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原点回帰 

 目的も理由も失った場合、どう戦えばいいのだろう。

 DEATH UNITを消し去るという目的は失われた。

 戦う理由であった“仲間を護る”もDUがある限り達成できない。

 その二つが無くなったとき、彼は何を理由に戦えばいいのか。

 理由が無ければ朝月は戦えない。

 何しろ、恋人を――――日向陽を蘇生したいという気持ちは誰よりも理解で

きるのだから。

 理由も大義名分もなく、止められるはずがない―――――。

「・・・・掌れ。煉獄第五冠――――」

 ――――そう思っていた。

 別世界の常光朝月はそう思っていたのだ。

 この世界の様子を見続け、意識体を通して実感して、他人のことを知ったつ

もりになって高い場所から見下していた。

 それが今、常光朝月は地に伏し、この世界の朝月を見上げていた。

「シン・グリードッ!」

 罪・貪欲。

 不可視の正体不明な圧力が別世界の常光朝月を押し潰していた。

「がっ・・・・・!? なん・・・だ、これは・・・・っ!?」

 重力が一気に増したような圧力に負けて常光朝月は地に伏せる。無様、と称

されても仕方ないような姿だ。

「俺にはまだ一つ・・・・・戦う理由が残ってる・・・・」

 幽鬼のようにゆらりと立つ朝月の姿は先程までの、何かを助け護ろうとして

いた姿とは全く逆。

 何かを壊し消し去ろうとしている姿だった。

「お前が陽を生き返らせたいと思うのと同じくらい、俺も陽が好きだった」

 

[Penetration]


[Swrod Knight]


[Scale]


[Blaster]


 投げ上げられた針天牙槍は空高く舞い上がり途中で巨大化、穂先を真下へ向

けて落下してくる。

 刀騎士は空間に穴を開けてそこから刀身だけを長く伸ばしてくる。

 護鱗と爆心地の合成技はさきほど見た護鱗爆雷鳥となって滑空する。

 化け物である死人からも化け物扱いされる死兆星の隊長格。彼らの扱うDU

を一挙に四つ・・・・いや、圧砕重剣を含めて五つ。同時に発動する。

 朝月の持つDEATH UNITだからこそ成せる業。

「だから―――――お前が憎い」

例え行き着く先の目標を失ったとしても、今彼には戦うだけの理由がある。


――いいよな、これでも。やっと・・・・見つけたんだから。


「陽を好きだったのと同じ分だけ、憎悪があるんだよォオオオオッ!」

 朝月は原点へ帰る。どうして自分が戦闘訓練を積んで死兆星なんていう組織

に加入したのか。どうして戦い続けてきたのか。どうして隊長格にまで上り詰

めたのか。

 全てはDEATH UNITのせい。そんなものがあったからこそ陽は死んだのだ。

 その怒りは柚木や軌条、暁へ向けられるべきではない。彼らも、いや、死人

全てがDEATH UNIITの被害者なのだ。

 ならば、その怒りはどこへ向く?

「く・・・・・っ!」

 常光朝月は空間を裂きそこへ逃げ込む。四つのDUの攻撃全てが不発に終わ

った後に元の場所へ現れた。

「まさか・・・・怒りだけで動くというのか。それは既に通った道、得るもの

など何も無いと知った道だろう!」

「ようやく正当に怒りを向ける相手を見つけたんだっ! ぶつけとかなきゃ損

だろッ!」

 朝月が復讐の道を選んだ――元凶。

 今の朝月にとって結果がどうなろうと関係ない。

 ただ、目の前にいる復讐の相手を蹴散らすだけだ。

「てめぇは絶対に・・・・・!」


[Reflection]


 朝月の足から放たれた光線は反射板を介して常光朝月へと降り注ぐ。

「断裁――――光」

 薙がれた刀の軌跡に沿って光線が切り裂かれていく。攻撃の全ては無力化さ

れた。

「許さねぇッ!」

 

[Distance]


 変貌した左腕は対物ライフルへと姿を変え照準を常光朝月へ定めていた。

「ちっ・・・・・! 断裁――――弾が・・・・」

 言い切る前に発射されたライフル弾は空を裂き、深緑色の刀・縁絶の刀身へ

吸い込まれた。そしてそのまま――――破砕する。

 朝月は本来、こういう戦い方が基本だった。

 後先などという面倒なことなど考えず、誰かを助けるなどということなど考

えず、戦って戦い続ける。

 復讐を生きる目的として生きてきた朝月にとって、後がどうなろうと関係な

かった。

 それ故に彼の能力は護ることに適していない。

 ただ、より強い力を。

 そのための力だった。

「掌れっ! 地獄第七圏第一環―――――」

 他者の力を手に入れて、それを以って他者へ復讐する。

 それこそが朝月の能力。

「フレジェトンタッ!」

 白き刃に走った黒いライン。そこを介して天国から地獄が漏れ出る。

 武器を失った常光朝月へ降りかかる紅き液体。彼は今、身を護る術を持たな

い。

 地獄にあるとされる血の河。人は「フレジェトンタ」と呼び、その煮えたぎ

る河へ落ちるのは隣人へ暴力を働いた者とされた。

「・・・・・っ!」

 常光朝月は降りかかる熱湯の如き血の河を見、手を掲げた。

「神鳴りッ!」

 掲げられた手から迸るのはいつか見た蒼電。とっくに水の蒸発点など通り越

しているはずのフレジェトンタの河に触れ、その血の河を蒸発させていく。

 ―――降りかかる液体を蒸発させきったのと、ほぼ同時。

 常光朝月の足元の空間が開き、そこから幾つもの刀身が飛び出してきた。

「う・・・・・っ!」

 何本かが身体に掠り血を舞わす。その血が地へ落下する前、ぽっかりと開い

た空間から銀色の粉のようなものが大量に吐き出された。

「なんだこれは・・・・・・ッ!?」

 そこで別世界の常光朝月は見る。この世界に生きた朝月が新たな刀を手に持

って投擲したのだ。

「神な―――――」

 迎撃しようとして蒼電を放つ。しかし、それがスイッチとなった。

 

