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◆第五話:予選1日目

◆第五話:予選1日目


俺たちの中学、理科室、放課後。

岡さんが、彼女に殴り倒されて動けない俺を、アイアンクローを決めたまま引きずってゆき、どっさと椅子に座らせた。

爪が食い込んで痛かった。もっと普通の起こし方が良かった。

かのえ君とさっちんに連れられて田中先生がやって来た。走ってきたようだ。運動不足がたたってか息があがっている。

俺は早速「PWNCON CTFというハッカーの世界大会に出場できない」という窮地について、先生に説明をし始めた。その時に俺は田中先生の面倒くさそうなねじれ顔を見た。ん?何故そんな顔をする?

「それは来る途中に閂≪かのえ君の名字≫に聞いた。で、俺にどうせいというのだ?それを話せよ。」

かのえ君の方を見ると”あ、悪い”っといった感じの軽薄な笑顔。なんだそういうことか、OK、OK。

「分かりました。実は警察の協力が必要なのです。」

田中先生はそれ以上、たいして理由も聞かずに「いいだろう」と力強く頷いた。そして改めて「詳しく話せ。」と俺に説明を求めてきた。

俺はたお先生が用意したUSBメモリを田中先生に手渡した。

「メールアドレスがいくつか保存してあります。その中から、僕が明示した条件に合致したチームを探してほしいのです。」

「探偵の真似事か?」

「探偵にはちょっと難しい仕事だと思いますよ。」

「そうか。で、”条件”とは?」

俺は少々思案した後「ちょっと失礼」と一度は渡したUSBメモリを返してもらい、自分のノートPCにつないで手早くタイプし、そして改めて田中先生に渡した。

「USBメモリに”readme.txt”というファイル名で保存しました。で、問題は期限なのですが…」

俺は想定している手順・作戦について詳しく説明したかったのだが、田中先生が手のひらを突き出してそれを制した。

「時間が無いという事情は聞いている。まぁ俺に任せて、吉報を待て。」

田中先生はそう言ってUSBメモリをしげしげと眺めながら理科室を立ち去った。

本当にあの先生はいったい何者なのだろう。各界への顔の広さといい、並ならぬ行動力といい、一介の中学正教員とは明らかに一線を画している。

俺達に残された時間は二日とちょっと。

交渉や準備の時間を考えると、一日とかからずに条件と合致するチームを探してほしいところだ。その辺りを先生に説明する機会を逸したが、大丈夫だろうか?readme.txtには一通り書いておいたが、やや心配である。

気持ちは焦るが、今のところ俺たちは、日本の警察の優秀さを信じて待つ以外に何もできない。そういう作戦に決めたのだから、ジタバタするものではない。めっちゃ焦っているけど。

今はまさに”果報は寝て待て”なんて言葉がぴったりくる訳だが、それを良しとしないものがいる。岡さんだ。

行動派の岡さんが「私なら電車の中で進行方向に向かって走るわよ。」と俺にせっつくのである。アンタも何かせいとせっつくのである。

彼女も相当に心配をしているのだ。彼女とは長い付き合いだから、善意からの尻叩きであることはよく分かる。俺は「電車の中では駅の出口に一番近いドアの前でじっと待つものさ。」と彼女をなだめた。

岡さんは未だむっとして「今、出口に一番近いドアの前にいると考えていいのね?だからじっと待っているのね?」と念を押してくる。彼女の性分で簡単には引き下がらない。

その真剣な眼差しに思わず苦笑して、俺は「そうです」と頷いた。

「ならいいわ。」

岡さんがまゆみさんの手を握って「心配しないで」と慰める。そうか、気が付かなかった。そうだな、彼女が一番心配をしているはずだ。俺も何か気の利いた一言を…

かのえ君がすっと彼女に歩み寄って「まぁ…なんだ。俺を信じろ。」などとほざいている。てめーは部屋の隅で大好きなエロ本でも読んでいろ。好きなだけ読んでいろ。”俺を”だとぉうっ!全くあの口はホッチキスでとめておけばよかった。

