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DEATH UNIT

第二十二章 DEATH UNIT



僕は幸せだった。

 理想的とも言える恋人と巡り合って、青春を謳歌していたと断言できる。

「次はどこへ行こうか?」

「そうだね・・・・・よし! 朝月の家に行こうっ!」

「・・・・・へっ!?」

「連れて行ってよ。朝月の家」

 ちょっと遅い時間までデートをして、ちょっと大人になった気分。付き合い

だしてちょうど一ヶ月程度。何度もデートを重ねて二人の仲は急進行急接近。

 楽しかったデートの帰り道。周囲はもう暗くて夕食の時間を過ぎた辺り。少

々肌寒くなってきた季節だから夕焼けなんて二~三時間前に沈んで見えなくな

ってしまった。

 かれこれ今日はかなり長い時間一緒にいる。今まででも一番長いデート時間

じゃないだろうか。

 それにしてもいきなり僕の家だなんて・・・・・。

「いいじゃない。まだ朝月のお父さんとかお母さんにも挨拶してないんだよ?」

「あ、挨拶っ!?」

 挨拶っていうとあれだろうか?「息子さんを私にくださいっ!」的な?

「あはははっ! 変な意味に捉えないでよ、普通に彼女です宣言するだけだっ

てばっ!」

 僕の家はまぁ、なんというか、ちょっと町のはずれのほうにある。古い出で

立ちの家だからか山の麓にあるのだ。

 だから夜遅くに外出したり帰宅したりは基本、しない。暗くて足元がよく見

えなかったりするからだ。

 今日はちょっと調子に乗って遅くまで遊びすぎたな、と反省。

 家にさえ着いてしまえば安心できる。これでも僕の父親はいろんな武術やら

なにやらを経験している人でそこらへんのチンピラ相手なら三十人くらいいて

も問題ないそうな。

 でも僕じゃそうはいかないのが現実。

 この暗さじゃ最悪、陽には泊まってもらうことも視野に入れなければならな

いかもしれない。

 情けないことだが変質者が出たとき、僕一人で対処できる自信はないからね。

「明日も休みでよかった。泊まっても問題ないかな?」

「うん。この夜道を帰るくらいなら泊まって―――――」

 一瞬、何が起きたのか全く理解が追いつかなかった。

 後頭部辺りに激痛が走った。何か硬いもので殴られたような痛みが僕を襲っ

て、地面に倒れたことを別の痛みが認識させる。

「あ、朝つ―――――もがっ!?」

 陽の僕を呼ぶ声が聞こえた気もしたが、それもすぐになくなる。

「むーっ! んむーーーッ!」

 何か苦しそうな声も聞こえてくる。しかし意識が遠のいてしまってそれが何

か判断するだけの力もなかった。

 僕の身体が運ばれていく。冷たかった土の感触がなくなって、代わりに手首

や足首を何かが縛る。

 そこで意識は途切れた。

 

 

「ぅ・・・・あぁ・・・・・あっ」

 目が覚めたきっかけはなんだったか。たぶんそれは苦しそうな恋人の呻き声

だったんじゃないか。

「痛・・・・い。何だ? ここ―――――」

 それは小屋のようなもの。木造でボロボロで、いかにも放置してありました

感が漂っている。かび臭い。埃っぽい。

 それでも電気が通っているのが不思議だ。

 小屋の中にはしっかりと白熱電球が取り付けられていて視界は良好。狭いか

ら部屋の隅まで照らしてくれている。

 

