一話 プロローグ 異世界で死に直面したよ。
また性懲りも無く投稿してしまった作者です。
今回は連載の実験ですね。出来るだけ完結させたいです。
「んなぁぁぁぁ」
少し高めだがかろうじで少年だと分かる声が森に響き渡る。
ただ、ひたすらに少年は走っていた。後ろから迫り来る異形の影から逃げること、かれこれ一時間程だろうか。
何故僕がこんな目に、と思いつつ走る脚を止めることはしない。此処に来て数時間、パニックに陥りやっと落ち着いた時、眼の前には『獅子の如き頭が二つ有る二本の脚で立つ象ほどの大きさを持った化物』が居た。
瞬間、恐怖に竦む脚を必死に動かし少年は走り出す。幸いにも化物の足はそれ程速くは無かった。
しかし、考えてみて欲しい例えば50メートル走の速さで一時間二時間と走り続けて下さい、と言われてそんな事が出来るのだろうか。先に言ってしまえばそんな事は基本的に無理である、体力の限界だ段々と少年のスピードは下がっていった。
そもそも短距離を速く走る事と長距離を速く走る事は全く別物だ。短い距離を瞬間的に最速の速さを出しきり秒単位で走る事に対して長い距離をいかに速く走るか何時間何分で走りきれるかである。必然的に短距離の方が短い時間で体力を多く消費する。
この点で言えば少年は良く持った方だった、これは一重に少年の生きたいという生存本能が起こした奇跡。
しかし無常にもその時はやってくる、脚はもう動かない、遂に少年は止まってしまった。
大木の様なその腕が自らに振り下ろされる瞬間少年は此処に来る前の事を思い出していた。所詮は走馬灯というやつである。
何時もどうりの朝だった。七時丁度に起きて朝食を作りさっさと食べてしまって着替えて家を出る。途中で幼馴染二人と合流し並んで登校する。
「今日も■■■は可愛いねー、なでなでしたくなっちゃうよ。」
「たしかに■■■が本当に男か疑っちまう時があるよなー。これが本当の男の娘って奴か。」
これも何時ものやり取り、正直僕は不本意だけれど。
「ちょっと小さくて童顔なだけじゃないか」と反論しておく。
学校に着いてからはたいして面白くもない授業を聞き流しつつぼんやり窓の外を眺めていた。
視線の先には黒い雲があって傘持って来てないなーなどと考えている内に授業も終わり気付けば放課後。自分は部活に入っておらず一人で帰路に着く、すると憂いていたとうり雨が降り出した。
少々の雨なら大丈夫だろうと思っていたが、雨は段々と強く成っていく丁度コンビニが目に入ったため駆け込む。しょうがないので傘を買う事にした、よくある安価の白いビニール傘。
さあ帰ろうと意気込んでコンビニを出た瞬間、足元が光った気がした。突然視界が暗転し目を開いた時、眼の前には森が広がっていた。それも美しさ清らかさ等皆無のどんよりとした恐ろしげな森が。
元々が怖がりだった僕は当然パニックになった、何で急にこんな所に誰か人はいないか自分はどうなってしまったのか、ココワドコワタシハダレ知らない天井だ、最後のは少し違うがとにかく恐ろしかった。
目蓋の裏が熱くなり雫が目尻に溜まる、自分一人という不安から泣き出していた。昨今のラノベ主人公なら「これからどうするか」とか、「とりあえず人か町を探そう」とか言い出して森を突き進んで行く。異世界に行って直ぐに行動するのだ、だが自分にはそんな根性は無かった。ただただ不安で、へたり込んで泣いていた、涙が枯れる頃やっと落ち着いて。どうしようかと考え始めた時に眼の前に居たのが見たことも無い生物、化物。
咄嗟に走り出したけれどもう体力の限界だった。最後に思い出したのは優しげな顔の母、厳しくも自分の事を思っていてくれた父、自分をとても慕ってくれていた二つ下の弟と妹、そして何より何時も自分の傍に居てくれた、励ましてくれた親友であった幼馴染の少年と少女。
人は死を覚悟した時何を思うのだろうか、少年は誰よりも「生きたいまだ生きていたい」そう願った。
「諦めてはいけません、生きるのです。さあ私を手に取りその生きたいと思う気持ちで振るうのです。」
何かが手に現れたそんな気がした、無意識の内にそれを掴み、声にならない叫びを上げ手を振り切っていた。閃光、光の爆発、美しき生の光、自分がまた涙を流している事に気付きつつ少年の意識は一度途切れる。
彼が気を失ったその傍らに美しき女性が立っていた。一言で言うなら『白』艶やかで透明の如き白い髪を無造作に腰辺りまで伸ばし、和服と洋服をごちゃ混ぜにした様な服は彼女の陶器のように白く透き通った肌を隠している。慈母のごとく優しげに微笑みながらその大きく美しき光を宿した瞳で女性は少年を見ていた。
「ふふ、よかったもう少しで間に合わなくなる所でした。せっかく出来た我が主をこんな所で死なせるわけには行きませんからね。貴方は私で何をするのでしょうか。」
「ねえ、日傘 廻様」
そういって麗しき『白』の女性は少女のような少年の名前を口にした。
ご一読していただけた方はありがとうございます。
次はもっと文章の量を多くしたいですね。