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Galactic shiny shiny star   作者: 沢城据太郎
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発端

 冬の厳しい寒さが和らぎ、ようやく穏やかな春の気配が感じられるようになりつつあった二〇一X年三月の下旬のこと、都内某所のオフィスビルの貸し会議室においてボビーショップ『フール・オン・ザ・ヒル』主催のゲーム大会が行われた。

 先ず、『フール・オン・ザ・ヒル』についての説明を済ませておこう。『フール・オン・ザ・ヒル』とは、いわゆる『アナログゲーム』販売店で国内外のボードゲームやTRPGテーブルトークロールプレイングゲームの関連グッズ、更にトレーディングカードなどの取り扱いで全国の大都市を中心に展開している。今回この貸し会議室で行われた大会も『フール・オン・ザ・ヒル』で販売しているボードゲーム『支配者と命運 第二章~覇権~ 日本語翻訳版』の発売一ヶ月を記念した大会である。

 元来、この系統のゲームのプレイ人口はそれ程多いものではない。

 子供よりも大人をターゲットにした戦術と駆け引きを要求する高難易度のボードゲームが海外で一部愛好されており、日本のボビーメーカーがそれらを輸入し日本語訳した説明書を加えて販売するという事がしばしばある。この『支配者と命運』シリーズも、そうしたゲームの一つだ。数々のヒット作品を世に送り出した(その筋では)有名なドイツの制作会社の最新作で、プレイヤー達は中世ヨーロッパに近い世界観で各地の施政者になって自国の領土を拡大し民の支持を集めるという内容。大雑把かつ乱暴に説明すると囲碁とチェスとカードゲームを組み合わせたようなゲームで、特殊な条件を満たすことによって山札から引ける様々な効果が書かれた『命運カード』を集め機を見て使用し、盤上の家臣駒を動かし領土を広げ、他のプレイヤーと戦争や交渉を繰り広げるという様々なファクターがウエハースの様に重なる非常に多元的でややこしいゲーム性を持つ。人間対人間の駆け引きを愉しむ上では非常に面白いツールではあるが、ルールが非常にややこしく敷居が高く、尚且つボードゲームを大人同士でプレイするという文化が日本では一般的では無いこともあり、この『支配者と命運』シリーズも日本では一部のマニアを喜ばせる程度に留まっており、プレイ人口も少ない。

 『支配者と命運 第二章~覇権~』というタイトルで判る様に、今作は二作目である。今作は前作の『第一章』を購入しているユーザーに向けた『拡張版』という位置付けで、内容は新しい『命運カード』十数種類と追加ルールに対応した駒数種類のみ。つまり『第二章~覇権~』を買って貰うには同時にゲーム盤と基本ルール用の駒が同封された『第一章』も購入しなければならないという金銭的にも更に敷居の高い商品になっている(因みに『第三章~天啓~』ではそれ単体で遊べる『フルセット版』と第二章同様追加されたカードと駒のみが入っていて尚且つ値段が安い『拡張版』の二種類が発売される事になった。本家ドイツでの発売は五月頃、日本語翻訳版の発売は七月頃になるとの事)。   

 第一回大会(第一章発売記念大会)で参加したプレイヤー十五名の三分の一は『支配者と命運』をプレイした事が無く、五名ずつで行われた各卓で経験者が未経験者にルールを説明しながらプレイするというほぼ大会としての体を成していないゲーム体験会と化していた。最も、店側としてもそれは半ば織り込み済みであり、大会にしても体験会にしてもマイナーなボードゲームを小売店側とユーザー側双方から盛り上げるという目的は共通している。そもそもこの大会の告知に『初心者大歓迎!』の文言が書かれている時点で推して知るべしという所だ。ドイツ語版から既にやりこんでいるヘビーユーザーや傾向の似た他のボードゲームの愛好者達もこのジャンルのマイナーさ加減はよく理解しており、初心者への説明を頼まれるでもなく積極的に行い、第一回大会は和気藹々とした雰囲気で幕を閉じた。

