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雨の日の散歩者

作者: 闍梨

 僕の出掛ける日はいつも雨だ。

 餌を求め走り続けるドブネズミ色した空から、悲しみの雨が降り注ぐ。


 家から出て真っ直ぐ歩くと、小さくも盛んな商店街がある。

 肉屋の店主の声はいつもと変わらず明るい。空模様とは真逆の晴れた声を聞くと、決まって僕は元気が無くなる。

 肉屋からもう少し歩くと、右手に古い喫茶店がある。僕は珈琲を飲まないが、聞く話には案外美味いらしい。しかし、珈琲の香りは好きだ。僕は喫茶店の前で少し立ち止まり、雨混じりの珈琲の香りに身を委ねる。

 珈琲の香りを堪能した後は、隣の古書店に顔を覗かせる。古書店の店主は顔をしかめ、いつになく顔のしわを増やしている。売り物を濡らすなよと語りかける店主の目に、僕は身体を萎縮させる。

 僕は古書店で何を買うわけでもない。けれど、ぶらぶらと本を眺めるのは実にいい。先人の知識を豊富に詰め込んだ書物は、何年もの時を経て「古書」になる。その過程を考えると、雨の日の憂鬱が霧の様に消え失せていく。


 商店街を抜け、横断歩道を右に曲がる。小降りになった雨を体全体で受け止めながら道を進むと、この街に似つかわしく無い、赤い屋根を持った、洋風の家がある。立派な庭には、手入れされた芝が、降り注ぐ雨に負けまいと力強く根を張っている。敷地を隔てるクリーム色の門壁には、カタツムリがのろのろと家路についている。

 その家の庭に、小さな木造りの小屋がある。小屋の中には眠そうなシェパードが、屋根に当たる雨音にうんざりとしているのが見える。僕はシェパードに気づかれない様に、静かにそこを通り過ぎる。


 難なくシェパードを通り過ぎると、防火水槽の看板が見えてくる。そこを右に折れて、緩やかな坂を下る。すると左手に、小さな公園がある。

 当たり前だが、雨が降っている公園に人は居ない。あるのは雨に濡れて遊べない、ブランコや小さな滑り台くらいだ。雨の日の淋しさを水溜りに貯めた公園を見ながら、僕は真っ直ぐ道を行く。緩やかな坂はいつの間にか平坦な道になっていた。

 この辺りには、最近出来たパン屋がある。パン屋から漂うのは、香ばしいミルクパンの香りだ。機会があれば店内に入りたいが、今日も立ち寄る事なく通り過ぎる。


 パン屋を通り過ぎて初めに見える電柱を右に折れると、両側が住宅地になる。左手に見えるアパートは、いつも僕が散歩を開始する所だ。ここまで来るともう僕は何も考える事なく、左に曲がる。またここへ帰ってきた。


 僕は持ち主に閉じられ、傘立てへと戻る。

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