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死兆星が作られた意味

「正確には、俺は生き返ったわけじゃないんだ」

 とりあえず落ち着こうという話になって何回か深呼吸したあと、緋月が生き

ていることの説明をして、今世界がどんな状況になってしまっているのかを説

明して、それから質問を開始して、ようやく今に至る。

 何があってエクスクレセンス化してしまったかは、よく分からないそうだ。

彼の記憶はE3と戦って気を失ったところから無いらしく、自分がどうしてエ

クスクレセンス化したのかは分からないらしい。

 御堂としては大体の予想は付いている。元より少なくなってきていた生命力

が“未知の欠片”から発せられたDU侵食を促進させる波動によって枯渇した

のだろう。それ以外に考えられる可能性は無い。

「生き返ったわけじゃない? じゃあどういうわけだ?」

「う~ん・・・・エクスクレセンスってさ死んだ人間の肉体をDUが乗っ取っ

て勝手に使ってるんだろ? だったらまぁ、それとおんなじことだ」

「・・・・?」

 御堂は理解できそうで理解できていなかった。つまり、DUの使っていた自

分の身体を奪い返したってことなのだろうか。

「まぁそんな感じだ。俺はな、死んだとしても意識ってどこかに残ってると思

うんだ。ほら、幽霊とか」

「ああ・・・まぁ、な」

「だから残った意識がDUと張り合って、肉体を奪い返したって感じだ」

「じゃあ・・・・死んだままっていうこと?」

 緋月が言う言葉は、一時期感じた安心を、安堵を、歓喜を全て叩き潰す事実。

「ああ・・・・・俺は生き返っちゃいない。DEATH UNITそのものになった

んだ」

 常識が通用しないから、生き返ったと思っていた。

 非常識を知らないから、生き返ったと思っていた。

 だが、そんなものは妄想でしかなくて。

 事実は、ある意味で一番最悪だった。

「俺はDUに奪われてエネルギーに変換された自分の生命力を消費して今ここ

で活動してられる。もし、エネルギーが尽きればDUは稼動しなくなる―――

つまり、俺の死だ」

 DUとの一体化。修之はそんなことをしたのだという。

 それが本当に可能なのか。いや、目の前に現物がいるんだから可能なのだろ

う。常識が通用しないどころか、完璧に覆されている気がする。

 修之は狙ったのだ。第三段階になり、ほんの少し人間としての自我が戻って

くるその時を。その瞬間を利用して、自分の意思の力のみでDEATH UNITの

存在を捻じ伏せた。

「本当・・・・すげぇ奴だよ。お前は」

「殺されかけたのに生きてた私以上に、ね」

「・・・・そうでもないさ。とりあえず、緋月がこの一年、何をしていたのか

教えてくれないか?」

 生き延びていたのだから、何かをしていたのだろう。ただ生き延びて、必死

に今まで生きてきたのか、それとも、何か目的があって姿を隠していたのか。

 修之も御堂も後者だとにらんでいる。

「一年前から私が何かに手を出していたのは、知ってるよね?」

「ああ」

「その時から私が調べてたのは死兆星についてなの」

 自分の所属していた組織。それの何について調べていたというのか。そして、

どうしてそのことが“手を出した”なんて悪い言い方をされるのか。

「死兆星が作られた意味って何だと思う?」

 分かりきったことだ、と御堂が答える。

「危険な死人を正しく管理し統括するための組織だろ?」

「そうだね・・・・表向きには」

「表向き?」

「そ。この一年で分かったことはあんまりにも大きかった。だって死兆星の本

当の目的は――――」

「―――“未知”の入手、か?」

 先回りするように修之が言う。的を射たように思えたが、緋月はそれを否定

した。

「ううん、違う。――――死人の殲滅、だよ」

「――――っ!」

 死人が一般人に被害を出さないように設立されたはずの死兆星。管理・統括

して監視するのが目的のはずだった。

 だというのに、殲滅? 意味が分からない。

「死兆星の上層部の人間って全員過去持ちでね、調べれば出てくるわ出てくる

わ死人を怨む過去がざっくざく。そういう過去持ちの人たちが集まってできた

のが今の死兆星ってわけ。それから――――」

「ちょっと待ってくれ!」

 思わず御堂は止めてしまった。自分の考えていたことの範疇を大きく超えた

事実についていけなくなってしまったからだ。死兆星の上層部の人間たちは、

わざわざ怨恨を晴らすためにこんな巨大な組織を一から作ったというのか?

