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花の種たち その気持ち

第二章花の種



 俺たちが朝月との戦闘を終えて一週間。THE BLOOMING GARDEN

は特に活動もせずに大人しくしていた。

 理由は簡単。六人幹部会である俺たちブルームシードはずっと話し合いを

していたからだ。

「何とかして朝月に俺たちが生きていると信じてもらわねば・・・」

「そうだね~。でもこのままじゃ・・・」

「絶対に信じないね。アサの性格からして」

「海深の言うとおりだ。今のアサの性格がどんなもんか定かじゃないが

たぶん信じないだろ」

「うぅぅう・・・」

「・・・・・・・」

 こんな感じでこの一週間は過ぎてきたのだ。

 ちなみに今は朝の七時。夜通し皆が唸っていたのは言うまでもない。

 それだけ皆にとって朝月は大事な存在なのだ。

 自分たちの四肢と心臓のコピーを渡すほどに。

 だがそろそろマズい状況だ。

「おいお前ら。いい加減マズいだろ」

「「ん?」」

 五人――影奈以外、全員同じタイミングで「何言ってるのこの人?」

みたいな視線を向けてきやがった。

 しかし一応保護者的立場の俺としてはこれ以上この状況を続けさせるわけ

にはいかない。なぜなら――

「一週間も学校を無断欠席しやがって。いい加減“風邪の家族内感染で欠席

します”も限界だ。そろそろ学校いけ」

「「えー・・・」」

 五人――影奈以外、全員同じタイミングで口を三角形に歪めやがった。

「えーじゃねぇ。お前らももう高校生なんだ。あんまり休みすぎると進級

できなくなるぞ」

 渋々といった感じでノソノソと動き始める。

「夜月さんだって学校行かなくていいの?」

 海深が聞いてくる。自分たちだけ学校に行けと言われたのが気に入らなかった

のだろ。

「俺は大学生だから遅くていいんだよ」

 不公平だー、と言う海深の叫びを無視して家から叩き出した。

 さて、俺はまだ時間がある。何をしようか。

 朝月のことについて考えるのは飽きた。あいつらが帰ってくれば嫌でも再開

するんだろうからそれまでは別のことをしていたい。

 早めに大学に行くのも悪くは無いか。

 大学は私服で大丈夫だ。あいつらみたいに暑苦しい制服に着替える必要がない。

その分授業は難しいし時間も長いが。おまけに俺は化学専攻だからな。頭を使う。

 まぁ何事もなく終わるだろうが。



本当に何事もなく終わりやがった。

大学の方で何かあれば少しは気が紛れていい案でも浮かぶかと思いきや、

本当に何も起こらずに終わりやがった。

 少しくらい何かあってもいいだろう。事件も問題もいつもなら必ずと言って

いいほど毎日何かあるはずなのに。

 こういう日に限って何もないんだ。

 今日はバイトもないし、後はあいつらが帰ってくるのを待つだけになる。

あいつらだって本当なら今すぐにでも朝月に会いにいきたいはずだ。

飛びついて抱きついて叩いて笑って。影奈だって表には決して出さないが

同じ思いなはずだ。

それでも朝月は俺たちの敵だ。どうしてあいつが死兆星にいるのか。それは

この前の戦闘で明らかになった。BGの一人、アッシュがセブンスカラー・

フィナーレを止めるために“氷結結界”を使った。それに巻き込まれた陽はその

場で――朝月の目の前で命を落とした。

 だからあいつはどんなに説得してもBGには入らない。そして恐らく、俺たち

