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被害者の身元3(2024年編集)

 ~ 六月一日、九時。東京都江東区有明 ~


 杉山京介の身辺捜査を、山川に託し、佐久間は、神崎と揉めている、結婚式場を訪れている。


 景観も素晴らしく、結婚相談会には、多くのカップルが参加している。


(潮風香る、オーシャンビューか。相場よりも、高そうだ)


 受付で、事情を説明すると、相談コーナーの一席に案内され、そこで待っていると、羽鳥家と伊藤家の、結婚披露宴を担当したという、専属進行役を紹介された。受付から、事情を聞いた専属進行役は、敢えて、社交辞令的な挨拶で、佐久間の様子を探る。


「お待たせいたしました。どうぞ、こちらへ。()()()()()()()()()()?」


(端から、壁を作る物言いだな)


「お忙しいところ、申し訳ございません。警視庁捜査一課の、佐久間と申します。実は、警視庁捜査一課に、(株)キャストという会社から、この披露宴に参加した、新婦側の配役代金について、未払いがあると、相談されましてね」


(料金の未払い?初めて聞いたわ)


「まあ、そうなんですか?私、担当者の、横峯と申します。お越し頂き、恐縮ですが、料金トラブルというのは、当方と、何か関係がございますか?話が見えませんが?」


(当たり前だ、関係のない話を振っている。本題は、ここからだ)


「そうですね。料金の未払い自体は、関係ありませんが、『花嫁が消えた』と、噂を小耳に挟みましてね、宜しければ、少しだけ、状況を伺いたいんですが?」


(…本題は、こっちという訳ね。やられたわ)


 横峯は、少し戸惑いを見せ、口を開こうとしない。佐久間が、口を開くまで、幾らでも待つ姿勢を見せると、根負けした橫峯は、やんわりと断りを入れる。


「個人情報に関わる事は、当方の信用にも関わるので、申し上げ出来かねますが」


「料金未払いは、伊藤奈緒美さんの披露宴に対して、杉山京介と名乗る人物が、新婦側の配役として、三十名程度、(株)キャストに発注したのが、事の発端です。杉山京介という人物と、面識はありませんか?」


(………)


 橫峯は、記憶を辿って、首を横に振った。


「記憶にございません。私どもは、披露宴計画については、両家の当事者と行いますので、(株)キャストさま、杉山京介さまと、直接交渉する事はありませんし、当方の範疇外です」


「花嫁が消えた時、新婦側の配役たちは、どんな様子でしたか?」


「割と冷静でした。新郎側に叱責を受ける前に、さっさと、退散された様ですし、騒がれたとしても、新郎側の比ではありません」


「伊藤奈緒美さんとは、その後、連絡はついたのですか?」


「人の目がありますので、個人名はお控えください」


「これは、失礼しました。改めます」


「新婦に対して、当方からは、連絡はしておりません。結婚披露宴も、途中でお開きとなりましたし、必要な場合は、新郎に、ご連絡を差し上げれば、事が足りますので」


「新婦が、式場から、いなくなる前兆は、何かありませんでしたか?披露宴の打合せ時点で、結婚に乗る気ではないとか、当日になって、雰囲気が変だったとか、何でも結構です」


(しつこい刑事ね、何で、そんなに知りたがるの?)


「…いえ、なかったと思います」


 困惑する様子を見せても、佐久間の質問は続く。この刑事は、納得するまで、引き上げるつもりは、ないのだろう。であれば、早く退散して貰うには、ある程度、守秘義務を守れる範囲で、話すしかない。橫峯は、そう思い始めていた。


「何か、気になる点でも?」


(…仕方がないわね)


 横峯は、周囲を見渡し、誰もいない事を確認してから、口を開いた。


「他言無用で、お願い出来ますか?」


(------!)