まゆみさんは「ありがとう」と微笑んだ。かのえ君、まゆみさんの笑顔1ゲット。マジ死んでしまえ。くたばれ。

それにつけても小川まゆみさんは可愛らしい。あの笑顔に乾杯。この理科室に軟禁しておきたいというのが正直な気持ちだ。我がIT同好会の愛玩動物として調教しちゃえばいいのではないかと思う。

だが、彼女には是非やっていただきたい仕事があるので、一旦家に帰さなければならない。残念だが。俺はそのやっていただきたい仕事を伝えるために「小川さん」と声をかけた。

「はい、」

「お願いがあります。」

「なんでしょう?」表情は言葉を発した瞬間は訝しんでいたが、すぐに自分ができることは何でもやろうという決意に変わった。

「お父様と協力して、PWNCON予選以降の日程で、小学生女子の家庭教師またはその類のアルバイトを探してきて欲しいのです。」

ああ、このとき俺は”小学生女子”という言葉をもっと慎重に用いるべきだったのだ。

付き合いの長い岡さんは”何か考えがあってのことだろう”と察して平然としているが、まゆみさんは壁際まで全退きしているではないか。ないかっ!そして彼女は言いにくそうに…

「あの…圷さんのご趣味は分りましたが…その、今回のお仕事の報酬をお望みなのでしたら、もう少々社会的に正しいものがよろしいのではないでしょうか?その…ろり、ろりこんとかわ…いかがなものでしょうか?」

…完全に俺の性癖を誤解されている。

違うんだ。信じてくれ。俺はロリコンでもシスコンでも、ましてやホモでもない。普通に女性が好きなんだ。

だがしかしどうしよう、説明しづらいな。意味なく岡さんをチラ見。

岡さんは察してくれているからな、何も言わぬでいいけど。こんなときは簡単でいいな岡さん。

まゆみさんはわりとがっつり説明せんとだちかんなー、でもどうしたものか。

なにせロリコン云々の理由で依頼をしているのはまぎれもない事実。そうですよロリが必要なんですよ。

従って、まゆみさんがロリコンに拒絶反応を示している以上、正直に説明をしても納得していただけるどころが、えんがちょ待ったなしでしょうなぁ実際。ヒャッハー!わははのは。これは困った。

俺が何も言えないで顔をこわばらせていると、まゆみさんが1cm/秒のゆっくりさでじわじわと壁沿いに横へ遠のいてゆく。これは、俺=危ない人物理論が彼女の中に生まれつつある証!早急になんとかせねば!

お互いに顔をこわばらせて、いらぬ緊張感を強めつつ、じわじわと離れてゆく。

そんな俺たちを能面のような無表情で眺めていた岡さんがついにぶふっと噴出して、大爆笑。

(岡゜∀゜)アハハ八八ノヽノヽノヽノ\/\

「おい、そんな笑い袋みたいに爆笑することはないだろう。」

「あははは。わるい、わるい。」そう言ってあっという間にまゆみさんの肩に腕をまわしてしまった。全く、いい意味で馴れ馴れしい女だ。岡さんの場合、そういうことをやっても万事許されるからすごい。

「まゆちゃん大丈夫。コイツ確かに変わってるけど、そこら辺は信用していいから。ハッカーなんて悪ぶっているけど、去年まで万年学級委員の超優等生だから。だから、きっと、何か考えがあるのよ。」

完璧な説明をありがとう。事実、俺とまゆみさんの間にあった緊張感は完全に消失した。俺がロリを求めている理由を話さずに済んで、本当によかった。

まゆみさんは「アルバイトの件は任せてください。」と言って理科室を去っていった。

岡さんも一回伸びをして「じゃぁ、私もそろそろ帰ろうかな。」と、鼻歌交じりに出口に向かう。

小学生の頃は困っている岡さんを俺が助けてばかりだったが、今は助けたり助けられたりだな。お互いに貸しだと思ったことも借りに感じたこともない。礼すら言わないことがあるもんな、今回もそうだし。

