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濡羽色

第十七章 十四と緋色の月



 暁と別れてからしばらく走り、もう結構離れただろうか。

 突如背後から暴風のような轟音が響いてきた。

「な、何です・・・?」

 春彦が振り向くがあまり見ることはできない。銀色の何かがチラチラ見える

が建物が邪魔をしてその全貌は見えない。

「あれは暁だ・・・・たぶんな」

「なっ・・・」

 銀色に光る何か。それはビルを超えて見えるほど。いつも暁はそこまでの量

の塵を形成してはいなかった。

 明らかに異常だ。

「あんなに使ったら・・・・」

 朝月は踵を返して来た道を戻ろうとする。それの肩を御堂が掴んだ。

「待て、行くな。何のために暁一人が残ったと思ってる」

「でもあんな攻撃したら――――」

「あんな攻撃だからだ」

 決して掴んだ肩を離そうとしない御堂に折れて朝月はまた前を向いて歩を進

める。後ろから来る台風のような轟音が気になりつつも、前へ進むしかない。

「よく考えてみろ。暁の塵界嵐に人を避けるなんていうテクニックがあると思

うか?」

「・・・・・・」

「少ない量ならできるだろうな。でも、あれだけ膨れ上がった塵じゃそんな細

かい操作は無理だと思う。あの銀色の何かが全部攻撃性だとしたら・・・・・

無闇に戻れば死ぬぞ」

「そう・・・ですね」

 徒歩から走行に変更する。全速だと金が付いて来れないので少し速度を緩め

ながらブリッツタワー・セントラルへと向かう。

 何をするにしてもあの“未知の欠片”に辿り着かない限りは何もできない。

例え辿り着いたとしても何をしていいのかも知れない。それでもアレが元凶で

あることは間違いないのだ。

 だったらまずはその元凶に辿り着くしかない。

 そうして向かい始めた直後、フェイスバイザーが回線をつないだ。

 それはフェイスバイザーを持っているものなら全員が常時接続状態にあるは

ずの共通チャンネル。そこへ誰かが繋いで音声を送信したのだ。

 春彦はフェイスバイザーのディスプレイ―――目から三十㎝ほどの位置にあ

る―――を弄って拡声ボタンを押す。そうすることで音漏れしないフェイスバ

イザーでも外部へ音声を漏らすことができるのだ。

『この通信を聞いている全員に告ぐわ――――――』

共通チャンネルから聞こえてきた声は音無現のものだった。

「現なのかっ?」

『その声、御堂ね。生きていてよかったわ。・・・朝月は・・・・?』

「大丈夫だ、ちゃんと生きてるよ。バイザーが壊れちまっただけで今も聞いて

る」

『そう・・・・良かったわ』

「それより、何があった?」

 走る速度自体は緩めずに息を上げながら会話をする。まだブリッツタワーま

では距離がある。

『あなたたちが聞いてくれてよかった・・・・良く聞きなさい』

 現の声には緊張が漂っている。それに釣られて朝月も御堂も緊張してしまっ

た。

『今さっき、修之のいる病院が倒壊したわ』

「―――――ッ!」

 春彦と朝月、能力発動中の金までもが息を呑む。

『でも、内側からの破壊よ。刃物による攻撃で弦が切断されたわ』

「内側から・・・・・?」

『意味がわかるわね・・・?』

 現の弦に包囲され、常に護られていた病院。しかし、それは内側から破壊さ

れてしまった。

 それの意味するところは――――。

『気をつけなさい。たぶん修之はもう――――』

 そのとき、走る御堂、朝月、春彦、金の道を塞ぐように何かが降り立った。

 それは人間大の大きさで濡羽色の体毛、翼、鳥のような足と手、爪と嘴を持っ

た何か。その濡羽色の体毛は一見すれはカラスに見える。

「え――――」

 そして、その姿をこの場の全員が見たことがあった。

『エクスクレセンス化しているわ――――ッ!』

 ――ァアアアアアアアアッ!

 今までの化け物の咆哮を聞き続けてきた。だが、これほど恐怖をそそる咆哮は

なかった。

 そして、エクスクレセンスを目の当たりにしてこれほど絶望したことも。

「なお・・・ゆきさん・・・?」

 春彦から掠れた声が出る。普通に呼んだつもりだったのに、どもってしま

ったし乾いた喉から無理矢理出したような声色になってしまった。

「修之さん?」

 金の声も掠れ、朝月の声もまた、干からびていた。

 ――ァアアアアアアアッ!