「お約束します」


「結婚披露宴の前には、式場の担当者・新郎新婦間で、双方が納得するまで、演出、お料理、引出物、会場の席順まで、詳細に、打ち合わせします。披露宴は、お席の順番が、とても重要で、親御さまのご兄弟順、会社の方の座る順、友人の座る順など、当日に、揉めない様に配慮するんです。…実は、一度だけ、新郎に内緒で、新婦が、お忍びで、いらっしゃった事がありました」


「穏やかではありませんね?続きを伺っても?」


 橫峯は、静かに頷く。


「会場の席順が決まると、参列者には、結婚披露宴のご案内文を、当式場から発送しますが、新婦の申し出で、『新郎分のみを、発送して欲しい』と、承りました」


「新婦分は、自分で発送する。そう言ったのですか?」


「…はい。予約される、お客さまの中には、『案内文の発送も、婚礼行事の一環』として、率先される方もいらっしゃいます。ただ、新婦には、その感じは見受けられませんでした。訳ありか、訳ありでないかは、この仕事をしていたら、粗方、肌で感じますから」


「新婦は、訳ありだったのですね?」


「…ええ。でも、私どもは、お客さまに、どんな事情があっても、それを詮索しません。『当式場で、挙式をしたい』と、選んで頂いておりますので」


(尤もな意見だ。この人は、この仕事に、人生を賭けているのだろう)


「そうですね、分かる気がします」


 自分の考えを肯定する佐久間に、少し、嬉しさを感じた橫峯は、情報を追加する気になった。


「あと一つだけ、開示出来る事がございます。新婦が、お忍びで、いらっしゃった際に、披露宴会場の外で、新郎以外の男性と、口論しているのを目撃したと、別の担当者が申しておりました。その方が、どなたかは、分かりかねますが」


(------!)


「どの様な容姿か、分かりますか?」


「…いいえ。ただ、長髪で、三十歳前後くらいだったと、記憶しております」


(長髪で、三十歳前後?もしかして?)


「その担当者に、話を伺えませんでしょうか?」


「分かりました。このまま、お待ちください。呼んで参ります」


 橫峯は、奥の待機室に消えていく。


(まさかとは思うが、ここで、繋がるのか?)



 ~ 五分後、相談コーナー ~


「お待たせいたしました」


 横峯は、男性担当者を連れて、戻ってきた。


「お手数をお掛けします。新郎が口論した男性とは、この似顔絵の者でしょうか?」


(………?)

(………?)


 似顔絵を提示しても、ピンとこない様だ。


(似顔絵だから、分からないか。背に腹は代えられない)


 佐久間は、やむを得ず、司法解剖時に撮影された、顔写真を見せる事にした。


「とある殺人事件で、被害に遭った方の写真を、お見せします。この顔に、見覚えはありませんか?」


(-------!)

(-------!)


「多分、この人です!横峯さん、ほら、見た事ないですか?」


「あれ?この人、結婚披露宴に、出席されていた方だわ?…確か、新郎側の方よ?新婦の、お色直しの前に、新郎に嬉しそうに、お酒を注いでいたもの。この方、お亡くなりになったんですか?」


「ええ、四月十八日、東京都渋谷区道玄坂の一室で、死亡していましてね。礼服姿で、死亡していたので、結婚式場を、延々と捜査していたんです。この男性の身元が分からなくて、困っています。この男性の氏名ですが、式場の記録で残っていませんでしょうか?」


「式場の参加者は、データが残っていますが、どの方が、この男性かは、分かりかねます。でも、新郎なら、ご存じですわ。連絡先をお教えいたしますので、新郎にお尋ねください」


「助かります、捜査協力ありがとうございました」


 佐久間は、丁寧に頭を下げ、結婚式場を、後にする。そして、新郎である、羽鳥慎吾の連絡先を、手に入れたのである。


 伊藤奈緒美と杉山京介の関係、居場所は、特定出来なかったが、身元不明者に繋がる、糸口が見えた。


 佐久間は、安藤に中間報告を入れ、『聞き込み捜査を中止して欲しい』と、舵取りを依頼すると、その足で、羽鳥慎吾の所へ向かった。


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