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懸命にこの世界を。

 





 “他の獣人族かもしくは他の群れの長に声を掛けておく

 ――長くこの群れにおることはない”



 保護する上位種を紹介すると言われたあの日から、その件についての音沙汰はない。


 しかし、綾は不安を感じていた。

 他の群れも獣人族も、綾は知らないし分からないからだ。

 現在の自分が、誰かに頼るしかない寄る辺ない身であることを綾は十分に自覚している。 その不安や心もとなさは、他の獣人族や群れの実態を知らぬからだと、懸命にこの世界を知ることに努めたが、知れば知るほどここは異世界で、その不安は増々大きくなった。


 けれども、この群れには不思議なほど恐れを感じないのだ。


 建物のせいなのか、とも綾は思う。 部屋を眺めれば懐かしささえ覚えた。

 この屋敷は、綾の父方の実家である和洋折衷の古い洋館に、造りや建築工法が似ている。

 それを不思議に思った綾が、教授されている時間に問えば、異世界からの異邦人――落人により持ち込まれたものはこの世界に数多くあり、この屋敷も昔に拾われた落人から得た知識の一部により建てられているのだ、と教えられた。


 元の世界を感じさせる場所だからなのか、それとも、実際に蛇たちと交流して恐ろしいものではないと知っているからか、――それとも、その長に助けられたからなのか。


 一人の寂しさを感じてはいても昼間は落ち着いていられたし、自分を害さぬ安全な場所ところだと、その根拠は薄いのに、何故だか綾は確信を持っていた。


「やっぱりこちらに置いていただけないか、お伺いにいけないかしら……でも、」


 世話になっている身で、多忙だというカヅチの時間を取らせてまで訴えていいことなのか、この世界の常識も慣習も何も分からない綾には判断がつかない。

 カヅチに直接会いたいと世話係兼教育係の男に言い出すことも憚られて、ただ、部屋の窓から外を眺める日々を送ってもう両手の指を数えおえた。


 このままでは他の群れか、他の獣人族のところへ行くことになる。

 そう焦りはするが、カヅチへ訴えるのは、やはり躊躇われた。

 判断がつかないこともそうだったが、綾が逡巡する最大の理由は、カヅチだった。


“白の群れ”自体のことを極力教えない、という不自然さに違和感を覚えた綾が、教育係、の男の様子を注意深く観察し、それによりカヅチの意思が働いていることを敏感に察していた。


「カヅチ様は、まるで、この“群れ”から私を追い出したいかのよう……」


 言葉にすれば、重い。 しかし、間違っているようには綾には到底思えなかった。


 知らない間に、気分を害するようなことをしてしまったのだろうか。


 綾には分からなかった。

 カヅチと綾が言葉を交わしたのは、助けられたときと人型で会ったあのときの二回だけだ。

 けれども分からないなりに、あれから綾に会いにくることもないことや、何より最後に会った時の態度で、カヅチは自分を視界にさえ入れたくないのかも知れないと、綾は薄々気づいていた。





 

ちょい重め。


被害妄想でなく、相手の気持ちが分かることってありますよね。

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