こだまする銃声(2024年編集)
~ 二十一時、野田市清水公園 ~
山川の追跡が功を奏し、犯人は、未だ現れない。
早い段階で、犯人確保の為の装備品、人員を分散し、配備する事が出来た。野田警察署の北原は、佐久間が、どの様な現場指揮を執るのか、心底楽しみで、近くで学ぶつもりだ。
佐久間は、仁義を切って、野田警察署に現場指揮を任せるか尋ねたものの、北原は、それを否とし、佐久間に捜査指揮を譲った。佐久間も、それを察し、警視庁捜査一課の事件として、現場を仕切る。
「佐久間から、全捜査関係者に告ぐ。犯人は、昼間に、警視庁捜査員二名を射殺し、逃走中の強行犯である。『捜査員の身が危険』と、少しでも感じたら、発砲を許可する。但し、私が合図するまで、照明のライトアップ、確保行為は禁ずる。…以上、肝に銘じよ」
「a班、了解」
「b班、了解」
「公園西入口班、了解」
「公園東入口班、了解」
「警部、全て、準備完了です」
(……良し。あとは、犯人待ちだな」
「私が犯人なら、日が変わる前か、明日の未明までに、この闇夜に紛れて、こっそりと現れるだろう。それまで、気配を悟られる事が無い様、潜伏してくれ」
~ 二十三時五十五分、野田市清水公園 ~
佐久間が、配備を完了させてから、三時間が経過しようとしている。
『犯人は、本当に現れるのか?』と、捜査員たちが、痺れを切らし始めた頃、公園西入口班から、無線連絡が入った。
「公園西入口班から、緊急連絡。不審者一名、正門側赤門へと、歩いて侵入。繰り返す、不審者一名、正門側赤門へと、歩いて侵入」
(来たな)
「佐久間から、全捜査関係者へ。…これより、作戦を開始する。私の合図を待て」
「a班、了解」
「b班、了解」
「公園西入口班、了解」
「公園東入口班、了解」
不審者の足音が、暗闇の砂利道に響く。
足音が、赤門裏側で止まった。地面に、何か重たいものを、落とす音がしたかと思えば、今度は地面を掘る音が聞こえ始めた。
「ザック、ザック」
(…この様子だと、こちらの動きに気が付いていない)
不審者が地面を掘っている音に、タイミングを合わせる様に、佐久間が右手を挙げると、即座に、赤門が照明によって照らされ、各所の出入り口が閉鎖される。
「そこまでだ!!!」
号令と共に、不審者がライト上に浮かび上がった。
(------!)
不審者は、突然の出来事に硬直し、動けない。
佐久間は、拳銃を構えながら詰め寄り、他の捜査員も、佐久間を援護する様に、発砲体制を維持する。
「終わりだ、警視庁捜査二課、梶木和幸。…佐野徳行、池田友憲の殺害容疑及び強奪金詐取容疑で、現行犯逮捕する」
(------!)
梶木は、惚け始める。
「なっ、何ですか、これは?犯人は、佐野さんでしょう?違法行為ですよ?」
「梶木が、佐野を内部告発した時から、梶木もまた、捜査一課から、監視されていたのだよ」
(------!)
山川が、『自分が監視役だ』と言わんばかりに、親指で自分を差すと、二重内偵していたと明かす。
「なっ、何故、分かったのですか?」
「そりゃあ、梶木の演技が大根だからさ。内部告発するにしては、詳細まで内容を掴んでいたし、暗号の事も知っている。佐野は優秀だが、真面目過ぎたからな。気の荒い連中の制御は、お手のものでも、組織内部からの崩しには、弱いと思ったんだよ。…となると、残りは梶木。消去法で、お前しかいないんだよ。同僚殺しは重罪だ、もう社会に出られると思うなよ!!」
(………)
(さあ、どう動く?)
項垂れる熊谷は、拳銃を抜くと、威嚇射撃する素振りを見せた。全員が、佐久間の発砲許可を待つ。佐久間は、右手を挙げ、『待て』を示す。
「やめてくれ、来ないでくれ。…これ以上、誰も撃たせないでくれ」
「熊谷、撃つなら、私を撃て。酒を酌み交わした仲だ。一緒に死んでやろう」
佐久間が、ゆっくりと、一歩を踏み出す。
(------!)
「うわああああ」
(-------!)
(-------!)
(-------!)
熊谷が放った弾丸は、佐久間の右肩に命中し、捜査官の一人が、反撃の発砲をしようと、トリガーを引く。山川が、制御しようとした時、佐久間が、『待て』の合図を継続する。
(-------!)
(-------!)
(-------!)
「みずき公園で、四発。今、一発撃ったから、残りは、あと一発だな、梶木。心臓は、ここだ、頭はここ。外したら、痛くて適わん。…よ――く狙って撃ってくれよ?」
佐久間は、平然と、また一歩近づく。
(------!)
次の瞬間。
佐久間の怖さに、生を諦めた梶木は、自分のこみかみに銃口を突きつけると、苦悶の表情で、引き金を引いた。
「パ――――ン」
(-------!)
(-------!)
(-------!)
佐久間が目を閉じ、梶木に背を向けると、他の捜査官が、救命措置を試みる。
「もう死んでいるよ」
周囲がざわつく中、山川が、佐久間を労う。
「終わりましたね。…肩、大丈夫ですか?」
「かすり傷だよ。……帰ろう、あいつらの元へ」
「はい、お供します」
「佐久間警部、今日は、勉強させて頂きました。あなたが、何故、伝説の警部なのか、垣間見た気がします。野田警察署に、同じ真似が出来る者はいません。勿論、自分も含めてです」
「それは、褒めすぎですよ、北原巡査部長。私はただ、裸で立ちはだかる壁をしたまで。今日は、捜査協力ありがとうございました。野田警察署の助力で、解決させて貰った様なものです。後は、お願いしても宜しいですか?」
「喜んで、引き継ぎます」
佐久間は、再び、梶木に目をやる事なく、その場を離れた。
(梶木、せめてもの情けだ。今度は、道を誤るな)
こうして一連の事件は、警視庁捜査関係者の死をもって、幕を下ろしたのである。