 灰色の氷の上は爆炎に呑まれる。吐き出された粉は刀身の形をした超微細な

アルミニウム。可燃性粉末が充満している場所で放電などすれば当然、粉塵爆

発が起きる。

 

「螺旋鎖鎌っ!」

 爆発の煙の中から幾条もの鎖が伸び朝月を拘束する。見上げれば造物主の教

本の指先からも鎖が伸び修之を拘束していた。

 鎖を射出していない指先から青白く放電が起きる。朝月目掛けて蒼電が放た

れた――――。



 距離を取りながら別世界の常光朝月は苦悶の表情を浮かべ、同時に別の問題

でも苦悩する。

(何だあの戦闘力は・・・・・最初に見たときとは明らかに違う)

 最初に対峙したときは取るに足らない強さだと思った。戦いに迷いがあった

のだ。戦わなくてはいけない、しかし戦っていく先で知ることが怖い。

 何かを護りたいと思う気持ちが強いからこそ、その理由を、目的を潰される

ことを恐れていたのだ。

 もし悲劇の元凶を破壊し、それで何も変わらなかったら。

 全てが終わっても誰も救うことができなかったら。

 そんな怯えが、迷いが彼にはあったのだ。

「真実を告げたのは間違いだったか・・・・・!」

 別世界の常光朝月は自ら真実を告げることで朝月の戦意を殺ごうとした。戦

っても何も意味を成さないと知れば大抵、戦意など無くなるだろう。

 だが彼は違った。逆に恐れていたことから解放され、本来の自分の戦いをす

るようになった。

 悲劇の元凶を破壊しても何も変わらないと知ったから。

 全てが終わっても誰も救うことなどできないと知ったから。

 彼は何も考えないことにしたのだろう。

 未来は無いと分かったからこそ、今彼がしたかったことを、彼の心の奥底に

あったのものをぶちまけた。

 もし別世界の常光朝月に誤算があったとしたら、それは一つ。

 柚木と朝月との戦いで、朝月の復讐心は決着したと思っていたことだ。


[Scale]


 螺旋鎖鎌で拘束され稲妻を打たれた朝月は事も無げに護鱗で放電を防ぐ。い

つの間に発動していたのか、巻きついた鎖は環一つ一つが爆弾と化して破裂し

た。

 空で戦っている修之のせいか造物主の教本の小指が切り落とされた。

 危険を感じて更に距離を取る。今まで居た場所に針天牙槍が飛んできた。

「はぁ・・・・はぁ・・・・はぁっ!」

 追いついた朝月は息を荒げ肩を上下させていた。さすがにあれだけの攻撃を

連続して行えば疲労もたまる。

 それよりなにより、生命力が失われていく。

「うぐっ・・・・ぐァあああああああああああッ!」

 侵食が進んでいる。だが、その侵食速度は朝月の予想の上を行っていたよう

だった。

 身体は半分以上が爬虫類の皮膚に覆われ、生えた尻尾の先には水晶のような

物体が付いている。

「なんで・・・・こんな一気に進むんだよぉ・・・・っ! 今までは・・・・

こんなに・・・・!」

 朝月の常識ではここまで進むはずはなかった。今までにも強大な力を振るっ

てきたが一気にこれほど侵食が進むことはなかったのだ。

 それがどうして、今この時になって急速に進んでいるのか。

「忘れているのか? DEATH UNITは常識の一切通用しない相手。君の中で

は急速に進まないのが常識でも、DUにその常識は通用しないようだ」

 別世界の常光朝月は心の中で笑った。少々の誤算と苦戦はあったが結果は変

わらないようだと。

 このまま戦いを長引かせればこの世界の朝月は死ぬ。そうなれば後は世界を

放置するだけでいい。

 あの戦闘力ならば逃げることは容易い。勝つことは難しいだろうが、逃げて

時間を浪費するだけならば容易にできる。

 そもそもこの世界の朝月はまだ自らの力の“本質”を使うことができない。

もし本質を使われたら勝ち目どころか逃げることさえも怪しくなってくるのだ

が、彼ではどう足掻いても本質を引っ張り出すことなどできない。

 この戦いの勝利者は自分だ。そう思った。

「常識が通じないって・・・・こんなことでも適用されんのかよ・・・・・!」

 彼の身体で皮膚が変わっていないのはもう左半分の顔と左腕だけだ。それ以

外はもう侵食されきっている。

「いくら後先考えず復讐心に委ねたといっても侵食を無視することなどできな

いだろ? 命にかかわる―――――」

 ここで新たに誤算が生じた。

 それは別世界の朝月がこの世界の朝月の復讐心の強さを甘く見ていたこと。

 そして、朝月は細かいことが苦手だったということだ。


「常識が通じねぇってんなら・・・・・こっちが常識を捻じ曲げてやるッ!」



朝月にとって、ここまで一気にDUの侵食は進まないということが常識だった。だからDUはその常識を覆した。常識は個々人によって変わり、それに応じてDUは常識を覆していく・・・・。


常識が覆されるのはDUの本質を見た者だけである。


次へどうぞ。

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