 そこで僕はみた。

 何人もの見知らぬ男に服を脱がされて輪姦されている恋人の姿を。


「陽――――ッ」

 急いで助けに入ろうとしたが腕と足が動かない。何か紐みたいなものでしっ

かりと縛られていた。

 無理矢理引き千切ろうとしたけれど、非力な僕ではどうしようもなかった。

「おや? 彼氏さんが起きたみたいだな」

「へぅ・・・・!? う、嘘・・・・・っ!」

 一瞬だけこっちを見た陽の顔は苦しさと疲労に歪みきっていた。その身体の

至る場所には白い何か、液体のようなものがこびりついている。

 それが何か。そんなの、この状況を見れば一目瞭然だった。

「お前ら・・・・何してんだッ!」

 生まれて初めてなんじゃないかってくらい大声を張り上げて、小屋全体が揺

れるくらい怒鳴った。

 威嚇したつもりだった。それでも五人程度の男たちは怯みもしなかった。

「うっせぇよガキ。おとなしくしてやがれ」

 近寄ってきた全裸の男に頭を踏まれる。顔を上げて怒鳴った直後だったから

顎が開いたままになっていた。そんなときに踏まれたものだから歯と歯がかち

あってすごく痛かった。舌を噛まなかったのは幸いだった。

 踏まれた場所がちょうど殴られた場所だったのかものすごく痛い。

「見てわかんねぇか? お前の彼女を・・・・強姦してんだよ」

「そんなの――――」

 見ればわかる。

 こんな風に言い合いしている今も陽は三人の男に嬲られている。本当はそん

なことさせたくなかったが、今の僕は動けない。手足が使えない。

「おとなしく見てろよ。あんな人目につかなそうな道に放置してきてやっても

良かったんだぜぇ? 離れ離れなんて嫌だろうからこうして一緒に連れてきて

やったんだ。感謝しろよぉ?」

 そんなの嘘だ。直感的にそう思ったけれど、それはすぐに確信に変わった。

 男の顔は歪んでいた。笑みではなく、嘲笑の笑み。嘲りだ。

 この男は絶対に僕を苦しませるためにここに連れてきた。僕が大した力を持

っていないのを見越してここに連れてきたんだ。

 陽が輪姦される様を見せ付けて苦しませるために。

「絶対にゆるさ―――――」

 許さない。そう言おうと思った口はふさがれた。

 いや、閉じることができなかった。

 男の持ったナイフが僕の口の中に侵入してきたからだ。

「ゆるさ・・・・なんだって? おら、言ってみろよ」

 言えるわけない。言うために口を動かせばたちまち口内は血みどろだ。

「ぁ・・・も、もうやめ・・・・くるし・・・・ぃ」

 とても喘ぎ声には聞こえない苦しそうな声。そんな陽の声が聞いていられな

くて耳を塞ごうとした。手が使えないからそれもできなかった。見ていられな

くて目を閉じようとした。耳が鋭敏になって余計耳を塞ぎたくなった。

 無力感を味合わされて目の前の現実を否定したかった。時間を巻き戻したか

った。力がほしかった。

 しかし現実は漫画みたいにはできていない。

「おい、あと何回くらい回す?」

「二回か三回だべよ」

 そんなやり取りが交わされても意味が半分も理解できない。回すとはどうい

う意味を持つのか。痛みと絶望で混乱しきった僕の頭じゃ理解できなかった。

 もう僕には動く気力もなにも無かった。力のない自分には何もできないと

わかりきっていたから。諦めた。

 こんなことになるなら、僕を連れて来ないでくれたらよかった。

 そんなことを思ってしまい、こんな状況だというのに恋人の全裸という姿に

性的興奮を覚えてしまった自分が殺したいほど嫌になった。




 それからどれくらいの間、絶望の世界は続いたのだろう。

 時間の感覚なんて曖昧だ。そもそも殴られて気を失って、それからどの程度

時間が経ってから起きたのかさえも分からない。時間の感覚なってないと言っ

てよかった。

 途中何度か見張りの男が交代して、途中の男の気晴らしに傷口を何度か踏ま

れた。そのときの痛みで気絶してた時間もあるから余計に分からない。

 それでもこれだけは分かる。夜は明けてない。この小屋がどこにあるのかは

知らないが、こんなことをする連中だ。決して人目につく場所にはないだろう。