翌日、昼前にまゆみさんから岡さんに「中学受験を控えた女の子の家庭教師の短期アルバイトを押さえた」と電話があった。岡さんは即時に俺に報告してくれた。

よし、これで交渉のカードは手に入った。後は田中先生からの連絡を待つだけなのだが、これがなかなか来ない。

気が付けば、予選はもう明日。

様子伺いに行きたいのだが、信頼して任せた手前押しかけにくいな。

おお、そうだ休暇申請。まだ出れるかどうか決まっていないけど、PWNCON予選は平日に実施されるので、休暇申請が必要だ。全然忘れていたけど。これで田中先生とPWNCON予選の話をする理由ができた。

朝一で理科準備室に向かう。

「ああ、それならば俺が出しておいた。」

「え?」

「え?じゃねぇ。ハッカーの大会に出るんだろう?日程は聞いている。実は今日からで出しておいたのだが…まぁ、今日は授業に出ていろ。」

相変わらず仕事抜かりねぇ~。

「ありがとうございます。」

頭を下げてしまったこの姿勢からでは、更に催促しにくくなったわけだが「あと、催促するようで申し上げにくいのですが…」と前置きをして「チーム探しの進捗はどうですか?」と言い放ってしまった。俺はかなり焦っていた。

先生は椅子に座ったまま腕を伸ばして、ぽんと俺の肩をはたいた。

「お前はそこら辺がまだ子供だな。焦るな。物事はなるようにしかならない。」

「ハァ。」

放課後、予選は明日の朝、日本時間の午前9時に始まるので、残り時間は18時間。

理科室。

やきもきして連絡を待つ俺ら4人と岡さん。

男衆は日本中のどこに行ってもよいように、2日分の下着を持参してきている。

さっちんの使用済み下着は俺が責任をもって持ち帰らせていただくつもりだ。ホラ、帰りは荷物になっちゃうから。

何の連絡もなしで、さすがに心配したまゆみさんがやってきたので岡さんが校門まで迎えに行った。

しかし田中先生からの連絡は全くない。いたずらに時間は過ぎて行き、そのうち日が傾きだした。

まゆみさんはずっと居残って待つと申し出たが、岡さんに説得していただき家に帰っていただいた。もしくは永遠に理科室に住み着いて雌犬になっていただいても俺は構わないけれども。

俺たちはやることがないのでゲームの開発をしたりしている。愛らしいまゆみさんがいなくなったことも手伝って、雰囲気が暗い。

「よっし!ラーメン食いに行こう!」

岡さんの一声で全員立ち上がり駅前の商店街に向かう。岡さんはこういう時いい仕事をする。

ムードメーカーの岡さんを中心につまらない会話を交わしながらずるずるとやっている間は、予選のことを忘れていた。

理科室に戻って、夜9時。予選開始まであと12時間。連絡はまだない。今日はもう残っていても意味がないな。

可愛いさっちんは家が遠いから、あんまり夜遅いと誰かに襲われてしまって、泣きじゃくるさっちんに興奮した俺が彼にドS行為を実施する恐れがある。さっちんとの初めては標準的なナニがよろしいかもと考えるので、今日は解散することに決めた。

理科準備室にまだ居残ってくれていた田中先生に声をかける。

「そろそろ帰ります。」

「おっと、そうだな。先生だというのに俺が気が付かなくてすまない。気を付けて帰れ。」

「わかりました。おやすみなさい。」

ご近所さんなので岡さんと一緒に帰る。彼女は気を使ってPWNCONの話題を出さない。

家に到着。風呂に入って、布団にもぐりこんだが寝れはしない夜11時。

俺のスマフォが鳴る。田中先生からだと確信して飛びつく。どうやら見つかった様だ。

『明日の朝5時、駅前に集合だ。広島に行くぞ。』

「電車で移動するのですか?」

『今日は電車も深夜バスも最終便が出た。車での移動を考えたが俺が明日休めない。こんなに急だと警察を含めて他に頼める人間もいない。明日の朝6時20分の新幹線に乗る。広島は10時18分着だ。』

