ろした。
そして、振動は地面を伝わり女子生徒の足元へと一瞬でたどり着く。
ゴォォォオオン
すると鈍く轟音が鳴り女子生徒の体は宙を舞う。
「まずは厄介極まりないその能力を奪わせてもらう」
足を振り下ろしたと同時に<高速移動>を使い目にもとまらぬ速さで駆け抜け約三mほどの距離まで近づいた。
もう左腕もきれいに再生しており、右手に持ったスマホは耳にあてられていた。
すでに番号は打ってある。あとは能力を発動するのみ。
これでチェックメイト!
勝利を確信し俺の口角が悪役が如く吊り上っているのを自覚しつつも女子生徒の能力が発動される前に発言する。
『半径五m以内の能力を封印!』
範囲を指定し明確にすることで能力発動のハードルをクリアする。
能力の発動を自分で確認しつ女子生徒の確保へと動く。
その少女の目が赤く光るのを確認するまでは。
2018/8/13、少し気になる所を修正




