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三人の繋がり(2024年編集)

 ~ 六月一日、十四時。警視庁捜査一課 ~


 佐久間は、これまで判明した事実をもとに、安藤たちと、今後の捜査展開を議論している。捜査会議を開く前に、方向性を決めておきたいからだ。


 近藤将太と、身元不明者の関連を調べていたが、今のところ、何の繋がりもない。逆に、全く関係ないと思われた、披露宴トラブルで、身元不明の正体が判明した為、この点が焦点となっている。


 佐久間は、新事実を、ホワイトボードに書き込んだ。


 ○近藤将太のアパートで、死亡したのは、田中大介、三十五歳。

 ○田中大介は、システム会社に勤務しており、同僚に、羽鳥慎吾、

  三十三歳がいる。

 ○羽鳥慎吾は、四月十八日に、東京都江東区有明の、結婚式場

  (東京ベイ有明)で、披露宴を行っている。

  この酒宴に、田中大介も参加していた。

 ○披露宴の時間は、十三時十分~十五時十分の二時間。

  式の途中で、新婦が失踪した。

 ○新婦の氏名は、伊藤奈緒美。

 ○新婦側の出席者は、杉山京介という者が、伊藤奈緒美の代わりに、

  (株)キャストに、三十名程度を手配し、契約した。

  前払い金は支払われたが、後払い金の支払いが、杉山京介から

  拒否され、(株)キャストとトラブルとなっている。


「思わぬところで、繋がったな?」


「今回は、本当に意外でした。内線を回してくれた、総務課に感謝です」


「警部、田中は、結婚式場を出て、迷わず、犯行現場に行ったのでしょうか?」


「時間検証してみたんだが、結婚披露宴の時間が、十三時十分~十五時十分。結婚式場から、国際展示場駅までの移動時間が、十分。国際展示場駅~渋谷駅までの、鉄道乗車時間は二十分だから、待ち時間を考慮すると、三十分。渋谷駅~道玄坂までの移動時間が、二十分だから、道玄坂のアパートには、十六時十分に着いた事になる。以前、行動科学的に分析(プロファイリング)した通りなんだ。近所に、田中の職場があって、立ち寄ったとしても、死亡推定時刻の、十六時三十分圏内に入る」


「会社の方は、何か進展があったのか?」


「田中と接した人物は、いませんでした。ただ、田中の兄と名乗る人物が、上司に電話を掛けてきました。『鬱病と診断されたから、三ヶ月程、休職させる』と、話したそうです。これを考えると、田中を殺害した者が、発覚を遅らせる為に、画策したと、考えられます」


(………)


「田中大介、伊藤奈緒美、杉山京介の関係が、事件の謎を解く、鍵になるかもしれないな。では、こう仮説を立ててみよう。伊藤は、式場から姿を消した後、どこかで田中を呼び出して、殺害した。その後、田中の職場に近い、近藤のアパートを選んで、遺棄した。遺棄には、杉山も共謀している。…かなり、暴論だが、伊藤の行方も、捜査枠に取り組もう」


「結婚披露宴の関係者が、殺されたのですから、案外、それに近いかもしれません。今のところは、アパートで、物的証拠が見つかっていませんし、遺棄された可能性が高いのも、事実です。何より、凶器が見つかっていないので、足取りを追いましょう。山さん、杉山の事は、少しは洗えたか?」


「本人に電話を掛けても、一向に繋がりませんでしたが、勤務先なら、分かりました。渋谷区千駄ヶ谷に飲食店を経営しています。その店で、接触は可能です」


「所在が分かっていれば、いつでも行けるな。では、感づかれない様に、経過観察してみよう。(株)キャストの不払いについて、話を聞く前に、伊藤と接触するかもしれないから、泳がすんだ」


「了解です」


「佐久間警部、それで、捜査の割り振りだが、どうするかね?」


「流れが見えてきたので、他の捜査員は、通常捜査に戻しましょう。田中の自宅、杉山の動向捜査は、人数が少ない方が良いと思うので、私と山さんで動きます。必要に応じて、日下を呼びますので、大丈夫です。それに、まだ少人数で捜査した方が、良い理由があります」