も認めない。

 あいつが今まで戦ってきたのは陽を殺したBGに対する憎しみと俺たち

を殺した(と思っていた)死兆星に対する恨みからだ。

 もし俺たちが生きていることを認めたら死兆星に対する恨みの殆どが

潰えてしまう。そうなったら元々気弱なあいつは死兆星を潰せなくなる。

 そして俺たちを認めればあいつはBGを攻撃できなくなる。今までの

俺の生きてきた道を全て否定することになるから。同時に陽を殺した

BGに復讐できなくなる。

 百害あって一利無し、だ。

 もし俺の推測以外に理由があるなら別だが。

 俺はどうあっても死兆星に協力することはできない。朝月にあんな

大怪我を負わせて、両手足と心臓を他人のものに頼らないといけなく

なったのは死兆星の起こしたセブンスカラー・フィナーレのせいだ。

 だから俺たちは死兆星を認めるわけにはいかない。表では死人を管理

しようとする死兆星のやり方は人権を蔑ろにしているとか言っているが

俺の行動目的は至って個人的な理由だ。しっかりした大きな目的もあるが。

 簡単に言ってしまえば、朝月を傷つけたから許さない、って感じ。

 随分と自己中心的な考えだ。それでも“あの人”は良いって言って

くれたんだ。“あの人”のお陰で朝月はああして生きていられるし

桜子たちだって五体満足なんだ。

 今の俺と朝月は、どう足掻いても相容れない存在なのか。

 かたんっと何かが倒れる音がした。

「・・・・?」

 そっちの方向を向くとテーブルの端、いつも桜子が座っている場所に

人形が倒れていた。

 フィギュアのようなものだろう。今セントラル全体で人気の開運グッズ

「多苦労くん」だ。

 どうして人気なのか分からないような陰気な表情だ。苦労しています感

を醸し出す人形が何故か売れているのだ。男には理解できない境地なのか?

 そして桜子も見事に囚われているわけだ。意外なのはセントラルの女性

は大半が一つは所持しているのに対して俺たちの間では桜子一人だけだ。

 倒れた人形を元に戻していると、今度は二階のほうから何かが崩れる

音がしてきた。

「次はなんだ?」

 音は雪女の部屋からのようだ。勝手に入るのは気が引けたがドアを

開けて入室する。

「・・・・」

 呆然とするしかない。しばらく見ない間に雪女の部屋がこんな状態

になっていたなんて。

 以前から散らかっていたが今は倍くらいに悪化している。漫画という

漫画が無造作に積み重ねられていて、そのうちの一角が雪崩のように

崩れていた。

 圧倒されるほどの量の漫画が雪崩を起こしている。今も余震的な何か

でそこかしこで小規模の雪崩が発生している。

 その本の殆どが、いわゆるBL本だったことは見なかったことにしよう。

―――次の休みの日、雪女が帰ってきたら強制的に掃除させよう。

 そう心に決めた。

 そして隣の部屋からは大音量の音が響いてきた。

「うわっ・・・・!」

 俺は耳を塞ぎながら隣の部屋―――桜子の部屋に入る。

そこには見ただけで十個はあると思われる目覚まし時計の山があった。

それが一斉に鳴り出たのだ。

「う、うるせぇ・・・!」

 大急ぎで全ての目覚ましを止める。

 桜子の部屋はわりかし片付いていた。この大量の目覚ましを除けば。

「ここも整頓させるか。特に目覚まし。もっと少なくさせよう」

 いつ間違いで鳴り出すか分かったもんじゃない。・・・・まさか俺が

大学に行ってる最中に鳴ったりしてないよな?