「まぁそういうことだね。恐れ入るほどの執念だね、って私も思った」

 そんな軽い調子で流していいことではない気がする。それに問題はまだある

のだ。

「やつらが俺たちを殺すために組織を作ったってんなら何かしらの手があるん

だろ? 何もしていないはずがないからな」

「鋭いっ! え~っと、それについてこれから話すんだけど――――まずは最

近増え始めたエクスクレセンスとエクスクレセンス化させずに死人を殺す方法

の関係についてだね」

 そう言うと緋月は話し始めた。

「エクスクレセンス化させずに死人を殺すには個人の生命力の四分の三以上が

奪われる前に即死させなければならない。これは大前提ね。問題は、死兆星の

連中はどうやってこの事実を知ったかってことなの。当然、実験でも何でもや

るでしょうよ、怨みのある死人ならどんな残虐な実験でも心は痛まないどころ

か晴れやかになるでしょ。で、その実験が問題なの」

「問題、か。今のを聞いて俺も思った。その実験結果が確実だと思うに至るま

で、一体どれほどの数の死人を実験体にしてきたか、だろ?」

 御堂が的を射た言葉を言う。修之も思っていただろうけれど彼は緋月が言う

まで待つつもりだったのか、言う気は無かったようだ。御堂としては話につい

て行けていなかったさっきとは違うと示せてちょっといい気分。

「そうそこなのよ! 死兆星は確固たる結果を出すまでに相当数の死人を実験

体にしてきたの。どれほど痛めつけて殺したらエクスクレセンスになって、ど

の程度なら普通に死ぬか。そういう実験を何度も繰り返してきたの。じゃあ、

実験の結果エクスクレセンス化した死人はどうなっていたと思う?」

「え・・・どこかの隊長にでも事情を話して始末してもらってたんじゃ?」

「馬鹿、んなわけないだろ。考えてみろ十四。もしお前がそういった真実を明

かされて素直に始末できるか?」

「・・・・・絶対できねぇ。緋月殺そうとしといて言えた義理じゃねぇけど、

絶対できねぇな」

「だろう? だったら誰かに事情を話して始末してもらう案は無理だ。おそら

く死人なら、誰も手伝わないだろう。手伝う奴がいても不思議じゃなけど少な

くとも俺が着任してからはそんな外道な奴は知らない」

 今まで幾代も交代してきた隊長の座。とはいっても一人の隊長が組織の手伝

いをできる時間など限られる。死兆星だってそんな不確実な手は使わない。

「じゃあどうしていたのか。死兆星にある地下施設――――ブリッツタワーの

エレベータから特殊な鍵を使わないと行けない地下に保存されていたの」

「ほ・・・ぞん?」

「そう。贅沢な設備使って瞬間冷凍。そのまま部屋の隅っこに箱詰めにして放

置よ。そうして膨大な数のエクスクレセンスを生み出しては隠してきたの」

「じゃあ・・・・本当にどれだけの数が――――」

「いや、今はもうほとんど無いんじゃないか?」

 御堂の言葉を遮って修之が言う。何を根拠に言っているのか御堂は分からな

かったが、緋月は頷いた。

「うん、もうほとんど居ないよ。全部外へ出ちゃったから」

「・・・・は?」

「最近増えてきていたエクスクレセンスは全部、保存しきれなくなった実験の

産物たち。その残虐極まる実験の果てに生まれて、冷凍保存されてたエクスク

レセンスたちよ」

 増加傾向にあった暴走者たち。それは全て死兆星の生み出したものだという。

そして組織が保存しきれなくなったから、捨てたのだという。

 だが、ここで御堂は納得しきれない、と思った。

「どうしてエクスクレセンスの放逐なんてしたんだ? 冷凍されているなら人

間でも簡単に始末できるだろうに」

「それは――――俺たちを殺すため、だな」

「・・・・・」

「エクスクレセンスと戦わせて生命力を消耗させて、暴走させないためと大義

名分を掲げて始末するため、なんだな?」

「そう・・・だね。それが目的なんだと思う」

 修之はずいぶんと煮え切らない言い方だな、と思う。もしかしてそこまで調

べは付かなかったのかと考え直し、これからは自分の見解として言う。

「そのために放逐したっていうのに俺たちは涼しげな顔で大した苦労もせずに

倒すもんだから癇癪を起こしたってところか――――怨みが先走って“未知”