「そこから目的地までは?」

『詳しくは明日だ。兎に角今は他の連中に電話をしてとっとと寝ろ。』

「わかりました。」

俺はかのえ君、たお先生、さっちんの他に岡さんにも電話をした。夜遅くに申し訳ないのだが、まゆみさんに朗報を伝えたかった。詳細を知らされていないのが歯がゆいが、東京駅から新幹線に乗るなど知っている限りを伝えた。

翌朝5時。駅に到着するとみんな集まっている。岡さんも。おっと、さっちんは家が遠いので東京駅に直接向かってもらった。

岡さんのスマフォに着信。まゆみさんからだ。

『みなさんいらっしゃいますか?』

「うん、いるいる。」

『私もそこに行きたいのですが、電車がまだなくって…タクシーに乗るお金もなくて見送りはできそうにありません。』

「大丈ーっ夫。まゆちゃんの分まで超見送るから。秘密兵器持ってきたから。」

東京駅に向かう。電車の中で田中先生から「広島駅で現地の警察が待っている。」などと今日の段取りについて詳細の説明があった。

東京駅に到着。新幹線の切符を購入。岡さんは入場券。先生は学校があるということで切符が無事手に入った時点ですぐに帰ってしまった。

新幹線の乗る直前、岡さんがかばんから小さな石を二つ出して、カチカチと打ち鳴らした。小さな火花が飛ぶ。火打石だ。

「いひひ。これ、時代劇で見てやってみたかったのよね。無事に帰ってきてねって。」

なにやってくれちゃってるのかなー、もー、公衆の面前で恥ずかしい。可愛いつもりか?そういうの嫌いだからやめてくれよ。

少女が一人、階段を駆け上ってきた。

まゆみさんだ。

「6時20分の新幹線と聞いていたから、こっちなら間に合うと思って、やっぱり来ちゃいました。私なんか何もできないけれど。」

「そんなことないわ。ホラ願掛け。」

岡さんがまゆみさんに火打石を渡す。ちょっと照れながらカチカチとやってくれた。

か、可愛い…

絶対!無事に帰還するでありますっ!!こういうの正直、大好きです。オラ!周りにいるどいつもこいつも見ろ!これが美少女のカチカチだ。やだー、ステキー。

もう出発だ。俺たちは新幹線に乗って窓にへばりついて手を振る。まゆみさんに向かって。岡さんはどうでもいいかな。

車内で弁当を食って、ちょっと居眠りして、俺がノートPCを開いた。そろそろ9時、PWNCON予選が始まる。ブラウザを起動してPWNCONの公式サイトを開いた。

いよいよ予選が始まるとがぜん気持ちが焦る。かのえ君も読んでいたエロ本を閉じてモニタを見る。

「僕たち、何時から問題を解き始められるのかな?」まさにさっちんが言ったそのことをみな気にしている。最強のたお先生でさえも。

俺たちは他の参加者より少ない時間で予選を突破しなければいけないのだ。

10時18分きっかりに広島駅に到着。

==== はい、ここらへんからパロディー要素入ります ====

田中先生が教えてくれた番号に電話をすると、たまさか隣に立っていたおっさんが携帯を取り出して「はい、秋月です。」と応答。

うぉう!この人か、警察の人って。

俺は若干面喰いつつ、つながったままの電話をどうしようか迷ったが、結局「おはようございます。圷朝です。」と直接本人にお辞儀をした。

「おお、君が。」と一瞬顔を緩ませたが、すぐに表情を引き締めて「警視庁公安部警部補、秋月であります。」と敬礼されてしまった。敬礼にどう返してよろしいかわからず、自分も敬礼をした。

