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Galactic shiny shiny star   作者: 沢城据太郎
10/11

もう一つの闘争

 熱い戦いの幕は閉じた。

 実際貸し会議室内はデュエリスト達から立ち上った熱気に満ち溢れ、誰が指示するでもなく、参加者達が自ずから窓ガラスのダンボールを剥がし窓を開け換気を始めた。

 そして先程石崎尽一郎がジャンケンをしていた場所で、主催者石崎祐介による参加賞授与が行われた。石崎祐介の健闘を讃える言葉と共に渡された丸められたポスターを恭しく受け取った日比谷雄治は、その場で開張し、裁判の『勝訴』よろしく掲げて皆に見せた。大きな拍手が湧き上がる。

 最後に、石崎祐介による締めの挨拶が行われる。――通常のゲームイベントでは主催者サイドの総括だの感想だのというまどろっこしい話など無く軽い挨拶だけで早々に終わるものなのだが、石崎祐介はこの場で、自身の不用意な発言によって苦労を負ったスタッフ達に侘び、更に今回の大会運営にヘルプで駆けつけた他店のスタッフ達とスポーツドクター、そして伯父の石崎尽一郎に感謝の言葉を述べた。特に尽一郎に対しては、ギャラクティック・シャイニィ・シャイニィ・スターを用いたジャンケンという未知の競技の運営に関する助言を大会準備の段階から多々受けていた事と、大会の進行を後半ほぼ丸投げしてしまっていた事に言及し、「良い勉強をさせてもらいました」と冗談交じりに付け加えた(伯父の思惑に乗せられてこの企画が始まった事については勿論口に出さなかった)。

 この日の石崎祐介にとって一番の感動、というか驚きは、八〇人もの人間が同じ場所で『支配者と命運』をプレイした事だった。これはギャラクティック・シャイニィ・シャイニィ・スターにも言えるのだが、様々なジャンルのスペシャリスト達が全く同じ土俵でひとつのゲームをたどたどしいながらも熱心にプレイしてくれていた様子は、卓上ゲームの普及を生業の一つとしている者にとっては何かが胸に込み上げてくる光景だったと語った。

 この時、その場にいた全員が気付く、石崎祐介の声が震えていると。感極まって泣きそうになっているのかと思え何人か顔を覗き込んだがどうもそうではなさそう。ただ、体温上昇に因るものか顔が赤くなっていた。

 石崎祐介の尋常ならざる様子を周りが不安を感じ始めた最中、石崎祐介はひと呼吸間を置き、意を決したように、しかし今までの発言の中で最も躊躇いがちに震えた声で皆に向かって言ってしまった。

 今日のイベントの記念として、参加者全員に商品券一千円分をプレゼントする、と。

 ……今更ながら非常にせせこましい話だが、今回のイベント単体の収支は完全に大赤字である。参加費三百円を八十人から徴収しつつ、三千五百円のボードゲームを十六箱開封し十六人のスタッフを動員しているのだ(因みに通常のボードゲームの大会では試供用に開封したものを他店舗でも使いまわすのでその点の支出は軽減されるが今回は開封しすぎた)。無論、今回のこの大会は広告効果を狙ったお祭り騒ぎなので採算など最初から度外視されているのだが、そこに加えて商品券一千円分を参加者八十名に配るというのは中々とんでもない出費である。

 石崎祐介のこの言葉を受け、参加者達は大部分がきょとんとしていたが、スタッフ達の間には大きな動揺が走った。こんな予定は無かった。店長石崎祐介の独断なのだ。

 石崎祐介はその場の勢いでこんな発言をしてしまったのか? ギャラクティック・シャイニィ・シャイニィ・スターに人生を変えられた男・石崎尽一郎はそれに異を唱える。



尽一郎:スポーツや格闘技、そして今回のようなゲームの大会や興業において参加者同士が対戦するのは当然の事だが、それだけではなく大会を運営している主催者も、参加者のパフォーマンスを最大限に引き出せる場を提供できているのかどうかという点で参加者達に試されている。主催者と参加者が対戦する場であるとも言えるのだ。更に言えば観客や社会からも評価を受ける立場であり全方位のあらゆる相手に隙を見せない体捌きが要求される。

