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いまだいたらず。

 



 カヅチが応と返すと、開いた扉からカヅチの側近の一人が身体を滑り込ませた。



「失礼致します」


 今カヅチが空けたばかりの机上の空間は、新たに届いた書類とそれに付随する資料の束によって、再度占領されることとなった。


「長様、こちらとこちらと……こちらは急を要するものですので、今ご決済をお願い致します」


「……そうか」


 返事に一呼吸置いた後、それでも書類のひとつにすぐさま目を通しはじめたカヅチに、片付けられた書類の山へ視線をちらりと流した年若い側近は、申し訳無さそうに目を伏せた。


「我らが不甲斐ないばかりに、長様にはご負担をお掛けして申し訳ございませぬ」


「お前達は良くやっている。……それにお前たちが謝ることではあるまいよ」


 カヅチは確かに書類の山には少々うんざりしていたが、数年前と違い今は自身を含め、動かせる駒が少ないのだ。

 そしてそれは、自分や過去の側近たちのある意味怠慢の結果とも言えるもので、今傍にいる者たちに非や責があることではない、というのがカヅチの長としての認識だった。


「いいえ! 我らももっと早くそのための教えを請うべきだったのです…」


「……それを嘆き悔やんでどうする? 時間の無駄にしかならぬわ。 今更取り戻せはせぬ。

 その暇があるならば、手と頭を動かせ。 そうしてひとつでも多くを得て、今と先の我を助けるが最善と心得よ」


 そう静かに告げる。

 言いながらも手を止めずにいたカヅチは早急だという一つめに決済の印を押し指示を出して、またひとつ書類を手に取った。


 側近は、それでも力の足りぬ己を不甲斐なく思い唇を噛み締めたが、しかし長の言う通りである。 自分たちに出来ることが少ないなら、一分一秒でも早く多くのことを得て、長の役に立てるよう努力するべきなのだ。

 出された指示を頭に叩き込み、必要事項は書類へと書き込む。 そうして無事決済を経た早急の書類を全て抱えた側近は、深く一礼して退出した。




 元々この“白の群れ”は、カヅチを頂点とした絶対君主制とでも言うべき体制で動かされている。

 群れに関する全ては長であるカヅチの決済を経てから運営される為、掛かる負担は元からして大きい。

 しかし、数年前まではそれを支えられるだけの老練な古参の側近たちがカヅチの周囲を固めていたので、膨大な書類もその殆どが決済に上がって来る頃には報告書の目通しだけで、後は押印すれば良い状態で届いていた。


 だが寄る年波には勝てなかったのか、その側近たちがまるで雪崩を打つかのように次々と病いや老いで引退し、まだ教育途中であったその部下たちが繰り上がって代替わりしたが、古参の者に比べれば及ぶべくもない。

 見識や経験は、ひたすら重ねて得ていくしかないものだ。

 未だ若輩と言ってもいい今の側近たちでは、それらが狭く浅いために長の決断が必要な案件か長への報告と決済のみで良いかの判断にも不安が残る。

 そのため、カヅチが認めるまでは決済書類は全て資料その他を揃えての提出となった。


 そうして数年、みな側近に選ばれるほど優秀で勤勉であるとはいえ、書類を全て任せるにはいまだ至らず、カヅチが留守にすれば書類の山が形成されるという訳であった。


「だがまあ、辛抱も後もう少しよの…」


 気を利かせたのだろう側近からの指示であの後すぐに給仕が煎れにきた茶を啜りながら、カヅチはひとりごちた。 




 

“白の群れ”の事情。



昨日上げるつもりが寝落ちした上に、投稿半日後に説明不足を追記&改稿しましたorz

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