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ゆえにしばらくは、

 





「我の名は、カヅチ、だ。

 この“白の群れ”のおさを務めておる」


「私は貴方を何とお呼びすれば宜しいですか?」


 綾がそう問えば、ちいさきもの達が一斉にカヅチへと顔を向けた。


『かじゅちさま!』


『かじゅちさまー』


『かじゅちさまっ』


「……長とでも何とでも好きに呼べば良かろう」


 幾つもの自分を見つめる視線からカヅチが目を背けると、それらの視線が今度は一糸乱れずもう一方へと注がれた。

 注がれた先の綾がきょとんとした顔をしてちいさきもの達を見返す。


『ひーさま、かじゅちさまっ』


『かじゅちさまーっ』


『か、かじゅ、かじゅちさま!』


 綾へと言い募るように騒ぐのがカヅチの目の端にうつる。

 落人には聴こえぬのに何を無駄なことを、とカヅチが少々あきれた目線でちいさきもの達を見下ろしていると、綾が口を開いた。


「ではカヅチ様、とお呼び致しますね」


「……娘、」


「私のことは綾、とお呼び下さいませ」


「――娘。 お前はこのもの達の言葉は聴こえぬのだよな?」


 娘と頑なに呼び続けるカヅチの様子と、今更なその質問自体に綾は不思議そうな顔をしたが、しかし気を取り直したように答えた。


「ええ。聴こえませんけれど……。

 それよりカヅチ様、ひとつ質問させて頂いても?」


「……なんだ」


「蛇の姿の時には人とお話が出来ないとおっしゃってましたが……。

 あの時――空から落ちているところを助けて頂いた時に会話が出来たのは何故ですか?」


 蛇族や獣人族には当たり前に知られたことだが、異世界からきた落人の娘からすれば、当然と言えば当然の疑問だった。


 蛇族の上位種は成人後、特に能力の高い者の中には、獣形をとっていても話すように意思を伝えることが出来るようになる者もいるとカヅチが教えてやると、綾はそういうものなのですねと納得したような返事をしつつも、微妙にあいまいな顔をして頷いた。


 ちいさきもの達との簡単な意思疎通さえ全くままならないのに、蛇姿のカヅチとはまるで実際に話しているかのように、お互いの意思が通じたからだろう。

 それもその筈、カヅチの意志疎通の明瞭さは、カヅチと初めて会う他の獣人族からも一様に驚かれるほどだった。

 蛇族でこれほどこの能力に秀でた者は、カヅチの他に誰もいない。


「蛇族の中でも我は“特別”だからな。

 ……この“白の群れ”の長とはそう言うものだ」


 片頬を微かに歪めて笑うカヅチに、それ以上娘は深くは聞いてこなかった。


「もうひとつお聞きしても宜しいでしょうか?」


 カヅチが許可すると、綾の質問は今後の処遇についてだった。


「私はこの後、いえ、これからどうなるのでしょう」


 元よりその話をしにきたカヅチは、決定事項を口にした。


「先ほども言うたが、異世界から稀に落ちてくる落人――お前のことだが、その落人が元の世界に戻れたという事実はない。

 そのため何らかの職などを得て独り立ちするまでは、上位種が保護するとりきめとなておる。

 しかしこの“白の群れ”は少々特殊な場所にある。

 ゆえに暫くは我が保護することになろう」


「暫く……」


「他の獣人族かもしくは他の群れの長に声を掛けておく。

 ――長くこの群れにおることはない」


「こちらの群れでは、いけない、のでしょうか」


「ここで落人に出来ることなどない」


 否、とカヅチが重ねた言葉に、綾が異を唱えることはなかった。




 

フラグクラッシャー。



ちょっと前にお気に入り100件越え&ユニークアクセス1万越えしてました。

それだけ読みに来て貰えてるんだなと思うととても嬉しいです。

ありがとうございます。

のんびり更新ですが、宜しくお願いします。

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