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その優しい声に、

 





 自分は幸運だったのだと、綾は知っていた。


 何しろ、異世界に落ちてすぐに拾われ、助けられたのだから。

 土地柄も人種も慣習も何もかも分からない、そもそも世界さえ違う場所で今も彷徨っていたかも知れないことや、何より空から地面へ向かって落ちていたことを考えれば、生きていたかどうかも分からない。


 それを有り難く思いこそすれ、恨めしく思うことなど礼儀知らずも甚だしいだろうと、そう思うのに――自分を助けてくれた時のカヅチと、今のカヅチとの落差に、綾は落胆を抑えきれない。

 助けられたときのあの声音が、忘れられなかった。


 “では娘。少々手荒なことになるが生かしてやる。…目を閉じろ”


 これは夢だと思っていたのもあった。 けれどその優しい声に疑うことなど何もなかったから、綾は素直に目を閉じた。

 なのに次に目を開けてみれば、カヅチの様子はすっかり豹変していた。



 “落人はすべからく保護すべし、と上位種たる者の義務のひとつとしてあるからな”



 上位種として当然すべきことだから、義務だから仕方がない、そう言わんばかりの台詞と声。

 綾の中でなぜ、どうしてと疑問が渦巻いたが、カヅチの冷えきった態度に、それを表に出すことは出来なかった。


「あの方は私が……ご自分やこの群れに関わるのをお望みではないのね、きっと……」


 “白の群れ”のことを極力教えられないことも、己に関わる群れの者が、こちらを気遣う態度を微かに見せつつも余所余所しい態度を崩さないことも、そんな全ての微かな違和感を、そう言うことなのだと考えれば綾の中でしっくりと辻褄が合う。


「それが分かっていて、残りたいなどと……我が侭は言えないわ」


 綾はこの群れで、何か仕事や役に立てることを見つけたいと足掻いていたが、それを諦めることを、とうとう決心した。

 父方の祖父に良く言い聞かされていた言葉を思い出す。

(な)


 “人は人ので出来ることしか出来ぬもの。

 それを真摯にすことを努め続けて初めて道が拓けるものなのだよ”



「保護して下さる先が、どのようなところだとしても、出来ることをするしかありませんわ」


 綾は気持ちを切り替えようと、この世界の歴史の載った書物を手に取った。

 しかし、今日に限って綾の気分はそうそう浮上はしないようで、書物の文字も視線が上滑りしていくだけで、少しも頭に入ってこない。

 祖父母から貰った腕時計を見れば、思ったよりも時間が経っていない。

 綾の口から溜め息が零れた。 ……自分の集中出来ない理由は分かっている。

 懸念事項であった先々のことに気持ちの上で踏ん切りをつけたことによって、毎日無理矢理押し込めていた思いが、顔を出している。


「……っ馬鹿ね、考えてもしようのないことよ」


 心臓からせり上がってくる何かを、息を詰めて消そうとする。けれども、消えない。


「っ、嫌よ」


 考えたくない。 そう思ってももう遅い。

 綾は胸元を、ぎゅっと皺になるほど握りしめた。



 この屋敷での自分の立ち位置も、カヅチのことも、これから先のことも、思えば確かに綾の心は乱れる。

 けれど、何より綾の胸を張り裂けそうに辛く痛ませるのは――大事な家族や友人たちともう二度と会えないという現実だった。





 

綾が諦めました。…当たり前ですね。



そして珍しく連投。


綾を掘り下げたら、自分の予定していた以上に恋愛要素が強くなりそうです、が…もの凄く困っていますハハハハ…

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