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サキガケ

 スピーカー越しに―――いや、金の口が動いてまた声が聞こえる。金の声を

使った、DUの言葉が響いた。


『コレハ・・・コノコノコトバ・・・・』


 大きく振りかぶられた春彦の右腕をロボットが押さえて別のロボットが春彦

を投げ飛ばす。

「そんな・・・・金の言葉だなんて・・・・」


『エクスクレセンス・・・・ナッテナイノニ・・・クチガウゴイテル』


 確かに金はまだエクスクレセンス化してない。だというのに、DUの意思が

出てきてしまうのはおかしい。ならば、この言葉はなんだ?

「DUの擬似暴走による影響・・・・DUの一時的な顕現、ですか」

 三島が言う。

「考えてみたのです。どうして今まで起きなかった“擬似暴走”なるものが今

になって起きたのか。それはおそらく“未知の欠片”がこの世界に顕現したか

らではないのか、とね。エクスクレセンスになる直前にDUが身体に馴染むた

めに起きた現象ではないかと」

「じゃあ、あれは金の言葉じゃないってことか?」

「そうでしょうとも。あれは力を発揮したDUが湖子宮さんの口を使って喋っ

ているだけに過ぎません。・・・私の仮説が正しいなら、ですがね」

 彼の言葉は信じられる、と朝月は思った。

 彼が以前立てた仮説は当たっていたのだ。軌条は第三段階になったとき、一

時的に自我を取り戻していた。そのことを考えれば、あながち間違いでもない

かもしれない。

 となれば、これはDUの意思。なんらかの力を使って金の口を動かしている。

 朝月たちを騙そうとしているのだ。


『キひ・・・・キひヒヒヒヒヒヒひッ!』


 不気味な笑い声が響く。その笑い声はまるで、肯定の意に取れた。


『ワレハ“サキガケ”・・・「デミウルゴス・ルールブック」ノメイレイ二ヨ

ッテヤッテキタ“レイガイ”ナリ』


 突如として饒舌になった『金だった何か』は自らを“サキガケ”と名乗っ

た。“レイガイ”とも。

「一体、何が“レイガイ”なのですか?」

 三島は逸る朝月と春彦を手で制して、“サキガケ”に問う。


『ワレハDUデハナイ。コノコニヤドル「デミウルゴス・ルールブック」ノイ

チブ・・・コノセカイヲミルタメニヤッテキタ』


「DUではない何か・・・・故に“レイガイ”ですか」


『ソウダ。キひ・・』


「デミウルゴス・ルールブックとは?」


『ワレラノアルジ・・・・ゾウブツシュ』


「あなたは今、何をしているのです?」


『コノコノニクタイトDUヲウバイ、オマエタチヲコロス』


「彼女の能力で戦えると?」


『モンダイナイ。コノチカラハ・・・・ソウテイガイノチカラダ』


「ならあなたは今後、第三段階と同程度―――DUの“本質”とやらを扱える

と思って良いのですね?」


『ソウダ。アルジハオコッテイル・・・・コノセカイニ』


「ふざけんなっ!」

 朝月が叫んだ。今まで黙って聞いていたが、もう限界だった。 

「そんな理由で他人を殺していいはずがねぇだろうがっ! 怒ってんなら自分

から出向きやがれっ!」

 朝月にとって“サキガケ”とやらが金の肉体を乗っ取ってやってきた理由は

ただ自分たちを殺すためにやってきた、にすぎない。

 殺したいだけなら直接的に出向いてくれば相手をしてやるのに、どうしてこ

んなことをするのだろうか。


『ワレハアルジガコノセカイニタドリツクマデノツナギ』


「だったら繋ぎなんて使わないで急いできやがれっ! 真っ先に相手にしてや

るからよっ!」

 ついぞ黙っていた春彦も声を上げる。晴れ上がった拳の痛みに顔をしかめな

がら、視線は“サキガケ”へ向いていた。

「とりあえずそのカタコトな喋り方を止めて頂きましょう。とてもうざったい

です」


『・・・・・・』


「ついでに金の身体から出て行け。デミグラスだか何だか知らないが、用があ

あるなら自分から来い」

 朝月の言葉にも“サキガケ”は一切の反応を示さない。そして、雰囲気が突

如、変貌する。

 射抜くような、鋭い気配が辺りを満たす。


『ふ・・・・ふははははははははッ!』


 機械じみた外国人が使う日本語のような喋りかたから一変、高らかに笑い出

した。

 金の声のまま、男の口調で笑う―――嗤う“サキガケ”はもう“サキガケ”

ではないように思えた。


『出て行け・・・・? この私が、この子の身体から、出て行けと? ふふは

はははははッ!』


 朝月の発言を嘲笑うように上がる笑声に呼応するかのように“未知の欠片”

