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螺旋鎖鎌

方々に見える小さな黒い点。それは徐々に、徐々に近づいてきていた。

 それが一体何なのか、朝月は思い出した。


『ああ。各国のメインコンピュータに侵入して、すでにミサイルは発射した。

何本ものミサイルが今、このデルタセントラルシティを目指して空を漂ってい

るのだ』


 決死の作戦敢行のせいですっかり失念していた。デミウルゴスの意識体はあ

らゆる国のコンピュータに侵入して勝手に操作し、このデルタセントラルシティ

に向けてミサイルを発射していたのだった。

「お前・・・・あれを止める気かよッ!」

 まだフェイスバイザーを弄っている春彦は振り向かず、冷静な声で答える。

「ええ。僕にしかできないことです。それが分かっていたからこそ、このデー

タを僕に渡したんです」

 朝月のつけている飛塚小奈のフェイスバイザーにデータが転送されてくる。

 そこに記されていたデータは予測進路。ミサイルが今後取るであろう進路の

予想経路だった。

『これがあれば、ハルなら止められる』

「位置座標さえ判っていれば螺旋鎖鎌はどこにでも現れますからね」

 空を見上げれば、ざっと数えても、二十。いや、それ以上。

 それだけの数のミサイルが迫っているのがわかった。

「春彦、俺は、絶対に許さないぞ」

 こんなことは無茶だ。春彦が無茶をするくらいなら、夏彦の縁絶で空間の狭

間へ逃げたほうがずっと効率的だ。

 確かにそれでは助けられる人数も限られてしまうけれど。

 それでも朝月は目の前で春彦が無茶をして倒れる様を、見たくはなかった。

『アサツキの許可なんて必要――――』

「朝月君、僕はね・・・・・」

 夏彦の言葉を途中で遮って春彦が言う。夏彦は黙って春彦の言葉を待った。

「この街を失くしたくないんですよ。半年も過ごしていない街でも、僕には

思い出が、大切なものがあるんです」

 真剣に語る春彦は、その首にかかっているネックレスを握り締める。

「この街にはね、僕たちの家があるんです。――――修之さんからの最後の

贈り物。それが、この街には残ってるんです」

 彼の目には、涙が浮かんでいる。この乱戦の中、自分たちの家など残ってい

ないと思っているのかもしれない。それでも彼は諦め切れていなかった。

 恩人である日坂修之が一駿河春彦に贈った最後のもの。それをどうしても、

捨てる気になどなれなかった。

「このシティも結構好きなんですよ? だから、助けられる人だけ助けて空間

の狭間へ逃げるなんて、したくありません」

 涙を拭いてその瞳を朝月へ向ける。様々な決意の篭ったその瞳に、朝月はも

う何も言えなくなってしまった。

『アサツキ』

 夏彦が声だけで語りかけてくる。

『いざとなったら、頼むぜ』

 その言葉が示す意味を―――いざ、という時がこないことを願って。

 朝月は春彦を送り出した。



 目を閉じて、それから春彦は呟いた。



「螺旋を描け―――――」



 何度も何度も聞いた言葉。その後には必ず、彼の力が朝月を、金を助けてく

れた。

 そして今も、彼らを助けようとしている。



「螺旋鎖鎌――――――ッ!」



 春彦の周りにいくつかの鎖が渦を巻く。春彦は自らのフェイスバイザーを弄

ってディスプレイに金から送られてきたデータを表示した。

 送られてからそれなりの時間が経っている。間に合うか心配だったが問題な

いようだ。

「推定時速から現在位置を推定。予測進路と照合、一致。十秒後の位置を推定。

位置座標、確認」

 機械的に言って、春彦は目を見開いた。

「いきますよ夏彦。一世一代の大仕事です。この街、護りますよッ!」

『おう! こんなときに何もできねぇ守護人格ってのもどうかと思うが、せめ

て最後まで見届けるぜ』