 ついでだから他の部屋も見ておくことにする。

 隣、海深の部屋。

 うむ。問題ない。しっかり整頓されている。この五人の中じゃ海深が

一番まともかもしれない。

 次に影奈の部屋。

 に行こうとしたらその隣から何かが割れる音がした。

「今度は何だよ・・・・」

 うんざりした気持ちでドアに手をかける。

 そこでふと思った。ガラスが割れたような音。侵入者の可能性は否定

できない。

 いつでも空間から刀を取り出せるよう俺のDU“刀騎士”を発動させ

てドアを開け放った。

 だがそこには誰もいなかった。代わりに落葉の机の上に写真立てが

落ちていた。

「音の原因はこれか・・・」

 写真立てを持って元あった場所であろう場所に戻そうとする。

 ふと目に入った写真の中には少し幼い皆と俺、朝月が写っていた。

 六年くらい前の写真。まだ平和で朝月が気弱で臆病だった頃。この

一年後にあの悲劇が起きた。

「こんな写真、まだ持ってたのか」

 思い出に耽りながら机の上段に写真立てを戻す。

 そして部屋を出た。隣の部屋へ戻る。

「最後、影奈の部屋か」

 実を言えばあまり入ったことはない。入ることを拒否したりはしない

が入ろうと思わない雰囲気がある。

 思い切ってドアを開ける。そこには雪女の部屋とはまた感じの違う

部屋だった。

「結局本の山かよ」

 そこは変わってなかった。だが漫画ばかりの雪女の部屋とは違って

純文学から専門書、どこの言葉かも分からないような異国の本まである。

 漫画など一切無い。大学生の俺が読んでも内容を理解できないような

数学の専門書なんかもあった。

 これが高校生の部屋か?本気で疑った。

 でも散らかってはいない。それほどまでに本が大事なのか、部屋中に

本棚が並べられていて狭い。

 他の部屋と同じ十畳の部屋なのに狭い。

 最後に俺の部屋。言っちゃ悪いが少なくとも桜子や雪女の部屋より

は片付いている自信がある。

「・・・・・」

 ごめんなさい。同レベルでした。

 こりゃ今度の休みはあいつらと一緒に片付けかな。



 休日の片付けを乗り越えてその日の夜中。

 俺たち六人幹部会・ブルームシードはとある場所に集まっていた。

 いつもTHE BLOOMING GARDENの地位の高い者が集まる場所。

 普通の連中まで呼んでいたらとてもじゃないがスペースが足らない。

 だから重要な人物だけが集まる会議だ。

 俺たち六人幹部会を含めてここには九人いる。

 俺、刀騎士。桜子、伽藍。海深、護鱗。落葉、心地。雪女、鏡。影奈、

銃有士。

 そして最大の矛であるザ・フェニックス。同じくアッシュ・ライク・

スノウ。

 THE BLOOMING GARDENの創立者、ザ・メイガス。

 この九人だ。

 戦闘能力だけなら死兆星の隊長格全員と同時にぶつかっても同等の

力を持つであろう人物たち。

「そうですか・・・・死兆星にあなたの弟さんが・・・」

「ええ。ですが朝月にも朝月なりの信念があっての行動のようで・・・

俺たちの言葉を受け付けませんでした」

「だから、間違っても殺すなんてことは・・・」

 海深が俺の続きを言いかけた時、ザ・メイガスは止めた。

「分かっています。私としても同志の弟さんを殺したくなんてありま

せん。そもそも私たちは相手を殺すために戦ってはいないのです」

 このBGの創設理念は“死人を危険物のように取り扱って管理、束縛

しようとする死兆星は死人の人権を蔑ろにしている“とかなんとか。

 だから死兆星と戦うことはあっても相手の死人を殺すようなことは

しない。

 名前に合わせているのか紺色のローブを着ているザ・メイガス。頭

にもハットを被っているため口元は見えるが目は見えない。五年前も

そんなような格好で現れたため素顔は知らない。

 その横にいるアッシュ・ライク・スノウが意外なことを言った。

「あ、あの・・・その弟さんって夜月さんに似てますか?黒い髪の毛を

前に垂らして赤っぽい瞳の色してる・・・・」

「ああ~・・・左手吊ってた?」

「あ、はい」

「ならそうだね。髪型も似てるけど瞳の色も似てるでしょ?」

 朝月の瞳も夜月の瞳も似たような赤色だった。髪型も似ている。朝月

は前髪を垂らして眼に少しかかる程度だが、夜月は片方だけ伸ばしていて

右目が完全に隠れている。

「っていうか、何でスノウが朝月のこと知ってんの?」

 落葉が何の気なしに質問する。アッシュは若干慌てた様子で答えた。

「あ、あの・・・色々ありまして・・・」

「ふ~ん・・・」

 白いワンピースに地面にまで届きそうな長い髪。右目から左頬にかけて

まで似つかわしくない刺青がある。棘のような模様の青い刺青が右目から

右頬にかけてと両鎖骨、両足にある。

 薄幸・・・とでも言えばいいのだろうか。そんな危うさがこの少女にはある。

「でも、その朝月って弟君、隊長なんでしょ?だったら戦う運命だと思う