 そして第一回大会の半年後、拡張版の『第二章』発売に併せて第二回発売記念大会が行われたのだが、前大会とは決定的に異なる点があった。集まった参加者の数が八十人だった事だ。



 異常な参加者数の増加の火種は、第一回大会の終了間際に既に燻っていた。初心者に説明しながらの大会は滞り無く終了し、上位三名にそれぞれ賞品が贈呈された。優勝賞品は『フール・オン・ザ・ヒル』の商品券一千円分。二位には三百円分で、三位のプレイヤーには『支配者と命運』の宣伝ポスターが送られた(中世風の市街地バックに、司令官が中心に立ち周りの兵隊や騎兵に命令を出すという、レイブラント・ファン・レインの『夜警』を露骨に意識したという構図のイラスト。非売品であり、二位のプレイヤーは「そっちの方が良くね?」と少し羨ましそうにしていた)。しかしこの時、『フール・オン・ザ・ヒル』の店長で大会を運営していた石崎(いしざき)(ゆう)(すけ)(以下人名における敬称略)はふと、予備のポスターも景品に出してしまう事を思い付いた。こういった大会は、終了に近付くにつれ興奮が沈静化していくパターンとイベント終了まで参加者のテンションが高いまま維持されるパターンに別れる。今回は後者のパターン。……当時の様子を大会運営の補佐をしていた『フール・オン・ザ・ヒル』のアルバイトの谷川にインタビューした。



谷川:今まで関わったゲームイベントの中では(勿論『支配者と命運 第二章~覇権~』は別格として)かなり盛り上がった部類でしたね。一回戦で敗退した皆さんも殆んど帰らずに空いたテーブルで野試合をされていました。

 運営側と参加者の間に一体感が生まれていて、……こういうイベントは基本的に運営側から場のテンションを上げて行く事が多いんですが、それでお客さんが盛り上がってくれたらやっぱり相互作用で運営側の気分も高揚してくるんですよ。石崎店長もこういうイベント事は積極的ですから、やっぱり自身が運営しているイベントが盛り上がると仕事抜きで嬉しくなるんですよ。

 賞品授与の時に余ったポスターを見つけて、店長が敗者の皆さんとジャンケンをし  て最後まで勝ち残った方にそれをプレゼントする、という流れになったんですけど、店長その時凄いテンション上がっててちょっとしたジョークのつもりだったんしょうね。ジャンケンを始める直前に一言仰ったんですよ、

「ああ、言い忘れましたけど『ギャラクティック・シャイニィ・シャイニィ・スター』は反則扱いですからね~」

……って。

 店長がこの一言を口にしたとき一瞬だけ場の空気が凍りついたのが今でも印象に残っています。ただまあ、直ぐに笑いに変わりましたけどね。大会に参加してらっしゃった方の大部分が他のボードゲームやトレーディングカードゲームの大会にも参加して下さますからね。対人ゲームのファンとしては『ギャラクティック・シャイニィ・シャイニィ・スター』という言葉を訊いただけで過剰に反応しちゃう所があります。特別な意味を持っていますからねぇ……。



 ポスターを巡るジャンケン大会も滞り無く終了し、この日の大会はこれでお開きとなった。

 ……第二回の事件、或いは馬鹿騒ぎの第二の原因となったのはこの大会に参加したプレイヤーの一人が自身のブログで今大会についての事細かなレポートを掲載した事だと言われている。このプレイヤーは筆まめな人物で、自身が出場したゲーム大会やゲームそのものの紹介などを多数書き込みしており、そこそこにブログのヒット数は多い。

 そしてそのレポートでは店長の口にした『ギャラクティック・シャイニィ・シャイニィ・スター』の冗談に関する話も載せられていた。彼のブログでは「いやいや、無理だから、誰も出来ないから!」という返礼の言葉で文章が締めくくられていたが、恐らくこの文章を書いた時点では彼も知らなかったのだろう、石崎祐介と『ギャラクティック・シャイニィ・シャイニィ・スター』の間に浅いながらも因縁が存在する事を。そしてそれすらも大いなる意味を持つ事を。


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