パトカーに乗る。運転をしながら秋月さんが説明をしてくれる。

「先方の名前は黒瀬明。条件の一つ目”大会に一人で出場”と二つ目”有能なハッカーである”を完全に満たしております…」

「三つめは?」俺が聞いた。

「…ええ勿論。彼のアパートまで車で2時間ほどかかります。昼飯を食べてから行きませんか。」

かのえ君が「そうだな。今更30分やそこらの時間を焦ってもしょーむないしな。」と肩をすくめた。いや、あえてそんなことを言うなんて、てめー時間的な不利を相当気にしているだろう。バレバレだっつーの。

「おすすめの店があります。若い方ならきっと気に入りますよ。」

ゴッドバーガーという店に入った。確かにハッカーはジャンクフードばかり食べるけど。好きだけど。

ぱくつきながら、タブでPWNCON予選の状況をモニタする。

既に得点しているチームが多数。更に気持ちが焦る。

かのえ君が秋月警部補に「どのチームなんです?」と尋ねる。どのチームとは無論これから向かう先だ。

秋月警部補は口の中にあった面を飲み込んで「nekomimizu」と答えてくれた。

確認すると、現在まだ0点。

かのえ君が何かを言おうとしたので、きっと失礼を言うに違いないと腕でで制したのだが、結局「0点とか本当にこいつ一流のハッカーなのか?」と言わせてしまった。俺が代わりにすいませんと警部補に謝る。

