したがらないのに、
あれから十日が経った。
綾は客人として遇されることになり、カヅチからあの面会の後すぐに、人化――人の形を取った蛇の上位種の男をお前の世話をする者だと紹介された。
男はこの世界のことを何も知らない綾の教育係も兼ねており、獣人族のことやちいさきもののこと、蛇族特有の“群れ”のことなど、獣人世界の知識を教えられて日々の大半を過ごしていた。
「この屋敷には“群れ”の長であるカヅチ様と、まだ人型に変わることの出来ない幼い蛇たち――ちいさきものと、その世話をする上位種の蛇たちだけが棲んでおり、執務に携わる者や下働きの使用人などは、基本的に隣りの館か通いで勤めております」
世話人兼教育係の言葉に、綾は軽く目を見張った。
いつもは“白の群れ”のことを説明したがらないのに今日は珍しい。 どういう風の吹き回しなのかと綾が思ったのが顔に出ていたのか、男は微かに右の眉尻を上げて「何か質問でも?」と尋ねた。
首を横に振った綾に、男は説明の続きをするべく口を開いた。
「“白の群れ”……いえ、蛇族は長に支えられてここに在るのです」
カヅチは常に執務に忙殺されているということだった。
曰く、“群れ”の長には元々責務が多いこと。
曰く、“白の群れ”の長はその中でも蛇族にとって特別な役割を持つために、誰よりも多忙であるということ。
綾は遠回しにカヅチと顔を合わせない理由を説明されているような気がした。
忙しいからなのかそれとも違う理由からなのか、カヅチに会ったのはあの一度きりのみで、客人扱いとはいえ正式な客人ではない綾を、カヅチが訪ねてくることはなかった。
毎日一度、綾の部屋には女性の使用人が室内清掃に訪れる。
交流を、と綾から声をかけてみたが、生真面目な態度で清掃中ですのでと断られてからは、気兼ねをして挨拶と感謝の言葉のみしか話しかけられなくなった。
世話になってばかりで申し訳ないから、せめて自分の寝起きしている部屋の清掃くらいは自分でさせて欲しいと世話人へ綾が訴えても、この屋敷の使用人の仕事を奪わないでくれと遠回しに言われてしまう。
そうして更に身動きが取れないようになり、綾に出来ることはただ、この世界のことを知るために勉強をすることと、時折窓の外を眺めることくらいだった。
扉の向こうの廊下を誰かが通る気配や声が微かに聞こえていても、丁寧だが他人行儀な態度を崩さぬ世話人や使用人が部屋を訪れていても――この屋敷の中で綾は独りだった。
世話人兼教育係の男が去り、毎日の清掃も終われば、綾は一人きりになる。
そうなれば、その口から出るのは段々と憂いの籠った溜息ばかりになり、出された課題も終え更に自習をしても、それすら一段落ついてしまう。
秋の色の濃くなった外の景色を見ながら、綾はぼんやりとカヅチの言葉を思い出した。
他のを大改稿してたら書き方混乱。