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吸血鬼の世話係

作者: バオール

 家を出る前に、瑪瑙メノウ翡翠ヒスイで装飾されたロザリオを首からぶら下げた。これを売れば、しばらくの間は楽して生活ができるだろう。でも、それは不可能だった。これが身を守る唯一の手段であり、命を守る砦だった。

 この国は海に散らばられた島々から構成されている。僕の生まれ故郷よりも遥か北にある辺境の島国だ。ここには忌み嫌われていた吸血鬼たちが島に閉じ込められていて、僕は吸血鬼たちの世話をしている。人間と吸血鬼は諍いも多かったようだけど、今では完全に和解している。

 冬の間は、太陽がまったく上がらないので吸血鬼たちにとって天国だ。でも夏場は、逆に太陽が出っぱなしになるので、人間たちの手を借りないと生きていけない、白夜は吸血鬼たちにとって最悪のものだった。

 担当の家の扉をノックして、鍵を使って家に入った。寝室まで上がると、鍵がかかっていたので、再び鍵を使って開けた。窓は潰されていて、ベットの上に吸血鬼の美少女が眠っていた。白い肌、美しき髪、八重歯が少し出ている。僕はロザリオを背中に回してから話しかけた。

「おはようございます」

「もう……朝?」

「時計によれば」

「鐘の音を聞き逃したわ」

「では、さっそくですが家の掃除を行いますね」

 吸血鬼を抱っこして、棺おけまで運んだ。棺おけの中は砂が詰まっていて、ゆっくりと置くと、安息の溜息を漏らした。蓋をする前に「少しだけ待ってくださいね」と言った。

 さて、吸血鬼の家は光が不要なので、窓がほとんど潰されている。そのため換気が悪く、家の中は湿気による劣化が激しかった。海に近いこともある。開けられる窓を全てあけて、換気をした。箒とハタキを使って埃を集めて、家中を綺麗にした。まばらに広がる他の家も掃除を行っていた。全ての掃除を終えて、窓を閉めてから、棺へ戻って、吸血鬼をベットへ戻した。

「血を」

 僕は口の中で瘡蓋となっている部分を噛んだ。途端に熱いものが口の中に溢れた。鉄の味が広がり、外へ溢れる前に、吸血鬼と唇を重ねた。血を送り込み、飲み込む振動が唇から伝わった。お互いの唇は血で汚れもしなかった。すでに慣れている食事風景だった。

「美味しかった」

「それでは、また明日来ます」

 僕は部屋から去る前に、吸血鬼に呼び止められた。

「故郷にはいつ帰るの?」

「冬を前には」

「そう……寂しくなるわね」

「貴女が止めてくれるなら、ここにいますよ」

 吸血鬼の返事はとても小さくて聞き取れなかった。

 耳を唇に近づけると、愛の言葉を囁かれた。

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