 一人の身体から二人分の声が聞こえて、だんだんと大きくなっていた黒い点

に何かが絡みつく。朝月のいる距離からではフェイスバイザーの望遠機能を使

わないと見えない。だから螺旋鎖鎌がミサイルを止める勇姿を見ているのは、

朝月と三島だけということになる。

「う・・・ぐッうう・・・・・ッ!」

 春彦の目がきつく閉じられる。ものすごい負荷がかかっているのだろう。当

然だ。二十発以上もの大陸間弾道ミサイルを人の腕ほどの太さも無い鎖で受け

止めようとしているのだから、その負担は計り知れない。

 無茶だ。それは誰しも、春彦本人が一番よくわかっている。だからこそ夏彦

は朝月に言ったのだ。いざというときは、と。

「ま、まずいです・・・・!」

『何があった!?』

「鎖がミサイルの表面を滑って・・・・止められないッ!」

 あれは異能力で生み出されたとはいえ、実質はただの鎖だ。鉄の表面上を何

の突起物もなしに滑らずいられるはずがない。

 鉄板等は摩擦係数が低い。人の指紋のようなもの、または引っかかる突起物

でもなければ滑るは必定。

 螺旋鎖鎌は滑ってしまう。このままではミサイルは鎖の束縛から抜け出して

しまいこのデルタセントラルシティへ降り注ぐ。

「そんなことは・・・・・させませんッ! 絶対に―――――ッ!」

 春彦の慟哭が空に響いて、それはきっと、DEATH UNITに届いたのだろう。

 変化は、起こった。

 ギギギッ! と耳障りな音がかすかに聞こえた。春彦を取り巻いていた鎖を

注視する。ノイズの正体はすぐに判明した。

 刃だ。

 刃がせり出してきている。


 鎖とは鉄で作られた環を無数に繋ぎ合わせたもの。交互に組み合わせること

でかなりの硬度を得られる。


 その環から刃がせり出してきているのだ。

 一個の環から一本の刃が、九十度ずつ傾きながら、切っ先を現し始めている。

四つの環を使って一周するように、螺旋を描いて鎖から飛び出す鎌の刃のよう。

 

 螺旋(らせん)鎖鎌(されん)


 螺旋を描いて鎖から漏れ出る刃。

 それがミサイルの表面に突き刺さって滑り止めの役割を果たしていた。

『螺旋鎖鎌が・・・・進化した!?』

「ふふ・・・・侵食の証ですね・・・・・でも、今はありがたいですッ!」

 閉じられたままの目を無理矢理開いて春彦は手に力をこめる。フェイスバイ

ザーの望遠機能でミサイルの様子が見える朝月と三島にははっきりと見えた。

 さっきまでよりも倍以上飛び出した刃がミサイルの表面に食い込んで―――

いや、突き破っている。それなりの硬度を持つはずの大陸間弾道ミサイルの装

甲を紙を切るように引き裂いた。

「切り裂け、螺旋鎖鎌ッ!」

 叫びがこだまする。フラフラで立つこともできず鎖に支えられている春彦は、

それでもミサイル群を睨み、自らの力を信じた。

 この先、命を奪う敵に成り果てる力だとしても、今は、今この時だけは味方

であると信じて。


「あの時、僕と夏彦と金を護ってくれたみたいに、この街も護って下さいッ!」


 装甲を突き破った螺旋鎖鎌は今までとは桁違いの圧迫力であろうことかミサ

イルを絞め潰した。鎖によって雑巾のように絞られたミサイルは刃に引き裂か

れ、空の藻屑と化した。

 爆発の轟音がここまで響いてくる。地面を揺るがすほどの爆音は各所で起こ

り瞬く間に消えた。

 後に残ったのは無事なデルタセントラルシティと大空に残る硝煙。佇む春彦

だけだった。




無茶をした春彦と夏彦。どうなるかは目に見えてしまっている。

それでも彼らはこの街を護りたかった・・・・。


というわけで、すぐに更新したのは山々なんですが、次回の更新になってしまいます。


また三日後くらいかな。ではではまた次回お会いしませう。


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