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完璧に覆された常識

 ――――葬送セヨ――――。




 ――――天涯(てんがい)歯車(はぐるま)――――。



 黒白の装甲を纏う機械戦士。天涯ノ歯車と呼ばれたDEATH UNITこそが

現存するDUの中で最強と言われた日坂修之のDEATH UNIT。



 ――――天涯ハ空ノ果テ――――。



 ――――歯車ハソノ身ヲ――――。



 機械戦士は動き出し、その手に握った剣を振るう。巨躯に合わない俊敏さ

で無重力空間を漂う緋月を狙う。

「ひぅっ!?」

 自分のすぐ目の前を全長二m五十㎝を越える刀身が薙がれる。恐怖を通り

越して驚きしか生まれてこない。まだ十本近く浮遊している槍を打ち飛ばす

ことも忘れてただただ、天涯ノ歯車を見つめていた。

 そして御堂も絶句する。クロウマキナがその身に突き刺さった槍を全て抜

いて地面へ落とす。すると、たちまち傷が癒えていく。

 あれだけの傷を負わせて、普通のエクスクレセンスならとっくに致命傷で

絶命しているような傷をいくつも負って、それでも無傷。


 飛槍緋十四で負けたことなどなかった。自分たちの完璧な必勝手段だと、ず

っと信じていた。

 

「十四っ。もう一回、飛槍緋十四を・・・・!」

「おう!」

 さっき打った分無くなった槍を補充する。そして御堂は目の前のクロウマキ

ナへ先程までと同じく二槍舞を仕掛ける。

 ここで御堂が気を逸らしているうちに緋月が四方八方から槍を飛来させるは

ずなのだが・・・・・。

「こんの、ロボ・・・っ!」

 天涯ノ歯車がその巨躯を生かして槍を全て弾いてしまう。そのためにいくら

御堂が二槍舞をしようとも援護の槍は届かない。


 だからこそ、それが意味を成さないと知ったとき、彼らはとても脆い。


 緋月からの援護がない以上、御堂に勝ち目は無い。二槍舞をもってしてもク

ロウマキナとは互角。そればかりか天涯ノ歯車が時々足を踏み鳴らして足元を

揺らすのだ。バランスを崩してしまえばそれで最後。

 この戦いに―――おそらく、全エクスクレセンス中最強であるクロウマキナ

を相手にして必勝陣形である飛槍緋十四を封じられた御堂十四と常光緋月には

万が一にも勝ち目は無かった。

 更に追い打ちとして、御堂は全身に激痛が走り始めるのを自覚した。

 それは緋月も同じ。身体中に耐え難い痛みが駆け巡っていた。

「うあッ!」

 無重力空間を縦横無尽に動き回って攻撃を回避していた緋月が悲鳴を上げる。

身体を駆け巡る痛みに耐え切れず集中を一瞬解いてしまったのが原因か。振ら

れた剣を回避しきれずに受け止める羽目になり、衝撃で無重力空間の外へ放り

出されてしまったのだ。

 そしてターゲットは御堂一人に絞られる。自分の身長よりも何倍も高い位置

から振り下ろされた剣を受け止めるが、重みのせいで足が地面へ沈む。針天牙

槍は耐え切れず折れ、御堂は地面を転がった。

「うっ・・・・ぐっ・・・っ!」

 また振り下ろされた天涯ノ歯車の剣は地面を砕いて御堂をボールのように転

がす。一瞬の隙を突いて御堂は残った槍を放った。

 御堂の針天牙槍はその先端に触れるものが何であれ、確実に貫通する。例え

それが同種のDUだとしても例外ではない。

 そして苦し紛れの行動など全く意味を成さないことを思い知らされた。

 クロウマキナと天涯ノ歯車。どちらを狙えばいいのかも定かではなく、クロ

ウマキナに当たったとしてもダメージは入らない。どうせまた再生されてしま

うのだから。

 かといって天涯ノ歯車に当てても意味はなかった。ただ機械の身体を無意味

に貫通し、胴体から背中へ抜けて地面に刺さって、終わった。

 五mを超える巨躯にただ一本の槍が貫いても全く意味が無かった。

 死に震え、死を拒絶したい御堂の前に、クロウマキナが現れる。

 首元に添えられた腕には爪が並び、あと数㎜押し出せば頚動脈を断ち切れる

位置にあった。

 目を閉じることもできない。いつ死ぬかも分からない状況で、目など閉じら

れるわけがなかった。それは恐怖を増長させるだけの行為だから。

「十四・・・・―――――っ!」

 緋月が攻撃を試みるがもう遅い。どう足掻こうとも緋月の攻撃がクロウマキ

ナに到達する前に御堂は息絶える。

 元々親友だったものの手によって―――――。

 ――ァ・・・・ッ!