なんかに手を出したんだろうな」

 その結果が、おそらく、全滅。

 どういう手段で“未知”へ手を出したかはわからないが、死人を嫌っていた

という上層部の連中がこんな事態になってしまって、何もアクションが無いと

は思えない。

 それはつまり、もう死んでいる、を意味するのではないだろうか。

「それがこの一年で調べた全部か?」

「うん、そう。全部――――全部悪かったのは結局、死兆星だったんだ」

 死人を護るために存在したはずの死兆星。だがその実、死人を抹殺するため

に個人個人が怨みに縋って生み出した――――魔窟。

 御堂は頭を抱えた。どうしても拭えない後悔の念が、今更、死兆星の真実を

知った今になったフラッシュバックしてきた。

「俺は・・・・そんな連中の言いなりになって緋月を傷つけたのかよ・・・!」

 奴らは卑怯で卑劣だ。そうだと知っていながらも、屈してしまった。そして、

最愛の人に刃を向けたのだ。

「それはいいんだよ・・・・奴らの手口は知ってるから――――」

「いつまでも引き摺ってるなよ。そんなに後悔してるなら、その後悔を払拭し

ろ。自分で何ができるのか考えて、緋月のために実行してやれ」

 御堂に言葉だけを投げかけて、修之は立った。

「なんか、本当、お前ってすごいよな。何でもお見通しって感じでさ。何でも

できるって、他人に思わせる」

「・・・・そうでもないさ」

 修之はそう言って歩を進める。朝月たちが去っていった方向へ。その場から

動かない御堂と緋月を置き去りにして。

「生き返ったと思わせてぬか喜びさせて・・・・こうして仲間を、友達を助け

ることもできず置き去りにして、最後には全部放り出してどっかに行っちまう

ような男だよ。俺は――――」

「それでも、さ」

「家族のために死後の世界から這い上がってきたんだし、十分、すごいと思う

な、私は」

「・・・・・そうかよ」

 そういって修之は自分の周りに黒羽根を集めて渦を作る。そしてさっき聞い

たばかりの、しかし、意味も声色も全く違う言葉を紡ぐ。



「葬送せよ――――――」



 黒羽根の渦の中から現れた腕は確かに機械の腕。だが、先程までとはその色

も太さも大きさも全く異なっていた。



「天涯ノ歯車――――――ッ!」



 色の比率が違っていた。黒が大部分を占めていた以前とは異なり左半身を白

が。右半身を黒が占領している。互いの領域にそれぞれが少しずつ踏み入って、

白の領域には黒いラインが、黒の領域には白いラインが走っている。

 腕の太さは段違い。人の胴ほどの太さだった腕はその数倍の太さに膨れ上がり、

全長は二十mほどにまで巨大化していた。 

 黒き渦から這い上がる白き機械戦士。その背には、神々しい真珠色(パールホワイト)の右翼

と禍々しい銃身色(ガンメタルグレイ)の左翼があった。

「今の俺ってさ、こんな感じで“どっちにも属さない存在”なんだ。そんなに、

褒め称えたれるような存在じゃないさ」

 左半身は白なのに左翼は黒。右半身は黒なのに右翼は白。そんなちぐはぐな

存在なのだと、彼は言う。

「さっきと随分変わってるな」

「まぁな。結果がどう転がろうと戦争終了後に俺は死ぬ。だったら出し惜しみ

なんてしたって意味ないだろ?」

 天涯ノ歯車の肩に乗る。高さ二十mほどからの景色は普段なら壮観なものだ