「ええ、一流です。その筋では知らぬものがいないほど。彼は警察や自衛隊に協力した実績があります。ですので彼に決めたのです。」

かのえ君はまだ信じられないようで「ふーん、まぁ会ってみればわかる。」と失礼な言動を重ねる。

さて出発してパトカーがたどり着いたのはプレハブの安アパート。

警部補は一階の角部屋のインターホンを鳴らした。

「はい。」

無気力な声がして、ぼけーっとした、長身だが華奢な青年が姿を現した。

警部補が身分を明かして彼の部屋に上がり、事情を説明、協力を要請する。

俺は警部補が話している間に、部屋をぐるりと見渡した。パソコンが数台あるがどれも古い機種だ。

いわゆるオタクなようで、フィギュアをいくつか部屋に飾っている。そのフィギュアのカテゴリー。彼の趣味は条件の3を満たしている、俺は手ごたえを感じた。

黒瀬さんは「ボクは金では動きませんよ。」と断ってきた。これは想定の範囲内。

すかさず俺が「中学受験を控えた小学生女子の家庭教師の短期アルバイトを用意させていただきました。」と申し出た。

条件その3:ロリコンであること。日本という国において善悪はさておきロリコンほどわかりやすく行動が読める人種は存在しない。絶対に釣れる筈だ。

しかし、黒瀬氏はにわかに難色を示している。

すかさず秋月警部補が「期間中の滞在費と交通費は当方で負担させていただきます。」とフォローしてくれた。これで黒瀬さんの顔がパッと明るくなる。

そうか、そこまで頭が回らなかった。貧乏なのかこの人。警部補に来てもらってよかった。

「引き受けましょう。」

力強い返事をもらえた。条件その1:大会に一人で出場。協力を求めるとき一人だけ説得すればいい。

もう予選は始まっている。早速俺たちも問題を解こう。

予選を通過するチームは俺たちの何倍もの人数で問題を解いている。俺たちが失った4時間超は大きい。

少ない人数。少ない時間。他のチームの得点状況。予選突破程度なら楽勝だと考えていたが、今やかなり際どい。

俺たちがノートPCを取り出すと黒瀬さんが「あ、HUBがいっぱいで…」と困った顔を見せた。

俺は「インフラは心配しないでください。」と言ってスマートフォンを取り出してテザリング。「電源だけ貸してください。」と丁寧にお願いをした。

さっちんが開いているコンセントにテーブルタップのプラグを差し込む。

四つん這いになりさっちんの臀部が俺の方を向いている。

おいおい、さっちんのお尻のコンセントに俺のプラグを差し込めって、そういうポーズだぜ。

あなたのお尻にプラグイン…おお、語呂が良いではないか。

これはもうそうに”決”定でいいなケツだけに。

俺は自分の行動に自信をもってさっちんのズボンを脱がし始めたのだが、さっちんの生尻を見る前にかのえ君の三角絞めの餌食になった。

うぉ、意識が…おちる…

「あ、」

俺より先に、黒瀬さんの部屋のブレーカーが落ちた。

俺たちはノートPCだから暫くはバッテリーがもつが、何らかの対策が必要だ。

次回の話になるが、俺たちは更なる時間的ハンデを背負うことになる。



俺の小学生の妹霰には放浪癖がある。

何にでも興味を持って、蝶を追いかける仔犬のように無邪気にどこにでも行ってしまうのだ。

そんな我が妹のエピソードを紹介したい。

今回は全編パロディーです。

ネタは篠山■信のファン以外にはちょっとわかりづらい。

でも、しょせん素人小説なので大目に見ていただきたい。

実は今回ネタを強行することによって、主人公圷朝が英語そこそこできる子っていう設定がぐらっついてきちゃうわけであるが、あ、いい方法思いついた。いける。いける。

じゃあいきます。

0!

ロードレーサーに乗った老紳士に気に入られ、会話も弾んだ圷兄妹。

自転車へのただならぬこだわりを見せたアッキー<圷朝>。

次はどんな出会いが待っているのか。

この小説は一人だけ台本の内容を知らないアッキーがリアルな英語力でドラマに挑戦。

日常会話のお悩みにこたえる英会話小説です。

今回のお悩みは~。

外国人旅行客が、駅の切符売り場の前でいくらの切符を買えばいいか迷っている。この人を助けたいとき、あなたならどうする?

スタジオ。

アッキー:「あー、霰さん。これはありがちですね。」

霰:「そうですね。円が安くなって旅行客も増えていると聞きます。」

アッキー:「助けてあげたいけど、英語に自信がないとやっぱり二の足を踏んじゃいますよねぇ。」

霰:「でもほらぁ、困ってるんですから。ねぇ岡さん。」

岡:「ええ、そですよー。言葉の通じない土地でね。英語で話しかけてくれるだけで本当にホッとするよー。」

霰:「ですよねー。」

アッキー:「やっぱり、そういうものですかー。」

岡:「そりゃそぅですよ。うえへへへへ。」

霰:「さて、あ兄ちゃんは旅行客をホッとさせてあげられたのか?さっそくミニドラマを見てみましょう。」

今日は圷朝と岡めぐみと圷霰の3人で仲良くお出かけ。

電車に乗るために駅に向かう。

「らんら!らんら!」突如何の前触れもなくスキップを始める霰さん。なんだなんだと首をすくめて様子をうかがうアッキー。アッキーは台本を知らない。

霰さんはアッキーの肩をつかんで「るらぽーと楽しみねー」と顔を覗き込む。

アッキーは眉をややしかめてちょっと台本の内容を推測した後「イエス、イエース」と迷いながら答えた。

霰さんはアッキーの返事を聞いた後、若干の間を置き、大きく頷いて、腕を振り上げながら「さぁ!るらぽーとはこっちだ!」と芝居がかって声を張り上げた。

岡さんがホイッスルをピーっと鋭く吹いて「エフィシエンシー!」と霰さんを窘めた。

アッキーは無言で苦笑している。

発券機の前で田中先生に激似の外国人が、あっちのボタンを押そうか、こっちのボタンを押そうかと大げさなジェスチャーで迷っている。明らかにお手上げだというそぶりを見せている。

霰さんが彼を指さして「おー、あの人はー、どの切符をー、買えばいいのかー、分らないんだー。」と大きな声でゆっくりと、あからさまに説明的に、まるで日本語が苦手な人に聞かせるように話した。

そして「ようし、見てて。私がー、彼にー、どのー、駅にー、行きたいのかー、聞いてくるー。」と言って、まるで誰かが自分を止めてくれるのを待っているように大きな身振りでゆっくりと歩を進めた。なおかつここで重要なのは”どの駅に”をより強調して話しているということなのだ。これはアッキーへのヒントだ。

