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相棒のために

 しばらく走って逃げ、途中で金を回収していく。それなりの距離を取ってお

かないと、いつ“万物の圧縮”に巻き込まれるかわかったものではない。

 相当な距離は離れたと思う。遥か後方で未だに暴虐を振りまいている。

「どうするんだよ・・・・あんなの」

 朝月の言うことももっとも。あの調子で建造物を破壊され続ければ隠れる場

所などすぐに消えて無くなる。いや、すでに無いだろう。

 そうなってしまえば隠れて接近することもできず、長い距離を走り続けて奴

の足元まで行かねばならなくなる。たった百m程度の距離をあけての突撃であ

れほどの被害が出た。五倍以上距離のある今なら単純に考えて五倍の被害が出

ることになってしまう。

 故に最初で最後の総攻撃だったのだが―――――。

「打開策はある」

 突然、真剣味を帯びた声色が朝月たちの耳に届く。それは暁から発せられた

ものだった。

「どういうことですか? 今のこの状況から覆す方法なんて・・・・」

「あるんだよ、たった一つだけ」

 どうして隠していたのか。どうして言わなかったのか。御堂の頭の中はそう

いう思考で埋まる。もしそんな方法があるなら最初から言っておいてもいいは

ずだ。だが、言わなかった。

 それには何かしら理由があるはずだ。

「そんなものがあるなら言ってくれても――――」

「何がネックだ? 何が原因で言えなかった?」

 春彦が暁を責めようとしたのに覆い被せるようにして御堂の指摘が飛ぶ。

 ただ隠していただけなら何も問題はないのだ。だが。言うに言えない理由が

あったとしたなら―――聞かないわけにはいかない。

「歳の差か? 春彦は気付かなくて、御堂が気付けたのは」

「そんなに離れちゃいねぇよ。で、どういうわけだ?」

「簡単なんだがな・・・・俺一人で戦えばいい」

「はぁ・・?」

 唖然となる一同。それもそのはず。

 暁は今、四人がかりで倒せなかった化け物に。

一人で挑むと、言ったのだ。

「お、お前バカか? いや、バカだろっ!」

「失敬な。いたって本気だ」

 確かに、暁の目は真剣だ。だが、この場にいる者たちはどうしても信じるこ

とができなかった。

 実際にプレッシャーと戦って死線を潜ったから分かる。

 どんな手管を尽くそうとも、勝てる相手ではないと。

 勝利や敗北といった概念を、根底から覆してしまう。勝利という選択肢を相

手に与えない。

 そんな化け物相手に、どうやってたった一人で勝つというのか。

「俺のDU・塵界嵐は決して受動的な能力じゃない。自分から、攻撃に出るこ

とだってできるんだ」

「で、でも! 一人だなんて・・・・」

「正直、俺が攻撃するなら、お前らは邪魔なんだ」

「・・・・っ」

 暁から飛び出す非情な言葉。今まで攻撃しなかったのは、まるで、朝月たち

が邪魔だったからだ、とでも言うように。

 暁の真意が別にあったとして、それを朝月たちが知る術はない。

「俺は身体を塵に変えて戦う。コントロールはできたとしても、あれだけの巨

体が相手だ。俺が戦うなら、それなりの広さがあるフィールドと奴を十分に囲

めるだけの塵界嵐を形成する必要がある。だが、プレッシャーのあの巨体を囲

めるだけの塵界嵐を形成したら、確実にお前たちも巻き込んでしまう」

 攻撃手段がどうあれ、朝月たちと共闘している以上、塵を使っての攻撃に出

ることはできない。

 そんなことをすれば攻撃の範囲内に戦場にいる彼らはもちろん、離れた場所

にいるはずの金まで巻き込みかねない。

 それは暁としても許せたことではない。

「俺の力は意外と不便なところもあってな・・・・・生み出せる塵界嵐は一種類

のみ。同時に二種類は生み出せない」

 攻撃用の塵界嵐を生み出してしまえば、部分的に変更はできない。巻き込むこ

とを覚悟で攻撃するか、攻撃を諦めるか。その二択しかなくなってしまう。

「提案できなかった理由は、それだけか?」

「―――――ああ」

 返事にはやや間があった。まだ、言っていない何かを隠している風であったが、

御堂は追求しなかった。

 言わないということは知らなくても問題ないと暁が判断したからだ。

 それが心配を誘うものだったとしたら、恐怖を誘うものだったとしたら、今後

の活動に支障が出るかもしれない。

 御堂は、問いただすことをしなかった。

「なら、任せた」

「み、御堂さんっ!?」

「なんでっ!」

 春彦と朝月からの抗議を御堂は睨むことで封じる。言うべきことは後で言えば

いい。

「俺たちは夜月たちを探す。合流してから“未知の欠片”へ向かうつもりだ」

「・・・・了解した。俺も後から追いかけることにするよ」

「・・・ああ」

 プレッシャーがいる方向とは逆の道を御堂は辿っていく。東に位置する場所か

ら中心部へ、今も煌々と光輝き夜を照らし続けている“未知の欠片”が君臨する

場所へ向かって。

「ほらお前らも行くんだ」

 春彦も朝月も金も。有無を言わせぬ言葉に反抗しつつも、振り返り、結局は前

を向く。

 自分には何もできないと知り、だからこそ、策があるという暁に託すしかない。

 邪魔になるだけならいっそ、去ったほうがいい。

「じゃあ暁さん、気をつけて」

「何かあったら連絡しますので、そちらも終わったら連絡を」

 金を引き連れて走り去っていく四人。暁はそれを、安心した瞳で見送った。



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