無関心
気持ちのいい朝を迎えることは、一日を楽しく過ごすコツだと私は考えている。いつも同時刻に起床し、いつも同じ朝食を平らげ、いつも同じ朝日を眺める。特に朝焼けは、脳裏に何度とどめても素晴らしいものだと言えるだろう。漆黒の闇を静かに藍色に染色して、その濃淡の変化の中に金色の明星が登場する。これほど一日の初めを感じさせてくれる減少は、ほかには無いだろう。
空との距離を遠く感じ始めた冬のある日の朝、私はそんなことを考えていた。気付けば世界が終わり、そして再び始まってから1年以上が経過している。世界は終わった。それが、人為的なものなのかと言うと、結局要因はそうなのであり、しかし、二次的要因でもあると言える。世界が終わる前、全面核戦争、世界大戦、宇宙侵略、などというフィクションが世の中には溢れていた。実は私もそのような虚構が、やがて真実になるのだと考えていた部類なのである。しかし目の前に突きつけられた真実は、至ってシンプルであった。
1年前の春、人類は未曾有の人口減少に対面していた。原因はさまざまで、新型ウイルスなどの伝染病、環境破壊による居住都市の減少、各地で起こる内戦、紛争の激化に伴う戦死者。著しく世界の人口が減少していく中で、止める者もおらず、また、止める術も見つからなかった。やがて、慢性的なエネルギー不足によって各国の資金が減り始め経済のバランスが崩れた。しかし、それが世界の終わりに続くとは誰も思わなかったのである。また、お偉い人が物事を決め、世界を動かし、安定へと運んでいくものだと誰しもが思っていた。
「少し、冷えてきたな」
私はコーヒーを飲みながら朝日を眺めていたが、空気の入れ替えのためにあけていた窓を閉めることにした。もう少し書き留めておきたい。
私は科学者ではない。かといって気の利いた文章を書ける文学者でもない。今となっては、何者でもないのである。稚拙な文章を書いていることをどうかご容赦いただきたい。専門的な知識を持っている訳でもないので、どうも具体的には説明ができないのはなにかもどかしい気もするが、そんなことは些細なことである。
さて、話を戻そう。なぜ我々人類が、このような異常な現象とも言える世界の異変を目の当りにしても、それを危惧することがなかったのか。それには理由がある。一つは先述の理由。そして一つは、世界が、人類が個として意識が傾いていたからだ。人と人の干渉の緩和である。もっと言えば、コミュニケーションの簡略化である。デジタルに依存した世界に人は惹かれていき、やがて、干渉の必要性を見失ってしまったのである。そこにあるのは、無関心でしかない。つまるところ、世界の異変に興味すらなかったのである。その時は誰も疑問してなかったし、私もそうだった。(今思い返せば、このことについて思慮すべきであった。学者でも権力者でもない私に何ができるかは、置いておくとして。)
結局、一年前よりも前に緩やかに世界は腐っていたのである。1年前にお偉いさんが気付いた時にはもう手の付け所が無いほどに朽ちてしまっていた。そしてその年の夏、世界は終わった。原因は誰にもわからなかった。わかるはずも無い。興味がなかったからだ。国連、各国政府は立て続けに崩壊していき、ネットワークのみが残った。誰が電力を供給し、誰がネットワークを維持し、誰が世界のバランスを取り始めているのか。
いずれにせよ、今の私には知る術が無い。『デジタルは劣化しない。そんな今だからこそ、情報の取捨選択をし、後世に伝えるべきだ』
そんなことを誰かが言っていたが、それがなんなのだ。伝える相手がいないと、劣化しようが関係の無いことなのである。例えば、この素晴らしい朝日を写真に収めようとも、ビデオに録画しようとも、それを目に焼き付けてくれる人が本当にそこにいるのだろうか。それさえも、私にはもうわからない。
やがて、エネルギーがなくなり、私もここに文章を書くこともなくなるだろう。そうすれば、私は何をしようか。息をし、食事をする、というのは生きることと同意義だとは思えない。故に私もまた、人口減少の当事者で、既に死人だということだろう。屍となった今、私は世界をどう生きればいいのだろう。
「ほら、あそこに見えるのは、ありゃ新しい星だ。あんなのものができたんだな。ところでどうだい?一つ賭けでもしないか?そうだよ、あの賭けだ。お前さん、いつも同じことばかり言うな。そんなことわからないだろ?まぁそういわずにさ。いつもそのモニタに向かってつまらない文章書いてるだけじゃ、脳が腐っちまうぜ?そうそう、そうこなくっちゃ。じゃあお前さんはいつも通りにかけるんだな。オーケー。なんだい?あぁ…もうそういう事言うなよ。希望ってのはいつだって心に灯しておかなきゃならないんだぜ。確かに何かを信じなければ、辛いことも無いだろうけどさぁ、そうなりゃ俺らが考えているって事も必要なくなっちまうぜ。物事を良くしようと考えるわけなんだからさ、希望はなくしちゃいけねぇーよ。希望はあるだって?またあれかい?世界のバランスを誰かが取ろうとしてるってやつかい?馬鹿言っちゃいけいないよ。世界なんてもう無いのさ。俺たち以外に誰か見たことがあるのかい?ないだろう?デジダルの世界でみた?デジタルは確かにすげーけどよ、そこに誰かがいるって本当にお前さんにわかるのかい?俺か?俺もいつも通りに賭けるさ。あの太陽系に位置する生命反応が見られる、地球って星から助けが来るに1本。こないだって?俺たち二人だけの世界に来る必要が無い?そんなことねぇーぞ。俺はデジタルの世界で見たんだよ、なんだっけかなぁ…ボイジャーとかボイラーとか、何とか言う探査機みたいなものが不時着したらしくてな、そこに地球からのメッセージがあったんだとよ。確かそこには、俺たちと似た2足歩行の生き物がいて、変な嗜好品ばっかり楽しんでいるんだ。そいつらは、くだらないことばかりに執着しているらしくて、大衆的なものには興味津々らしいんだ。特に宇宙とかな。俺にはどうでもいいことだけど、そいつらにとってもし、探査機がここに不時着したのがわかればどれほどの興味をそそると思う?その…なんだ地球って星の奴らは踊り狂うだろうさ。だから俺は地球から助けが来ると希望を持っていられるのさ。楽観的に物事を考えていると、この星みたいになるってことをそいつらが知らなければの話だがな。えっ?俺も結局デジタルの世界でしか見たことが無いんだろだって?そういやそうだな。デジタルってのはどうも嘘と真実がわからねぇーもんだよ。ところでおい!お前さんさっきから朝日とかいってるけど、朝日ってなんなんだい?」