#1 崩落と再生
「八ッ、八ッ、八ッ」
煉瓦のような材質のブロックの壁に松明。
そのぼんやりとした明りを頼りに駆け抜けていく。
右へ左へ。どこまでも続く壁と松明のセットが徐々に方向感覚を狂わせてくる。
たかが第一層だというのにこの調子だ。
このままでは、後ろから追いかけてくる怪物、ゴブリンから逃げきることは出来ないだろう。
体力面でも圧倒的に僕が敗北している。
「よし」
次に通路を曲がったその先で僕は方向転換し、短剣を引き抜く。
驚いたことにそこは通路ではなく広場だった。
好都合。
そうしているうちにゴブリンが僕のもとへと追いついた。
醜悪な顔面、牙からは涎、右手には大きな骨、そして、見るものを青ざめさせる緑色の皮膚。
その全てを余すところなく観察し、次の行動に備える。
(うえっ、気持ち悪……)
あまりの気持ち悪さに一瞬視線をそらしてしまった僕は後悔した。
隙を見て接近してきたゴブリンがふりかぶっているのは手に持っていた大きな骨で。
「グルゥ!」
凶悪な鈍器が僕の横腹をプレートメイル越しに殴りつける。
「ガッハ!?」
鈍い痛みが走る。
しかし目を閉じることも意識を逸らすこともできない。
顔をしかめつつバックステップで距離をとって短剣を構える。
「セヤアアアアア!」
ゴブリンの横薙ぎを紙一重でかわし、できた隙を狙って少しづつ分厚い緑の皮膚を傷つけていく。
しかし、その程度では全くダメージを与えられていない。
どうしたものかと思考している僕にゴブリンの振り下ろし攻撃が迫る。
「しまった!」
とっさに剣の腹で受けてしまい、手にしびれるような衝撃が走った。
その反動で短剣を手放してしまい、床に手をついて支えるすらできなくなってしまった。
カラン。
「ゴルフフゥ」
床をはねる短剣を見つめるゴブリンの顔は、笑っているようにみえた。
仕留めた獲物を嘗め回すように眺めるゴブリン。
(うわあああ、死ぬってこれ!?マズイマズイマズイ)
仰向けの状態で床に倒れたまま、立ち上がることは出来なかった。
左手に力が入らない。
かろうじて動かせる右手を駆使して上体だけを起こすが、足がすくんで立ち上がることができない。
絶体絶命の状況。
しかし、神は僕を見捨てなかったのか。
ぐらぐらと揺れ始める地面。
パラパラと降り注ぐ煉瓦の欠片。
揺れはだんだんと強くなっていき、立っていることすら困難なようでゴブリンはしっかりと足に力を入れて、必死に倒れまいと踏ん張っていた。
座っていた僕は、揺れに耐えつつ、転がっていた短剣足でを手繰り寄せ、右手で握りしめた。