 不意に、頚動脈から爪が離れていく。クロウマキナは両手で頭を抱え蹲り、

天涯ノ歯車はその身体を黒羽根の渦へ沈めていく。

 ――ァアアアァァァアアアッ!

 どんな攻撃を受けても上げなかったような絶叫を上げ、嘴をこれでもかとい

うほど開けて、絶叫がこだまする。

 先程まで死を突きつけていた爪は形を潜めて、御堂はようやく死の恐怖から

解放された。

「十四っ! 生きてる? 大丈夫?」

「あ、ああ・・・・・生きてるし大丈夫だ」

 緋月は御堂の身体をそこらじゅうペタペタと触って怪我の有無を確認する。

死の恐怖から解放された二人は、心の底から安堵していた。再会したばかり

だというのに、また、一年前のように離れ離れになってしまうのではないか

と。

 今回の場合は一年前よりももっと酷い、永遠の別れとして。

 それが回避されたことに心底安堵していた。

「しかし・・・・何がどうなった? 緋月が何かしたのか?」

 状況を理解できない御堂が客観的に見れていたであろう緋月に問う。

「私は何も・・・・・でも――――」

「何か心当たりでも?」

「うん・・・・・たぶんだけど」

 クロウマキナは片手で頭を押さえ、もう一方で地面に爪を立てて呻いている。

 ――ァアアアアア「ああ」アアアアッ!

「何が・・・・どうなってる?」

「DUには常識が一切通用しない・・・・これは知ってるよね?」

「ああ。だからこそこんなに苦戦した上に殺されかけたんだ」

「だったら・・・・こういう考え方もできないかな?」

 緋月はクロウマキナを見て、さっきの咆哮に含まれていた一瞬の違和感を思

い出して言った。

「修之は今、蘇ろうとしているんじゃない?」

「蘇ろうと・・・・・している!?」

 ――ァアアアア「ああああああ」アアアアッ!

 咆哮のときに感じた違和感。

 それは回数を重ねるごとに明確になっていった。

 ――ァアアアア「おおおおおっ」アアアアッ!

「声が聞こえない?」

「修之の声か・・・・これ?」

 クロウマキナの咆哮に混じり聞こえていくるのは御堂十四の親友の声。共に

緋月を取り合い喧嘩した、そんなときの声。

 日坂修之の叫び声がクロウマキナの咆哮に混じって聞こえてくるのだ。

「でも、いくらなんでも蘇るだなんて・・・・」

「よく考えてみてよ、十四」

 ――ァアア「おおおおおっ」アアアアッ!

「人が死んだら生き返れないっていうのは、私たちの常識じゃない?」

「え・・・・」

「だから、死んだら生き返れないのは私たちにとって常識、でしょ?」

 DEATH UNITには常識が一切通用しない。

 だからこそ今まで“未知”のままだったのだし、これからの“未知”のまま

なのだろう。

 DEATH UNITにとって、人間の常識など糞喰らえなのだ。

 ――ァ「うおおおおッ!」アアアアッ!

「――――そういう常識も、通用しないんじゃない?」

 ブワッ! と辺り一面に黒羽根が舞う。また天涯ノ歯車が現れるのではない

かと警戒したが、そんなことはなかった。

 舞った黒羽根はクロウマキナの体毛だった。体毛が全て抜け落ちて辺りに舞

ったのだ。

 その下には鳥肌が――――無かった。

 そこにいたのは人間だったのだ。

「おおおおぉぉぉぉ・・・・・・・」

 クロウマキナの絶叫の中に混じっていた叫び声をそのままにして現れた人は

二人の良く知る人物。

 すでに死んだはずの人間。

 やはり、DEATH UNITに人間の常識など一切通用しないのだ。

「修之ッ!」

 御堂が駆け寄ると件の人物、日坂修之はようやく状況を把握できたといわん

ばかりの表情で、ありえないほど気軽に挨拶してきた。

「よぉ、十四」

「よぉ、じゃねぇ!」

 どうして蘇ったのか。何があってエクスクレセンス化してしまったのか。

 いろいろ聞きたいことはあれど、最初にかける言葉は一つ。

「よく、帰ってきたな」

「おう」

 その御堂の後ろから緋月が顔を出す。その見知った顔に修之は大層驚いた。

「って、ひ、緋月?」

「うん。おかえり、修之」

 目の前に現れた緋月に修之は頭を抱え、つぶやく。

「現実に帰ってきたんだと思ったけど、やっぱりここって死んだ世界?」

「いや、生きてる世界だが」

「じゃあなんで緋月がいる?」

「うん、死んでなかったからだね」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 どうやら、質問攻めにするのはもう少し後になりそうだった。



復活の修之。最初はこれをタイトルにしたかったんだけど、めっちゃネタバレって思ったからやめました。


また三日後くらいかな。では次回~。

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