「理由?どんな理由だ?」


「田中を、どこかで殺して遺棄した。もしくは、アパートに呼んで殺した。もう一つ考えらるのは、田中、伊藤、杉山が、全員犯人で、アパートで揉めて、田中だけを殺した」


「新しい視点だ、それで?」


「たまたま、田中の会社に近い、都合が良さそうなアパートを選んだ。そう解釈も出来ますが、普通に考えて、二階の一室、しかも、一番奥の部屋を選ぶのは、現実的ではありません。しかも、部屋を荒らして、何かを探したのですから、あの部屋に、何か目的があったのかもしれません」


「そう言えば、忘れていたな。何も盗られていないので、そのままになっていた」


「それが、分かるまで、あの部屋は、警察官を常駐させるべきです。大家次第ですが、場合によっては、警視庁捜査一課で、数ヶ月、家賃を払ってでも、確保したいと思います。捜査員の総力を挙げる時は、そのうち、来ると思いますが、今は、その時ではありません。式場の聞き込みで、体力が削られたし、その時が来るまでは、力を温存させるべきかと思います」


「働き方改革か。分かった、稟議は通そう」


「承知しました、ありがとうございます」



 ~ 六月二日、九時。東京都板橋区 ~


 佐久間と山川は、板橋区弥生町を訪れている。佐久間は、田中大介の家につくまでに、昨夜、羽鳥慎吾から、送信されてきた、履歴書と、家族構成の資料に、目を通した。


(約束を守ってくれて、助かります)


 田中は、二人兄弟だが、長男であった為、長期休暇の電話をしてきた者は、明らかに犯人である。犯人が、捜査を遅らせる為に、仕組んだ事は事実だが、会社の労務管理が災いし、発覚が遅れた。


「警部、大家に立会を依頼して、了承を得ました。これで、入れます」


「大家さん、捜査に協力頂き、ありがとうございます。そんなに時間を掛けませんので、よろしくお願いします。田中大介の部屋は、どちらでしょうか?」


 大家の老婆は、耳が遠いのか、反応がない。耳元で尋ねると、二階を指差した」


(…あの部屋か?)


 大家は、鍵を開けると、部屋の入口に腰掛けた。


「ここで、お待ちして良いですか?何せ、歳だから、座ってる方が楽なんよ」


「大丈夫です、では、始めます。山さん、とりあえず、換気してくれ。鼻がもげる」


 山川は、鼻を摘まみながら、奥の窓を開けた。


 部屋は、酒、酒の肴、風俗雑誌だらけだ。


 室内の洗濯物は、一ヶ月半経過している為か、既に埃を被っており、加齢臭が漂っている。換気で、淀んだ空気が薄まると、山川は、物色し始めた。


「警部、田中は、結婚披露宴の当日、家を出てから、おそらく部屋には、戻っていませんね。ご祝儀袋が入っていたビニールが、そのままの状態で、テーブルにありますから」


(荒らされた形跡はないな)


 佐久間も、物色しながら、ある物を見つける。


「…山さん、あれを見てくれ。田中は、既婚者みたいだよ。単身赴任だったのだろう」


 本棚には、妻と子ども三人の写真が、立て掛けてあった。


(三十五歳といったら、働き頭だ。忍びないな)


 残された家族が、大黒柱を失い、どんな人生を歩んで行くのか。想像するだけで、胸が痛む。


「山さん、犯人(ホシ)は、どうして、この部屋ではなく、近藤のアパートを選んだのだろうね?この部屋は、荒らされた形跡はない。やはり、あのアパートには、何か秘密があるのかな?」


「確かに、預金通帳、貴金属もそのままですな。…無いのは、携帯電話と免許証です」


犯人(ホシ)は、田中の『存在だけ』を隠したかったのだよ。…もしかすると、これが、事件を解く鍵なのかもしれないね」


「田中には、どんな秘密が、あるんでしょうか?」


「殺されるには、必ず、()()()()()()()がある。そして、遺棄された場所にも、理由があるはずだ。捜査に必要なものだけ、持ち帰ろう」


(近藤将太のアパート、田中大介のアパート、何が違うのか、角度を変えて、考える必要がありそうだ。朧気だが、捜査すべき事が、見えてきた気がする)


 佐久間たちは、写真、手紙、通帳、会社書類などを押収すると、大家に説明したうえで、同意書を交わし、捜査一課に戻った。


(…さてと、何が分かるかな)


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