が明滅する。笑い声に賛同するように、チカチカと点滅する。


『いいだろう。その無遠慮な発言、状況判断能力の欠如した隊長に免じてここ

は私自ら色々と教えてやろうではないか』


「まずその前に、もう一回名乗れよ。もう“サキガケ”とかいうのじゃないん

だろ?」

 朝月の指摘に金の身体の中の何かは顎に手を置いて、何事かを考えてから名乗

る。


『我はデミウルゴス・ルールブックの意識の欠片だ。お前たちが“未知の欠片“

と呼んでいるものの意識体だと思えばいい』


 朝月は“未知の欠片”を見る。巨大すぎるクリスタルが宙に堂々と浮かんで

いる様はここを異世界か何かと思わせてしまう。だが、綺麗ではあれど神秘さ

は欠片もない。

 あれを意識体としたのが目の前にいる存在。金の肉体とDUを奪って朝月た

ちを殺そうとしている。

 

『さて、ここからは無知な君たちに対する講義の時間だ。教えてやろうではな

いか。私がここにいることでお前たちに訪れる利点を』


「利点、ですって?」

 春彦の訝しげな視線を真っ向から受けて、デミウルゴスの意識体は微動だに

しない。怪しまれるのなど当たり前、そこからどう納得させるかが問題だとで

も思っているかのように。

 だが、意識体の表情には何の迷いも思考もなかった。まるで、彼らを納得と

いう屈服下に置くための道筋は見えているとでも言うように。


『聞いた話によれば、依代となっているこの子は脳に欠陥を持っているそうじゃ

ないか――――欠陥というよりは傷か。それのせいで命が危なかったのだろう?』


「・・・そうだ」


『擬似暴走というのは、お前たちの言うエクスクレセンス化する直前に起きる

現象だ。DUを馴染み易くするためのな。そして、擬似暴走を引き起こしてい

る最中の生命力吸引機能は通常時よりも格段に早い』


「そんなことは知ってる。何が言いたい?」


『ならば問おう。どうしてこの少女―――湖子宮金はあれだけの時間、擬似暴

走状態を保っていられたのだ?』


 その台詞の真意を、誰しもが測りかねた。言っている意味を見抜けなかった

のだ。

 

『擬似暴走の時間には個人差がある。軌条氷魚のように多少の距離走っただけ

でエクスクレセンス化してしまう者も居れば、不知火沙良のようにあれだけの

長時間、耐えてみせる者もいる』


 春彦と桜子、海深、落葉、雪女、影名の表情が濃くなる。春彦は軌条のエク

スクレセンス化を見ているし、彼女たちも沙良の擬似暴走状態と戦っていたの

だ。

 そんな身近な例えだからこそ分かりやすい。感じやすい。想像しやすい。


『それは単に生命力の残量の違いに過ぎない。軌条氷魚には大して残っていな

かった。逆に不知火沙良には結構な量が残っていた。そういうことだ』


「・・・・そういうことですか」

 三島が納得したように―――というよりも、納得してしまったように言う。

しかし、この場には彼以外に納得できているものも意識体が言おうとしてい

ることを察しているものもいなかった。

「どういうこと?」

 三島の護衛のために側にいた海深が問う。三島はつっかえることもなく、た

だ淡々と己の理解した事柄を告げた。

「さっき彼が言ったことは、湖子宮さんの擬似暴走継続時間の長短のことです。

簡単に言って、彼女は本来擬似暴走などすっ飛ばしてエクスクレセンス化して

もおかしくはない状況にありました。ブレイン・スタビライザが意味を成さず

命の危険に晒され、擬似暴走時には生命力が吸われる速度が増加する。ただで

さえ死に掛けていた彼女が、意識体が現れるまでの間擬似暴走を保っていられ

るはずがない、ということですね?」 

 

『正解だ、優秀だな。ここでもう一度問おう。果たして、彼女には擬似暴走を

保っていられるだけの生命力が残っていたか?』


 さきほどの問いかけと内容が違うことを誰も指摘しなかった。いや、指摘で

きなかった。

 もし意識体が言おうとしていることが読み通りならば、それが真実だと分か

ってしまえば。

 春彦も夏彦も朝月も。この場の誰とて『金の中の意識体』に手出しできなく

なってしまう。


『答えは、否、だ』


 金の声でデミウルゴス―――の意識体は告げる。否、の部分を力強く言った

意味を彼らは理解する。金が自力で生き残ったわけではない、と意識体は言っ

ているのだ。


『ならば、もうひとつの答えである、応、とは何なのであろうな?』


 もう、分かりきった答え。それをして、意識体は告げようとする。

 彼らから戦意を殺ぐために。

 無抵抗に殺されろ、と。暗に告げていた。


『彼女を生かしているのはこの私だ。私がこの子の中に入りDUを制御してい

るからこそ、彼女は生き永らえている』



もう本当に、ごめんなさい。この辺はうまく区切る場所がなくって・・・・・。


次へ。

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