夜が明けてない今、助けなど来ない。

 唯一助けられる人間である僕は、疲弊しきっていた。肉体的にも、精神的に

も。

 恋人が強姦されているシーンを見続けるなんて、これ以上の拷問があるだろ

うか。これならまだ肉体的な拷問のほうがマシに思えてくる。

 見知らぬ男の視線が僕もまだ見たことのない場所に向かう度、男の舌が僕も

まだしたことの無い場所を舐める度、男の指がまだ僕も触ったことのない場所

を撫でる度、僕は発狂しそうになる。

 何度叫んだか。何度暴れたか。だがその度に意識を飛ばされるほどの痛みを

与えられて、今ではもう何もできそうにない。

 そうだ。大丈夫だ。これが全部終われば解放される。元通りになる。無かっ

たことにして忘れ去ってしまえばいい。これからは夜道を歩かないことを誓っ

て忘れてしまえばいい。こいつらだって気が済めば去っていくだろう。もし拘

束されたままだったとしても見張りがいなければどうってことない。どんなに

醜くっても無様でも逃げ出せる。こんな傷だって、心の傷だって時間が全部解

決してくれる。病院に通ったっていい。引っ越したっていい。臆病だって言わ

れてもいい。逃げたと嘲笑われてもいい。僕たちが逃げたせいで別の誰かが襲

われたって構わない。とにかくここから逃げたい。逃がしたい。痛い。助けた

い。痛い。助けて。痛い。止めろ。痛い。やめてくれ。痛い。陽はもう意識が

飛びかけてるじゃないか。痛い。無理矢理起こす必要なんてないだろ。心が。

身体が。痛い。

 自分の無力が、痛い。

 一人じゃ何もできない自分の存在そのものが、僕に激痛を与え続けている。

「そろそろ終わったか?」

「そうだな。全員三回くらい回したし、もういいだろ」

 男たちはそう言って陽から離れた。

白い液体まみれになった陽は力なくその場に倒れて荒く息を繰り返している。

よく見れば所々アザができている。余計、男たちが憎くなった。

 目は虚ろで僕の方向を見ていても、僕を映してはいなかった。否、何も映っ

てはいなかった。生きているのかさえ疑問に思うほど。余計、男たちが憎くな

った。

「さて、そろそろ仕上げといくかぁ」

 最初、僕にナイフを向けた男が陽へと近づいていく。その手に光っているの

は銀色のナイフ。僕の口の中へ入れられたあのナイフだ。

 堪らなく僕は叫んだ。

「待て・・・・何する気だッ!」

 その声に男は振り返る。一度見たら五十回くらい夢に出てきそうなほど醜悪

な笑みを表情に刻み付けて男は言った。

「だってよぉ、俺たち顔見られてんだぜ? このまま帰したら絶対通報されち

まうだろうよぉ?」

 ナイフを逆手に持って振り上げる。陽は状況が理解できていないのか、それ

とも見えていないのか、避ける素振りも見せない。

「待て・・・待ってくれ!」

 男の手が止まる。好機と思って僕は叫び続けた。

「誰にも言わないし通報もしないからやめてくれ殺さないでくれ! このまま

帰してくれ陽の姿は俺がやったってことにするから殺さないでくれ頼むッ!」

 聞いてくれるなんて思っていなかった。それでも叫ばなければ正気を保って

なんていられなかったし、このままじゃ陽が殺されてしまう。

 必死に叫べば、お願いすれば通じるかもしれない。そんな空気よりも透明で

不鮮明な希望を抱いて。

「そぉかそうか。誰にも言わないでいてくれるか。黙っててくれるか。通報も

しないでいてくれるんだな?」

「あ、ああ!」

 通じた、と思った。どんなに醜悪な顔をしている人間でも誠心誠意込めれば

通じるんだと思った。

 こんな絶望を見せた世界で願いが叶ったと思った。

「ならここで誓え」

「誓う! 誓うからっ!」

「ようし。殺さないでおいてやる」

 通じたと思った。

 だが―――――。

「お前はな」

「――――――え?」

 通じてなんて、いなかった。

「お前はそう誓っただろ? でもこの女は誓っちゃいねぇ。誓いもできねぇ奴

を生かしたまま帰せるかよ」

「ちげぇねぇ! ははっははははっははッ」

 そう言って、そんな馬鹿げたことを言って男はナイフを振り下ろした。