ったろう。しかし、今はシティの惨状が目に入るのみ。ある意味で壮観だった。

 見下ろした先にはかつての恋敵であり親友、かつて惚れた女性であり良き友

がいる。今修之は、二人が一緒でよかったと心から思う。

「ねぇ修之。ひとつ聞いていい?」

「ん? 何だ?」

「今でも私のこと、好き?」

 かつて御堂十四と日坂修之は常光緋月を取り合って争ったことがあった。一

人の女性に二人の男性が恋をしたのだ。そういう展開になっても仕方ない。

 そしてそれを制したのは御堂だった。だからこそ修之は大人しく手を引いた

のだ。

 もうその当時からDEATH UNITの侵食が始まっていたから。もし、自分が

緋月と付き合ったとしても、満足させられない。必ず、先に逝ってしまうから。

 だからその当時まだ侵食が始まっていなかった御堂のほうが良かった。

 だから、そんな理由で手放してしまったから、思いは募ったまま。

 それでも彼は言うのだ。もう自分は死んでいるから、この、暖かい場所に戻

ることは絶対に無いと分かってしまっているから。

「いいや、もうだいぶ前に吹っ切ったよ」

 これで未練は無い。本当はまだ好きだ。他の女性など目に入らないくらい、

御堂と恋仲だと、自ら手を退いたのだと知ってなお、好きなのに。

 ここでそれを言えば彼は先に進めない。朝月を助けに行ってやれない。この

場から緋月を連れて逃げ出してしまう。

 もう死が決定してしまっている彼に、そんな行動は許されない。

「そっか・・・・・。私はね、修之のこと、好きだよ」

 そうやって、自分を押し殺して先へ進もうというのに、どうして彼女はそん

なことを言うのだろう。

「もちろん、男としてじゃなくて友達として、だけどね。だからさ、ちゃんと

――――生きて帰ってきてね」

 未練を振り切って行こうとする彼を止めるのだ。死ぬなと、生きて帰れと。

死ぬのは許さないと。

 そんなことは出来ないと、不可能だと知っているのに言うのだ。それは一体

何を意味して言うのだろうか。

 死んでほしくないという一般的な気持ちか。

 そう言わなければ自分の心が耐えられないからか。

 それとも、そう言えば生きて帰ってきてくれると信じての言葉か。

「ああ・・・・・精一杯の努力はする。俺も――――帰ってきたいからな」

 そうやって、希望を持たせるようなことを言ってしまう。

 もし彼女に二度と会えなくなると知れば、彼の心は耐えられない。

 少しでも頑張るためにそういう虚言を吐く。

 別れの悲しみから自分を逃がしている。

 死を前提として行くのではなく、帰ってくるために行くのだと。

 そういう目的を、心を持つために。

「・・・・うん」

 翼がはばたく。軽く天涯ノ歯車が浮き上がり一対の翼の付け根から火が出る。

そこにあるのはジェット。ロボットとして無くてはならない必需品。

 自分は死兆星第一部隊隊長・日坂修之。

 組織内部で最高の戦闘能力を保持する最強の死人。

 そう、彼がやろうと思ってできないことなど、常識的に考えて、あるはずが

ないのだ。



今回は少しだけの更新。死兆星が作られた本当の意味はこれだったんですね。


え? わかりやすくて先読みできた? それはごめんなさいorz


次へ~。

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