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ベストパートナー

 結晶化したダイヤモンドダストの中で―――いや、巨大なダイヤモンドの

結晶の中で、暁輩蓮の意識は未だ健在だった。


 ――意識があるなんてな・・・・まぁ、意識だけか。


 肉体の感覚は無い。まるで幽体離脱でもしたかのようだ。

 目も見えず耳も聞こえない。これがDEATH UNITに呑み込まれた後なの

かと思うと、この無の空間が愛おしく思える。

 これが無ければ彼はきっと、狂っていた。

 仲間も、シティも全部、自分の死が原因で蹂躙されていく様など見たいわけ

がない。

 そう考えれば、この空間もあってよかっただろう。


 ――ああ、でも。


 “心残りでもあるのか?”


 ふと、聞き覚えのある―――ありすぎる声が聞こえた。

 でもそれはもう、聞くことなんてできないはずで。


 “無視すんなよ。せっかくまた、喋れるんだぜ?”


 ――その声・・・・氷魚なのかっ?


 もう死んだはずの男。暁輩蓮にとって、子供の頃からずっと一緒にやりたい

放題やってきた腐れ縁の幼馴染。


 “おう。何か知らねぇけど、こうしてまた話せるんだ。僥倖って奴だぜ”


 ――でも、俺は・・・・お前が願ったことを何一つ叶えてやれなかった。


 軌条氷魚は仲間を傷つけたくなかった。だが、結果的に傷つけさせてしまっ

た。春彦の左腕損失という形で。

 軌条氷魚を助けるために、彼が最後に願ったことさえも、叶えてやれなかっ

た。逃げな、と言った彼の言葉を無視して、戦った。

 軌条氷魚は死ぬなと言った。だが結局、暁輩蓮は死んでしまう。それはもう

どうしようもない現実。

 軌条氷魚は助けてくれと言った。だが、助けてやることができなかった。だ

って彼はもう死んでしまっていたのだから。


“色々勘違いしてるっぽいから言うけどな・・・・・”


 姿も見えない、声だけが聞こえる。そもそも、どうして何も聞こえない無の

空間のはずなのに、軌条氷魚の声だけが聞こえてくるのか。

 暁輩蓮は奇妙に思ったが、考えることを放棄した。

 もし答えを見つけてしまえば、今が崩れてしまうかもしれないから。


“まず、俺が言った「助けてくれ」ってのは、殺してくれって意味だ”


 ――・・・・え?


 “あんな状態だったんだ。誰彼構わず殺すくらいなら、死んだほうがマシ

さ。だから殺してくれって意味の「助けてくれ」だ”


 ――そう・・・だったのか。


 “次に!”


 ここ重要! とばかりに強調して言う。


 “輩蓮、お前はまだ死んでない”


 ――は?


 “死んでないんだよ。まだ生きてる。ギリギリだけどな”


 死んでいないなら、なぜこうして軌条氷魚と会話できているのだろう。

 やっぱり、これは妄想か何かだったのか・・・・・。


 “どうして話せるかは知らねぇ。あれだけの戦いのせいでDU同士に何か

あったのかも知れねぇな。それでお前は、俺を殺して、まだ生きてる”


 ――・・・・・。


“俺はもう限界だからよ。魂ごと持ってかれちまう”


 ――どういう意味だっ?


 限界。意味がわからず混乱してしまう。

 何が限界だというのか。ここはもう、死後の世界ではないのか?

 軌条氷魚が暁輩蓮を生きていると言っている。だとしたら、本当に生きて

いるのだろうか。こうして会話できていることが、死んでいる証拠ではない

のか。


 “仕方ねぇのさ。喰われて分かったことだがな、DUは俺たちの魂まで喰

っちまう。だからDUが“未知の欠片”に帰るとき、一緒に連れていかれち

まうのさ”


 ――お、おい、氷魚っ!


 “俺はもうここにはいられねぇから。本当に、これで――お別れだ”


 待ってくれ。

 そう言おうとしたのに。

 まるで、夢の時間は終わりだとでも言うように、無いはずの肉体に激痛が

走る。これはDUが侵食するときの激しい痛みだ。


 “最後に一つだけ、聞いてもいいか?”


 頷こうとしても、身体が動いた感覚はない。

 言葉を発しようとしても、声帯は震えてくれない。

 涙さえも、流れてはくれない。

 伸ばす手さえも無い。

 

“お前にとって、俺はまだ、ベストパートナーか?”


 当然だ。

 そう、言ったはずだったのに。

 やっぱり口は言葉を発しない。

 身体は動いてくれない。

 DEATH UNITが暁輩蓮と軌条氷魚を引き離したように。

 今もまた、引き裂こうとしている。


“そっか・・・・わりぃ、愚問だったな”


 暁輩蓮の沈黙を、彼はどう受け取ったのだろうか。

 肯定か、否定か。

 軌条氷魚の気配が消えていく。遠ざかっていく。

 真意を告げられぬまま。


 届かない手。発せられない声。流れない涙。動かない身体。


 その全てを、今、憎みながら、暁輩蓮は慟哭する。


 届かない手を振り乱し、発せられない悲鳴を発し、流れない涙を流し

ながら。


心の中で――――届けと願い、叫んだ。


 ――当然だろ、氷魚・・・・・。



「一番の相棒」編はこれでおしまいです。長かったです。


最後、輩蓮のDUはその”本質”を垣間見せていました。人体だけでなく、周囲の無機物が根こそぎダイアモンドダスト化したのがその証拠です。夜月のときは元素の刀身構築が垣間見えた”本質”です。


次からは現さん大活躍の予定。では次回~。

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