 二足歩行のカラスはそんな言葉を咆哮一つで吐き捨て、その鋭い爪で襲い

かかってきた。

「修之さんっ!」

 朝月が圧砕重剣を生み出す。一撃目を防いだが圧砕重剣では小回りが利か

ず左の爪に引っかかれた。

「うっ・・・・!」

「朝月君!」

 春彦の鎖によって救出されるがカラスの動きは止まらない。そのまま爪を

振りかざして鎖ごと斬ろうとして、

「そこまでだ」

 御堂が割って入る。手に持った針天牙槍が爪を受け止めていた。

 ――ァアアアアアアアッ!

 これでもかというほどの勢いでカラスは攻撃を繰り出す。その全てを御堂

は短くした槍二本で捌ききった。

「答えてください、返事してください!」

 朝月も叫ぶがカラスは・・・・日坂修之だったものは言葉が通じていない

ように意にも介さない。戦うことすらも満足にできない朝月たちを見て、御

堂は言った。

「お前たち、目を背けるな。背けても・・・・何も変わらない」

 短い槍を二本、気を抜かずに構える。

 その姿を、その言葉を聞いて、春彦は思う。

 軌条氷魚――――コールネーム・プレッシャーの時もそうだった。真っ先

にエクスクレセンス化した軌条を敵と見定めたのは御堂だったし、危険と判

断しコールネームを付けたのも御堂だった。暁をあの場に置いてきたのも御

堂だった。今ここで真っ先にエクスクレセンス化した修之を攻撃できたのも

御堂十四だった。

 即決で他人を―――仲間だった人を敵と認識できる。

 それが普段、お気楽で軽い印象のある人物の、正体なのだ。

「現実を見ろ。修之はもう・・・・死んだんだ」

「反吐が出そうなほど、正論ですね」

 春彦が、普段から敬語で喋る彼から出たとは思えないほど汚い言葉で御堂

をなじる。

 そんな言葉にも、御堂はやはり、正論で答えた。

「反吐を吐いてすむなら、いくらでも吐け。それで目の前の現実が変わるの

なら・・・・・安いもんだ」

 本当に吐き捨てるように御堂は言う。眼前の現実を本当に変えたそうに、

それこそ反吐を吐いて変わるのなら・・・・。

 御堂十四とて、やはり一人の人間。

 仲間を敵と認識し、仲間を戦場に一人、置き去りにし、それで心が痛まない

わけがないのだ。

ましてや彼は自分の最愛の人を――――例え生きていたとしても、その手に

かけた。命を奪いかけたのだ。

 仲間を傷つける痛みを知らないわけがない。

「・・・・お前たちは行け」

 追い払うように言う。朝月も春彦も面食らって立ち往生してしまう。

「行けって。どうせお前らじゃ戦えない」

 確かにその通りだ。死んで、エクスクレセンスという化け物になってしまっ

たとはいえ、この三人にとって日坂修之という人物はいわゆる恩人なのだ。

「でも――――」

 しかし、恩人だからこそ、こんな醜い姿で居させるわけにはいかないと、春

彦は思う。この手で葬ってあげるべきなのではないかと、思うのだ。

「つべこべ言うなっ! どのみち誰かが戦わないといけないんだ。だったら俺

が―――」

 ――ァアアアアアアアアッ!

 カラスが叫ぶ。その背後の空間から映像で見た巨大な腕が現れていた。

 人間の胴ほどの太さのある黒い腕は二m五十㎝程度の剣を持っていた。いつ

も修之が戦うときに使っていた“機神の葬器(マキナ・ローズ)”という剣。直線の一切無い、曲

線のみで形作られた剣は銃身色(ガンメタルグレイ)真珠色(パールホワイト)の刀身を煌かせている。

 発光している“未知の欠片”からの光を照り返し、それは美しかった。

「くぅ――――ッ!」

 一本の槍を地面に突き立て長く伸ばす。それで片方の剣を受け止めたあと、

残りの槍を標準サイズに伸ばして二撃目も受け止めた。

「まだやることがあるだろ。あのふざけた結晶ぶっ壊して、とっととこんな

地獄を終わらせてくれ」

 その視線の先には光り輝く“未知の欠片”があった。

「・・・・ありがとうございます」

 春彦のその言葉に含まれていた意味は何だったのか。

 戦いを引き受けてくれてありがとうという意味なのか。

 修之を葬ってくれてありがとうという意味なのか。

 それとも、恩人をこんな姿にした元凶である“未知の欠片”を討つ機会をく

れてありがとうという意味なのか。

 その真意は告げた春彦本人しか知らない。 

 はたまた、言った春彦本人すらその意味を推し量れていないのか。

 三つの足音はその場から離れていく。

 化け物と化した恩人を残して。

 金はとうとう、最後までDUを解除することはなかった。



最近は素早く書けるのでいくつか同時更新を基本としていきたいです。というわけで今回も。


次へ。

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