ここでまたピーッと岡さんのホイッスルが鳴る。

霰さんは即時に歩みを止めた。

「アッキーがー、適任よー。」彼女もまたゆっくりと日本語が苦手な人に聞かせるようなしゃべり方だ。

アッキーは”こおで俺かー”と、くしゃっと困り果てた表情で覚悟を決めた後、自分を指さしながら「ミー?」と尋ねた。

大きく頷く岡めぐみ。「あなたがー、尋ねなさい、彼が、どのー、駅にー、行きたいのかー。」やはり”どの駅に”を強調している。

難しい顔で考え込んでいたアッキーだが、二人の台詞の中に若干のヒントを見出したようで、「フーフン。」と小さく頷いて自信がない中にも了解の意思を見せた。つかお役目的に強制だが。

アッキーが近づいてゆくと、まるで彼が自分に話しかけてくることを知っていたかのような不自然さで、その外国人旅行客は振り向いた。

旅行客と面と向かったところで、アッキーは両手をへその前あたりで組んでちょっと縮こまる。頭の中で必死に英文を組み立てているのだ。旅行客は自分から話しかけるでもなくただひたすらアッキーが話すのを不自然だが待っている。

すかさず天からのアナウンスがはいる。

「ここでアッキー、どう切り抜ける?どの駅まで行きたいのかを尋ねたいとき、あなたならどうする?アッキーはこう言った。」

アッキーはようやく覚悟を決めて口を開け、更に1.5秒間をあけて、やっと声を発した。

「ウィッチステーション、ドゥーユーウォントゥーゴートゥー。」めちゃめちゃカタカナ読みな日本訛りの英語。

天の声──「はたしてアッキーの英語はどうだったのか?」

ちゃーちゃーらーちゃっ。

ここでカメラがスタジオに切り替わる。アッキーのバストアップ。

「えー…これわー、いいんじゃないですか?シンプルに尋ねてみました。」←アッキーの台詞。

「うえへへへ。」雨、曇り、晴れの札を持って笑顔の岡さん。

「えええっ!?いいですよねぇ?伝わりましたよね?」霰さんに同意を求めるアッキー。

「さぁ、それでは判定の方をお願いします。」←霰さん。

「え~、今回のは…」←岡さん。

うわ!

うわわ…わああああああ!!

う、

「…うわあああああぁぁぁっっ!!!!」

俺は布団の上。じたばたと飛び起きた。

「ゆ、夢か…夢なのか?なんつー夢だ。わけわかんなすぎてめっちゃ寝汗かいたわい。」



僕の名前は…仮にMとしておきましょう。

僕のお話はちょっとたちが悪いものですから、もし同姓同名の方がいたら大変申し訳ないのです。

僕はぐぐってスマートフォンのシャッター音を消す方法を調べている。

まりすけさんの写真を一枚だけでいい、どうしても欲しいのです。

僕は自分の中に居るストーカーが恐ろしかった。僕はそいつを永遠に黙らせておきたかった。

そのために、この最悪な性根の慰みに写真を一枚だけ撮らせてほしいのです。それでもうこれ以上、彼女のそばに近づくのはやめよう。そう心に決めた。

翌日。僕のことなんか何も知らないまりすけさんが店にやってきた。

バイト仲間に知られずにシャッターを押せたかはわからない。ひょっとするとすっかりばれていて、変態と思われているかもしれない。もう、それでもいい。僕にはその一枚が必要なのだ。