んだけど」

 そんな軽い口調で会話に割って入ったのは左手でライターを弄っている

ザ・フェニックス。

 そんな彼女はアッシュとは違って全身が真っ黒だった。

 パンク系なのか、黒い服に所々にピンク色の星が模様として入っている。

 特徴的なのがその右腕だ。長袖の上から黒く細いベルトを何重にも巻いて

いる。関節部分は巻いてないようだが殆ど曲がらないんじゃないだろうか。

おまけに手には黒い革の手袋を嵌めている。これで右腕全体が肩から指先

まで真っ黒だ。対照的に左腕は肩から袖をばっさり切り落としてノースリーブ

状態だ。濃い青色のデニムパンツを穿いていて両足共に足の付け根、太腿の

辺りからばっさりと切っている。既存の服を自分でアレンジしたものだろうか。

 シルバーアクセサリーも沢山つけている。見た目はかなりパンキッシュな

少女だ。

 だが見た目に反して性格は穏やかなものだ。決してどっかその辺の不良少女

みたいな性格ではない。

「でも戦ってみたいなぁ。夜月さんの弟君ならさぞかし捻くれてるだろうからさ」

「どういう意味だよ」

「そのまんまの意味」

思えばザ・フェニックスはこういう奴だった。基礎は優しい性格をしていながら

とある事件がきっかけで少し狂ってしまった。夜空を極端に怖がり、自らを正当化

するための敵を求めるようになったらしい。

 だからしょうがないことなのだが、こいつと朝月は戦わせたくないな。

 まともにぶつかれば朝月が死んでしまう。

 それほどまでにこいつは危険なのだ。

「ともあれ敵の力の一部が分かっただけでもいいことです。今日は解散にしましょう。

皆さんも明日は学校があるのでしょう?」

 そう言ってザ・メイガスは立ち上がった。続いてザ・フェニックスとアッシュ

も続く。

 俺たちも立ち上がった。

 今更だが俺は三人の内アッシュの本名以外知らない。

 ザ・メイガスにいたっては素顔すら知らない有様。

 もしかして俺って、あんまり信用されてないのだろうか?

「ワタシここに泊まる。外出たくない」

「心得ています。一緒に寝ましょうか」

「いやだ♪」

 そんなやりとりをしながらザ・メイガスとザ・フェニックスは別の部屋へ去った。

「私も・・・これで」

 アッシュもこっそりと去っていった。

「俺たちも帰るか」

「そうですね」

 海深の同意を得て俺たちは自分の家へと帰った。




 帰り道。もう夜中の一時だ。人通りはまばらで昼間に比べれば圧倒的に

少ない。

 今は俺を含めた六人しか歩いているものはいない。

 不意に、話し声が聞こえてきた。

「もうこんな時間だぜ・・・・」

「それは朝月君が電柱一つ切り倒すからでしょう」

「そうそう。私たちは巻き添えだよ」

「俺のせいかよ・・・・」

 そんな会話が聞こえてくる。続いて前方の角から三人の少年少女が

学生服のままで歩いていた。

 普通ならこんな時間に学生服の子供が歩いているはずはない。可能性

としては不良か何か特別な事情があった場合。

 しかし俺も他の五人も知っていた。こちらに気付かず前方を横切って

いく三人の姿を。

「朝月・・・・」

 俺は無意識に呟いていた。直に三人の姿は見えなくなった。

 朝月は楽しそうだった。溜息を吐いて疲れた感じではあったけれど。

それでも今の生活が嫌だというイメージは受けなかった。

 俺たちはもしかしたら、朝月から幸せを奪おうとしていたのかも

しれない。

 朝月をBGに引き込むということは今の仲間から引き離すということだ。

それは一度仲間と引き離された朝月にとってこの上ない苦痛ではないだ

ろうか。

 朝月の中では俺たちはもう死んだ存在だ。そんな存在がいきなり現れて

「生きてました」とか言って無理矢理仲間から引き剥がすのか?

 そんな横暴が許されるはずもない。自分の意思だけで朝月の気持ちを

完全に無視してるじゃないか。

 確かに、朝月に否定されても仕方ないな。

 苦笑を残しながら朝月たちとは反対の道を進む。

 桜子も海深も落葉も雪女も影奈も、全員無言で付いてくる。

 皆も同じ考えに至ったのだろうか。自分たちのしたことが朝月の気持ち

を踏み躙っていたことに。

 そして、朝月が俺たちに刃を向ける限り、俺たちも朝月に刃を向けな

ければならないことに。

 俺たちが急に態度を変えれば朝月がBGに引き込まれたと考える者も

少なからず出てくるだろう。今のままでもそういう考えを持った者は確実

に存在する。だから、この前の戦闘の時同様、俺たちは態度を変えずに

朝月に相対しなければならない。

 それが朝月を苦しめるとしても、朝月を想うならこそ、そうしなければ

ならないのだ。

 自分の気持ちなぞ捨ててしまえ。

 過去にも既に、朝月を、朝月の想いを見捨てているのだから。


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