 誓うことすらできないほど衰弱させたのは貴様等自身だろうに。

「やめ―――――」

 言葉は――――届かなかった。

 否、一度たりとも届いたことなどなかった。

 白い液体の次は鮮血の液体。そのギャップが目に痛くて、現実を受け止めき

れなくて目を閉じた。

 その背に突き立っているナイフの柄から目を背けたかったのかもしれない。

「――――――ぁ」

 そんなか細い声が聞こえて、それが陽の声だとしって目を開ける。

 目の前には白い液体と流れ出る血液に塗れた陽が居た。僕のほうへ目を向け

て、その瞳にしっかり僕を映して、手だけで這いずってくる。

 そんな陽に手を伸ばそうとして、手は動かなかった。

 紐を千切ろうと努力した。こんなときくらい、火事場の馬鹿力くらい出ても

いいじゃないかと思ったが、僕の力をいつも通り貧弱なままだった。

 陽が手を伸ばして僕の頬に触れた。その手は二つの液体でぬめっていた。

「ごめ・・・・・・・ん・・・・こんな・・・・・っ」

 辛うじてそれだけの言葉を吐き出して、嗚咽に変わってしまう。嗚咽にさえ

なってなかった。涙など、とうに流しつくした。

「しあ・・・・・わせに・・・・・なっ―――――――」

 陽の言葉はそれだけだった。

「・・・・おい? 陽―――――ひなた・・・・・!」

 どんなに叫んでも、最初と同じくらいの大声で叫んでも陽は何の反応も示さ

ない。聞こえているはずなのに、反応しない。

「しあわせになって・・・・だってよ! とんだ茶番だぜ!」

 男共の笑い声が聞こえる。そんなときになってようやく、陽の死を悟った。

 自分の最愛の恋人は死んだのだ。

 見知らぬ五人の男に強姦されて、意識が無くなるまで嬲られて。

 そして―――――ころサレタ。

「誓うっていっても信用ならねぇからなぁ。てめぇも殺すことにするわ」

 そんな男の声が聞こえて、利き手の左手へ激痛が走る。痛いというよりも熱

い。怪我が熱く感じるというのは本当の話だったようだ。

 嬲るつもりなのだろう。性欲を満たした後は趣味か。本当に救えない。

 痛みに悲鳴さえ上げず僕は這いずって陽へ近寄る。何とか見れた顔は僕の見

慣れた陽の顔とはかけ離れるくらい色々なものに歪んでいて。


 近寄ったその愛しい顔が――――ひどく生臭かった。


 そのことに嫌悪を抱いた自分を知って、自分を嫌悪した。


 ようやく左手の痛みを自覚して、悲鳴を上げた。

「うぅあああああああああああああああああッ!」

「へへへ。いい叫びだぜ」

 そんな男の声が聞こえて何度も何度も同じような場所を刺す。左手はあっと

いう間に感覚が失われてしまった。

 だがそんなことよりも、僕は叫んでいた。

 世界全てに向けて。

「あああああああああああああああああああッ!」

 男たちの声を掻き消すように叫んで、この小屋が崩れてしまえばいい。

 そうすれば全部終わってくれる。

「うぅぅううううううううぁあああああああ」

「ちっ。いい加減うるせぇな。そろそろ殺すか」

 僕に男たちのそんな言葉は聞こえていなくて。

 痛みの叫びはいつしか悲しみの叫びへ変わっていた。

「あああぁ・・・・・・ッ・・・・・」

 声は枯れ、喉が渇いた。身体が熱い。

 これだけ悲しんで、辛いのに。悲しすぎて涙さえ出やしない。

 僕が憎むのは何だろう。

 この男たち?

 運命?

 神様?

 否。世界そのもの。

「あ・・・・っ・・・・カハッ・・・・!」

 嫌な咳が出た。左腕の感覚がないのにいまさら変な咳が出たからといって何

だというのか。全くくだらない。

「あーあーもう殺す」

 恐怖を誘っているつもりなのか殺すと言っているわりには一向にナイフを刺

す気配がない。今顔を見上げればおそらく悦楽の笑みが返ってくることだろう。

 奴らの顔など、一度たりとも見たくない。

 悲しみの叫びはいつしか怒りの嗤いへ変わっていた。

「カハ・・・ッ・・・キひヒヒヒヒヒひッ!」

 声高らかに笑ってやったつもりだったのだが、枯れ果てた喉ではこんな気味

悪い笑い声しか出せなかった。

 ブツッ・・・・!

