第六話 残り時間66時間
俺に与えられた時間はあと66時間。
今日は都合良く、休みだ。アパートの清掃をしよう。
「発つ鳥後を濁さず、だな。」
掃除をしながら考えていた。何故、あの竜は三日後に消滅してしまうんだろう?
そもそも何故、あそこにいたのか?・・・肝心な事は検閲をかけられて情報が引き出せなかった。
俺はこめかみに指を当てて、念じる。
「おい、竜。」
『なんだ?・・・くだらん事を考えているな?』
精神と記憶が連結している俺たちは想うだけで、意思疎通が出来てしまう。
いや、精神体の竜は都合の悪い思考は読まれないようにプロテクトを掛けているらしくサトラレ状態なのは俺の方だけだが。
「呼び名は必要だろ?”天の御使い”の意味の名ならアンジェだな。」
『天使をもじったわけか。まぁ、なんでも良いがな。そんなことを考えるより、限られた時間をどう過ごすか考えろ。』
「それはそうだけど、気になるだろ?」
『フッ、全く変わった奴だ。用が済んだならもう寝るぞ?・・・余計な事に思いをめぐらせるのはもうよせ。どうでもよい事だ。』
そう言うと、奴はリンクを解いた。
「・・・自分の事もちゃんと考えてるさ。」
俺は携帯電話を手に取ると、メールを打った。
「お疲れ様、今夜都合が良ければ食事にいきませんか?・・・っと。」
送信画面を見届け、ため息がもれる。
「都合聞いてアポとれるほど、時間ないからなぁ。」
メールの相手は鷲塚 京子。
半年ほど前に、何度かデートに誘って告白をしたが断られた。
人を好きになったのは久しぶりだった。
これが最期の恋だと思うと、食事くらいしておきたいと思ったのだ。
「そういえば、彼女はタバコ嫌いだったな。」
あと63時間、禁煙も悪くない。俺はタバコとライターをゴミ箱へ投げ入れた。
今まで気にも留めなかった景色もなんだか感慨深く見える。
「夕日を見れるのもあと3度か。」
限られたものだと思うと、何でも価値があるように見える。
会社には連絡を取り、明日からも休みを取った。