 勝負と言っても無論、誰かを負かす訳ではない。興行師としての勝利とはそのイベントによって利益を生み出す事と自身を含めた参加者全員を楽しませ満足させる事にある。今回のイベントの前身が販促重視のモノだったので採算という点では考慮しないが、参加者を楽しませるという部分に於いては、客観的な視点とは言い難いが、儂は成功したと言えるのではないかと評価したい。……イベントとして成功したという事はつまり、参加者達に最大限の力を出させてしまったという事。普通のイベントならばそれは興行師にとって純粋に喜ばしい事なのだが、このギャラクティック・シャイニィ・シャイニィ・スターを利用したジャンケンではある異なった事情が発生してしまう。

 イベントを運営し成功させようと気を張っている興行師というのはある意味、イ

ベントそのものと、そしてその参加者達に対して臨戦状態を取っていると言える。

そんな中で参加者の複数人がギャラクティック・シャイニィ・シャイニィ・スター

を行使し、ギャラクティック・シャイニィ・シャイニィ・スターを出さない者もそれに全力で対応しようとする状況は、そのイベントの主催者の精神に非常に大きな影響を与える。興行師の手を離れ参加者が一丸となってイベントを作り上げていく様にギャラクティック・シャイニィ・シャイニィ・スターの勝利の強制喚起が重なりただただ圧倒され、感動させられる。参加者達全員の『勝利』に呑まれてしまうのだ。結果、主催者は参加者一人一人を、そしてイベントそのものを自身の立場をかなぐり捨てさせる程に過大に評価してしまう。


―――結果が、あの商品券の配布ですか?


尽一郎:その通り。しかし祐介はまだ運が良い方だと言えた。勝利を喚起させられ平静を失い、勢いで賞品を大盤振る舞いしてしまったが、そもそもの大会規模が小さく優勝賞品も慎ましモノだった故、大した出費にならずに済んだ。……ギャラクティック・シャイニィ・シャイニィ・スターを用いたジャンケンがその人気に反してイベントとして注目されづらいのは安全面だけの問題だと思われがちだが実はもう一つの大きな理由というのが恐らくこれなのだろう。過去に行われたギャラクティック・シャイニィ・シャイニィ・スターのジャンケン大会が定着し継続されなかったのも主催者側がある意味『正気』を保てなくなり空中分解したというケースが大半なのだ。


―――この大会を提案したのは尽一郎さんだと訊いたのですが、まさかこうなる事がわかった上で……?


尽一郎:うん? ああ、まぁ、あれだ、サンプルケース自体が少ないものでな、今日という日を迎えるまでは儂の中でも仮説の域を出ていなかった。そもそも祐介があの発言をするまではそんな可能性すら失念していた程だ。いや、祐介には本当に申し訳無い事をしたと思っている。


―――やはりギャラクティック・シャイニィ・シャイニィ・スターを用いたジャンケン大会というのを一般に定着させるのは難しいものなのでしょうか?


尽一郎:ふむ、安全性の面は最終的に参加者側の意識の問題になる。己の肉体の限界に挑むというゲームの性質上、主催者側でどれだけきめ細かい対応が出来ても最後には参加者一人一人の自己管理に委ねられる。主催者サイドが勝利に呑まれる現象については……、難しいが、ギャラクティック・シャイニィ・シャイニィ・スターを出す素振りをしながら試合を見届けるというのが一番確実かもしれん。


―――尽一郎さんが『親』をしていた時にやっていたというアレですか?


尽一郎:うむ、しかしギャラクティック・シャイニィ・シャイニィ・スターそのものを出すほどではないが実はそれなりに体力を消費する。『ジャンケン』が『出来』る『親』担当者を別口で用意できたとしても主催者には大会運営のための能力に加え、ギャラクティック・シャイニィ・シャイニィ・スターを出すふりをし続ける忍耐力と精神力が必要となる。それは確かに、ギャラクティック・シャイニィ・シャイニィ・スターを用いたジャンケン大会を開催する上では高い壁になると言わざるを得ない。


―――石崎祐介さんは、またこういった形での大会を開く予定はありそうですか?


尽一郎:わからぬな。今の祐介は大会を完遂した達成感より商品券を配ってしまった後悔からまだ立ち直れていないらしい。それを吹っ切った後の事にどういう結論に至るのかはまだ先の事なのだろう。儂個人としては、猛者達が磨き上げた腕を全力で披露できる場をまた作り上げてほしいと思っているがな。


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