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第十二話 ユダの物語

『そうでなくてはな。』


男は尚も余裕の笑みを浮かべる。

(たかし)は迷う事無く、男の胴を貫く。

手応えがおかしい。これはハズレのようだ。

「そこかっ」


天は足刀で、背後にいる敵の頭を打ち抜く。確かな手応え。

しかし、蹴りは男は左手で遮られた。

『それで終わりか?』


男が不適な笑みをするのが早いか、軸足をなぎ払われる。

続きざまに水月に肘を打ち込まれ、顎に掌底をくらう。意識ごと吹き飛ばされるような衝撃。

「このっ」


天は体勢を立て直し、けん制で蹴りを放つ。

あっさり避けられたが、距離は取れた。

精神の限界を迎える前に、目の前の男を倒すしかない。

天はまた前に出る。


男も迎え撃つ。毎秒、千発以上の突きや蹴りを撃ち合う二人。

色も音も置き去りにした、おおよそ人間のうかがい知らぬ世界の中でぶつかり合う。

拳を交わす間に、ノイズのような男の記憶が流れ込んでくる。

「・・・なんだ、これは?」


『我らは今、同じ竜を介して力を行使している。我にも見えるぞ、お前の記憶がな。』

男は不敵に笑う。


その映像は燃え盛る炎から始まる。男の蹴りや突きを払いつつ、ノイズまじりで流れる記憶を覗くのは頭が混乱してくる。

(はりつけ)にされ、周りでは群集が何かをこちらに叫んでいる。

炎は火刑の為の火あぶりの炎だ、時代は中世だろうか。


『なかなか刺激的だろ?お前の記憶はつまらんな。』


男はかつて”最も真理に近づいた12番目の使徒”と呼ばれる者を先祖に持つ一族の末裔として生まれた。

暮らしは決して楽ではなかったが、一族は固い結束で結ばれており回りからの迫害にも耐えながら生き抜いてきた。


男は名をイェフダーと言った。世間からは裏切り者と罵られながらも、一族にのみ語り継がれる伝承によれば、最も真理に近づいたからこそその大役を任されたという先祖の名を受け継いだ。

本家の嫡男として生まれ、次期当主しての自覚と才覚に満ちていた。


しかし、時代は男の人生を狂わせる。

一族の存在を疎ましく思っていた貴族に、一族の子供が因縁をつけられ殺されそうになる。

イェフダーは貴族ともみ合いになり、貴族が振りかざしていたサーベルは貴族自身の喉に突きたてられた。

即死だった、もはや貴族は息をしていない。

子供を帰し、イェフダーは貴族の遺体を木の下に埋めた。

その貴族は、隣の国でかなりの有力者である一族の四男だった。

家督も継げず、期待もされないその待遇に苛立ちをおぼえ、日夜八つ当たりに時間を費やす放蕩貴族であったが、事故とはいえ死んだとなれば報復は免れない。


しかし、隠蔽は程なく最悪の形で露呈する。

当時、流行っていた魔女狩りにより自らの一族に嫌疑がかけられたのだ。

当然ながら、否定はしたが疑いはすぐには晴れない。

村を隅々調べられることになり、事故で死なせた貴族の兄である次男が率いる調査隊がやってきた。

その最中だった、野犬が掘り返した木の根元に白骨化しかけた弟を発見する。

着ていた衣服がなければ、判別がつかないほど腐敗した姿を目にして発狂するほどの怒りにかられた。


イェフダーの一族は全員逮捕された。父は貴族に弁明をしようとしてその場で射殺される。

望まぬ成り行きで、当主の座に着いた。

目の前で弄られる女と子供。イェフダーは血の涙を流しながら、騎士達に呪いの言葉を吐く。

抵抗むなしく磔にされ、足元の薪に火が灯る。


その様を見ながら、酒を飲み侮蔑の言葉を叫ぶ貴族達。

イェフダーは恨んだ。貴族を、運命を、人を。目の前に映る全ての者を呪いながら、絶命する。



・・・闇に包まれた世界で、竜と対面している場面を最後に映像は途絶えた。


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