第二話 |完全なる自由《不自由》
・・・あれから、どれだけ経ったのだろう?
目の前に広がる暗闇。そこには一縷の例外すら存在しない。
俺は自分のおかれた状況が把握できずに、漂っていた。
記憶が途切れたと思った、次の瞬間にここにいた。
音も光もない、おそらく時間や重力も存在しない。
「・・・自由だ。」
それが、口を開いて最初に出た言葉だった。
一切の物理法則も存在しない、枷から開放された世界。
『だが、手に入れた筈の完全な自由は進みたい方向に進むどころか立ち上がることもままならぬ不自由だぞ。』
何もいない筈の世界で、声がする。
いや、声が聞こえたというよりは想いの波が触れてきたような・・・。
振り返ると、そこには声の主らしき影が。
宝石のように澄んだ蒼い瞳、耳元まで裂けた大きな口。
角に翼、尻尾・・・緋色に輝く鱗。
「竜だ。」
そこには、竜がいた。
子供の頃に見た絵本に登場したそのままの姿だ。
「そうか、これは・・・」
『”夢”か?当たらずとも遠からずだな。』
なっ!?思考を読まれた?
『驚くことはない、ここはそういうところだ。』
『・・・むしろ、ここで自我を保てる人間の方が珍しいぞ。お前の名はなんというのだ?』
「天だ。諏訪 天」
『ほう、名まで言えるとはな。これはまた珍しい。ところで、お前は今死んでいる事に気が付いているか?』
!なんだと?・・・いや、待て。どうせこれは・・・。
『夢ではないぞ!お前は死んでいるのだ。このままでは精神すら消えて貴様の存在は完全に初期化される。』
「な、何を?」
『ここで逢ったのも何かの縁だ。我になら貴様の状況を解決できなくもないぞ?』
目の前で、何やら俺に提案をする竜。
だが、俺はまだ状況を飲み込めずにいた・・・。