 そんなとき、手と足を束縛していた紐の感触が消えて自由になる。

 立ち上がって、痛いから痒いに変わった後頭部の打撲痕を掻き毟る。

「キひヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒひぃッ!」

 明らかに異常と取れる嗤い声だと自分でも思う。頭の痒みは消えなくて、で

も引っ掻き続けたら痛みが再発してきて痛かった。

 左手の痛みなんか無い。まるで硬質化したみたいに感覚が無い。指とか肘と

か動かすたびにズズズゥ・・・・ッ・・・! って鳴る。

 それが変に面白くって左手を振り回していた。

「な、なんだよお前・・・・・」

「ふ、普通じゃねぇ!」

「狂ったか・・・・・?」

 そんな声が聞こえる。そこで振り向いてやって、思い切り睨んでやった。

「ひ・・・・・っ」

「ひぃ!」

 情けない声だ。それが今まで殺すとか豪語していた奴の姿かよ。

「な、なんだこいつ・・・・・」

「普通どころか・・・・人間じゃねぇ!」

 その時の僕はどんな顔をしていたのか。

 きっとものすごく怒った顔しているか、凶悪な笑みに歪んでいるかのどちら

かなのだろう。

 自分の左手が、自分のものでなくなったような感じがして、でも、その左手

があれば何でもできる気がした。

 だから僕は手を振り上げて、奴らを殺すための形を想像した。

 それは―――――剣。いや、刀かな?

「な、なな、なんだよそれ! そんなんありかよぉ!」

「や、やめ―――――」

 そんな命乞いみたいな声が聞こえる。でも―――――。


「残念だったな。俺はお前らみたいな人種の言葉を理解できるほど博識じゃあ

ねぇんだよ」


 本当に――――連中の言っている意味が理解できなかったんだから仕方ない。

 だって、あんな連中から命乞いなんて聞こえるわけない。

 怨まれて、憎まれて、怨嗟をぶつけられながら殺されることくらい覚悟して

いたはずなんだから。

 もしそんな覚悟も無くこんな行為をしていたのだとしたら、それはただの馬

鹿なんだ。

 いや、馬と鹿に失礼か。

 だから、奴らの希望とか願いとか、そんなものの一切を踏み潰すように言っ

てやったんだ。

「ぎゃ・・・・・ッ!」

「うげ・・・・っ」

「ぎぃ・・・・ッ」

「うべ・・・・っ」

「げ・・・・」

 五人分の悲鳴が聞こえて、奴らはもう死んだ。

 臭い血溜まりの中、さっきまでの嗤い声さえも忘れて佇む。

 五人の強姦魔は死んで、陽も死んで、俺だけが生き残った。

 本当は奴らにはもっと残酷な死を与えてやりたかったのだけれど、正直、か

なり面倒だった。奴らごときに手間をかけるのも間違っている気がしてただ斬

り殺して終わってしまった。

 後から後悔。ああ、もっとじっくり殺せばよかったな・・・・・・。

 ふと、奴らの死体を見る。

 無惨に切り裂かれて細切れと称されても仕方ないくらいバラバラにされた五

人。当然、流れ出た血液の量は半端じゃなく多い。

 白熱電球が照らし出す中、その血の池に俺の姿が映し出された。


 その姿は確かに人間ではなく――――化け物。


 感覚の無かった左腕は肌色ともなんとも言えない色をしたクリスタルのよう

な塊になって、それが腕の形を成していた。

 だが、人間のそれと違う場所は―――指。

 五指がそのまま刀になったかと思うほど鋭く伸びて、腕と同じ色をした刀に

なっていた。刀身にはべったりと血液やら脳漿やら内臓やらが付着している。

 そして俺の目も腕と同じ色をしたクリスタルに変わっていた。


 どうして今なのだろうか。

 どうしてもっと早くてはいけなかったのだろうか。

 陽が死ぬ前に、助けたいと思ったときにこの力が目覚めてくれれば。

 それで全部か解決したのに・・・・・・。


 そんな、五人もの数を殺したというのに場違いなことを考えた俺は、左腕に

宿った不思議な力を憎んで、同時に激しく感謝した。


 ああ、喉が渇く。叫びすぎたせいかな・・・・・。

 俺は足元に溜まっていた鉄臭い血を啜って、その場の渇きを潤した―――。





ちょっと描写がアレかもしれませんね。でもこれくらいでちょうどいいと思ってます。

左腕に宿ったのはデミウルゴス・ルールブック。どうしてそれが現れたのか。それは定かじゃありません。


でも確かに、あの時の彼には必要なものだったように思えます。


でも彼が望んだのは陽を助ける力ではなかった。彼が望み求めたのは、陽をあんな目に合わせた奴らへ対する、巨大な復讐心。


だからこそ、デミウルゴス・ルールブックは遅れてやってきたのかもしれません。

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