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二つ目の暗号(2024年編集)

 ~ 東京都渋谷区道玄坂 ~


 佐久間たちが、遺体発見現場である、道玄坂のアパートに到着すると、池田が大家と待機している。


「お疲れ様です。大家にも、了承を得ています」


「ご苦労さん。伊藤は、まだ姿を見せていないな?」


「はい、現認していません」


(良いぞ、間に合った)


「池田は、伊藤が現れないかを監視してくれ。パトカーを、アパート前に並べて、威嚇するんだ」


(………?)

(………?)


「それって、一体?捜査手法(手の内)を、見られても、宜しいのですか?」


 佐久間は、ほくそ笑む。


「杉山と伊藤は、おそらく仲間割れしたんだ。それなら、伊藤は残りの残党と手を組んだか、単独犯のどちらかだ。もう、警察組織(我々)の動きを、隠す必要はない。逆に、『捜査の手が、足元まで迫っているぞ』と、力を見せる時だ」


「了解です」


 佐久間は、大家に、改めて頭を下げた。


「今回の事は、不動産業者も、オーナーも知り得ない事ですし、ここだけの秘密にして頂きたい。これより、死体遺棄事件に関する資料を、再捜索しますが、場合によっては、壁や天井など、一部を破壊して捜査します。その場合は、きちんと原状回復いたしますので、目を瞑ってください」


(------!)


「破壊…ですか?…流石に、それは困ります。雇われ大家ですし、オーナーにバレたら…」


「壊すといっても、人の力で、一部を壊すだけですよ。心配いりません」


(まあ、警察が原状回復するなら、良いか)


「お手柔らかに、お願いしますよ」


「直ぐに済みますので。ご協力感謝します」


 池田経由で応援要請された、道玄坂警察署の警察官三名が、応援に駆け付けた。


「揃ったな。では、捜索を開始する。一名は、池田とパトカーを、表に並べてくれ。残りの者は、床下やキッチン周り、押し入れの奥、天井まで、慎重に探ってくれ。欲しい情報は、一枚の英数字のメモだ。必ず、どこかに、物的証拠(モノ)は出て来る。状況次第では、部分破壊も行う。そのつもりで、動いてくれ。山さんは、鑑識官に、例のものを持ってこさせてくれ。三十分が経過しても、何も出てこなければ、例のものを使用する」


「了解です」

「承知しました」



 ~ 捜索から、三十分が経過 ~


 まずは、部屋の目のつくところを、隈無く捜索したが、物的証拠は出てこない。予め、予想していた通りである。簡単に見付かるのならば、とうの昔に、杉山たちが奪い去っていたであろう。


(…残りは、壁・床・天井のどれかだな)


 佐久間は、到着した鑑識官に、建物の一部破壊を命じる。


「持ってきた探査機で、壁の内部を探って、異物を探ってくれ。異物の気配がある部分は、壊して構わん。我々は、天井裏を探す。道玄坂署の諸君は、床下に潜ってみてくれ」


 佐久間は、風呂の排気孔から天井裏に登り、埃だらけになりながら探索したが、成果が出ない。床下の捜索結果も、同じである。


 残りは、『壁だけ』だと思い始めた時に、タイミング良く、鑑識官が声を上げた。


「警部、反応があります。玄関入り口の、壁の中ですね。壊しますか?」


「ああ、慎重に壊してくれ」


 鑑識官は、探査機のセンサーで、光の跳ね返り量を確認しながら、数センチ単位で壁を壊していく。


(おっ、あれじゃないか?)


 壁の中から、佐久間の読み通り、一枚のメモが出て来た。


(やはりあったな)


 山川たちは、この状況に首を傾げる。


「見つかったのは、良かったとして、どうやって、仕込んだんですかね?」


「入れるのは簡単さ。引越し時のどさくさで、壁を浅く壊して、メモを封印して、直ぐに補修したのだろう。想定なんだが、引越当初は、田中だけが越してきて、細工を施したんだ。もし、伊藤が、田中と引越当初から同棲をしていたら、伊藤は知っていたはずだから、この様な事にはならない。だから、何度も杉山と、カップルの振りをして、捜索していたんだと思う」


「警部、メモには何が書かれていますか?また暗号が、書かれているのでしょうか?」


「多分ね」


 佐久間たちは、早速、メモの中身を確認した。



 ○ 6e 6f 64 61



「…相変わらず、訳の分からない英数字ですね」


 佐久間は、左手で、顎先を撫でるように触った。


(やはり、どこかで、この暗号を見た事がある)


「捜査二課に相談しよう。捜査二課(彼ら)なら、何か分かるはずだ」


 佐久間は、埃で汚れたスーツ上着を脱ぎ、パンパンと払い落とすと、全員に礼を言った。


「皆、お疲れ様。おかげで、捜査が一歩進んだよ。大家さん、ご協力感謝します。約束通り、直ぐに原状回復しますので、明日まで時間をください」


 捜査が終了し、大家も一安心である。


「最小の被害で済んで、何よりです。家宅捜索(この事)も、他言無用ですか?」


(………)


「正直に話して頂いて、結構ですよ。もし、来訪者に、この部屋の事を聞かれたら、『警察が家宅捜索して、何か証拠品を持っていった』と、言ってください。警察組織(我々)も、それが狙いです。…まあ、そんな質問をしてくる人間は、一人しか、いないと思いますが」


(………?)


「一人ですか?」


「ええ、若い女性が一人で、訪ねてきたら、今の言葉を思い出してください。おそらく、慌てて、その場を去ると思います」


「はあ、分かりました。一人の若い女性ですね、覚えておきます」


「…さあ、皆。後片付けをして、撤収だ」


 こうして、この部屋の秘密を暴いた佐久間は、揚々と、引き上げるのである。


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