後記
……最後に、『フール・オン・ザ・ヒル』の商品券を配られた後の話を少し。
商品券を受け取った猛者達の大部分は正直困惑していた。皆本来卓上アナログゲームなどとは無縁な存在、精々子供達と双六をする事があるかもしれない程度の面々だ。
貸し会議室では『支配者と命運』シリーズの販売が行われており、数人が記念に買い求めたが、大部分は商品券だけでは購入額に満たない点に抵抗を覚え購入には至らなかった。
屈強な男達が途方に暮れている中、ミスター・ランバートが副店長の後藤田に店頭で『オールスタープロレスカードバトル』シリーズを取り扱っているのか確認した。ありますよ、という後藤田の返答を受けるとミスター・ランバートは、自分や日比谷、そして石崎尽一郎が登場するカードゲームが発売されているのでぜひ買ってみてはどうか? と宣伝、もとい提案をした。行く当ての無い男達は覆面レスラーを先頭に貸し会議室より一路『フール・オン・ザ・ヒル』二号店へと足を運んだ。
『フール・オン・ザ・ヒル』二号店の切り盛りを任されていた店員達は数十人もの男達が一斉に店内に雪崩れ込んで来た事に驚き、その全員が千円分の商品券で支払いをした事に更に驚いた。デュエリスト達の大部分は『オールスタープロレスカードバトル』やベースボールカード、或いは一般的にも有名なボードゲームやおしゃれなデザインのトランプなどを買い求めたが、千円以内の商品しか買わない者が大多数で、店側にとっては嬉しくない客と言わざるを得ないだろう。
そしてデュエリストひしめく店内において、一人密かに苦虫を噛み潰したよう表情で商品券を握りしめる者がいた。黒田雅臣である。『支配者と命運』の大会で優勝した彼は、半ばウケ狙いで参加賞争奪戦前に『支配者と命運 第二章~覇権~』を購入していた。この展開を予想出来なかったせいで本来出費する必要が無かった千円を無駄にし尚且つ使い処に困る商品券を抱える事になった。金銭の損失というのが、ギャンブラーの彼にとって地味に大きな後悔を与えた。