僕はまりすけさんこと「桜野まり」さんの写真を手に入れた。これでいい。これで十分だ。僕みたいなクズはこれで我慢をしなければいけない。

それからしばらくは店内での覗き行為はしなくなった。ただ、相変わらず彼女が店にやってくると僕は裏手に隠れてしまうが、それはどうにもできないのです。

実のところ自分のスマートフォンの中に彼女の姿が保存されているというだけで心が満たされてしまっていて、写真を見るという行為すら僕はしていなかったのです。

僕は自分の中のストーカーを抑え込めたと確信しました。

しかし、僕の人生と言うものは全てにおいて上手くいかないようになっているようです。

そのとき「カフェねこやしきにようこそ」というゲームの名前を彼女の口から聞いたのは、まったくの偶然。

そして、鎮火しかけていた彼女への思いが再び、その炎勢いを増して、僕の心臓の鼓動を早めたのです。

前評判が極めて高かったゲームですので「カフェねこやしきにようこそ」がどのようなゲームなのかは、それなりに知っております。

ゲームの中でチャットができるはずです。

僕は彼女の住所を知りません。電話番号も知りません。SNSのアカウントも知りません。でも、彼女がゲームの中で「まりすけ」と名乗っていることは、今、彼女たちの会話で知りました。

匿名性の高いゲームの中でなら、僕は自分の正体を隠して彼女とチャットで会話ができる。瞬時にそう信じたのです。

僕は、希望を持ってしまった。

ゲームのホームページを読むと、サバーの拡張計画についての記述があった。”第一回追加募集”の文字が目に飛び込んできた。

僕は、希望を持ってしまった。

リンクをたどり申込フォームに必要事項を書き込み応募した。

それから毎日、僕はゲームのアカウントが手に入った後のことばかりを考えて、本当にふわふわと浮ついておりました。

まりすけさんとあんなことを話そう、こんなことを話そう。彼女と仲良くなって、彼女の特別になって。そういうことを妄想していたのです。

僕は「カフェねこやしきにようこそ」というゲームを、そしてそれを作った開発者を心の底から恨みます。

このゲームに出合いさえしなければ、僕は淡い期待など抱かなかった。世の中の片隅でアスファルトにこびりついた埃のように誰の邪魔にもならず目にもとまらず、ひっそりと生きて行けた。

希望を持った僕は、また、彼女を覗き見るようになってしまった。そして目と耳から仕入れた彼女の情報を元にして妄想の細部を完成させてゆく。

僕をストーカーにしたのはこのゲームだ。

「カフェねこやしきにようこそ」が僕をストーカーにしたのだ。

このゲームの開発者が僕を犯罪者にしたのだ。

僕はひねくれて、そこまでの逆恨みをしてしまいました。

すでにこのとき僕は、おそらくはアルバイト仲間に気付かれてしまうかなんて全く気にせずに、スマートフォンのシャッターを切っていた。その自分の姿を俯瞰的に思い浮かべると、全く反吐が出ます。

妄想を膨らませるのにゲームの情報も欲しかったので、しょっちゅうゲームの名前で最新情報をぐぐっておりました。

そんなある日、ぐぐっている途中で僕は見つけてしまったのです。

「カフェねこやしきにようこそのアカウントがオークションに売りに出されている。」

最低落札価格3万円、即決価格10万円という、腹が立つほどのぼったくりようです。確認すると、期限が2日後に迫っているというのに、落札者はゼロです。

今の僕にとって3万円は大金です。しかし、喉から手が出るほど欲しい。今すぐにでも頭の中の妄想を現実にしたい。

僕は3万で入札をしました。そして、この様子なら他に入札をする人なんていないだろうと高をくくって、何もせずにじっと2日間待ったのです。

結果、3万50円という価格で他の入札者に敗北してしまいました。彼は入札期限の15分前にわずかな価格差で入札したようです。僕は愕然としました。

全く油断をしました。オンラインのオークションってこういうものなのですね。もう、他にはこのゲームのアカウントを売りに出している人はおりません。惜しいチャンスを見逃しました。

この残念な状況に、追い打ちをかけるように、「カフェねこやしきにようこそ」の運営から”第一回追加募集落選”のメールが来ました。

僕が見ていた淡い夢、時間をかけて作り上げていた僕の夢の物語は粉々に砕け散りました。

そして、まりすけさんをのぞき見し盗撮をし続ける、最悪な僕が残ったのです。



次回、第六話「予選2日目」

クラッキングはされる方が悪い。これ、ハッカーの常識。

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