同じ存在の筈なのに。
「異世界ではここ“白の群れ”に棲む蛇族の名をそのように言うそうだが……我らにそのような名はない。
蛇族は蛇族であるというだけだ」
蛇族は自分達が何に属するかを余り重要視しない。
何処の“群れ”の出身かどうか、そして何より“己が何を為すか”だ。
男のその言葉に、娘――綾は自分の知識にある目の前の小さな蛇たちの種のことと共に、自分を助けた時の男の姿を思い出した。
アオダイショウとは、人と馴染みの深い、毒を持たない蛇だ。
樹上性の傾向の高い種だが、民家の庭先や河川敷、農地周辺などの人の住む地域や平地も地中も山地も関係なく適応する順応力と高い身体能力を持つ。
体長は全長一メートルから二メートルの日本でも最大級の大きさに成長する。
――綾を助けた蛇はその数倍も大きかった。
瞳孔は蛇と聞いてイメージされやすい縦形ではなく丸い黒褐色で、その体皮は黄みを帯びた暗褐色から青緑色、薄い鉄(暗い深緑)色などその色みは個体により様々であるが、総じて黄、黄緑、緑、青緑、青の系統色に属した色をしている。
幼蛇は格子状の褐色の斑紋が灰色の体皮に入っていて、瞳孔は同じく暗褐色だ。
――綾を助けた蛇の体皮の色は白。その瞳孔は赤。
白い体皮に赤い瞳は、稀少な突然変異のアルビノ種。
その色を持つ蛇は、白蛇――“神の遣い”と呼ばれている。
黙ったまま己を見つめる綾に居心地の悪さを覚えたのか、男は寝台のすぐそばにある窓の外へと視線を逸らした。
「……お前を助けたのは誰かと問われれば、我だ」
素っ気のない答えに、綾の瞳は揺れた。
綾に向ける横顔も、後ろに無造作に流された長い髪も全て、雪のように白く、その瞳は、綾を助けた白蛇と同じ、血の色を透かした色をしている。
けれど、己の目の前に立つ人の姿をした男の目の中には、微かに己を疎んじる気配が見てとれて、綾は戸惑った。
赤色の瞳も、尊大な口調に似合う低い落ち着いた声も、あの蛇と同じだ。
けれど、今の男の目に浮かぶのは面倒事を嫌う冷ややかさだけ。
男の語りかける声は事実を淡々と述べるのみで、気遣われた筈の言葉も、綾にはどこかそっけなく感じられた。
あの時、あの何もかもおかしな状況下で、驚いたようにこちらを見つめた丸い瞳や笑みを含んだ声に、面白いものを見つけたというような――むしろ自分を受け入れてくれた、とさえ綾は感じていた。 それなのに今はもう、声と色以外に同じ存在だという印象は重ならない。
綾は思わず縋るように男へと手を伸ばした。
「“落人”はすべからく保護すべし、と上位種たる者の義務のひとつとしてあるからな」
――男へ、後少しまで伸ばされた綾のその小さな手は、また静かに寝台の掛布へと下ろされた後に、ぎゅっと固く握りしめられた。
しかし、逸らされたままの視線はそれに気づかなかった。
「……そうですか。
どのような理由だとしても、あの時は助けて頂きありがとうございました。 感謝いたします」
「造作もない」
寝台の上で頭を深々と下げ礼をいう綾の方へと顔を向け、男は鷹揚に頷いた。
面を上げた綾は、視線の合った男へとちいさく笑んだ。
「申し遅れました。私は加々美綾と申します。 貴方のお名前は……?」
フラグクラッシュ。
この話まで通して見直したら(主に間違い修正的な意味で)エラい事になりました。 括弧が全く統一さr(ry
直しました…
更になおs(ry